釣りで遭遇した話 「バス回収箱」
たしか2007年の秋だったと思う。
悪友の亮(りょう)、亮のイトコの淳(じゅん)と滋賀県は琵琶湖にバス釣り(ブラックバス釣り)に行った時の話。
ある時、亮と近くのダムにバス釣りに行ったのだが全く釣れず帰りの車の中でリベンジの計画を練っていた。
そして亮の家に着く頃には琵琶湖遠征の話が組みあがっていた。
で、亮の家に着くとそう年の変わらない男がいた。
彼の名は淳、亮のイトコで俺らより一つ年下だそうだ。
俺らが次の土日に琵琶湖に行くことを知ると是非自分もと言ってきた。
断る理由も無いので一緒に行くことに、ただ亮は一瞬妙な顔をしたあと「ま、いっか」と・・・?
-ウンチク-
ブラックバスとは北アメリカ原産の外来魚でフィッシュイーター。
琵琶湖でも大繁殖して固有主絶滅の危機とかで何かと目の仇にされている。
ただモロコなど日本固有種の激減の理由は同じ外来魚のブルーギルの食害と護岸整備(公共事業)による産卵場所の激減よるところも大きい。
琵琶湖釣行当日、俺たちバサーの朝は早い。
午前二時に出発、午前三時頃に天王山トンネルを通過したときに
亮「なんか見えたか?」
淳「いや、特には・・」
俺「?」
なんだ今のやり取りは?
「なあなあ、今の何?何かあったん?」
「いや実はな、こいつ霊感がけっこう強いんよ」
「え、そうなん?」
「はぁ、実はそうなんす」
淳君は霊感があるいわゆる「見える人」ってやつらしい。
俺はなんだかワクワクしてきた。
「え、じゃあ今までどんなん見たことあるん?」
「そうっすねぇ・・・」
以下淳君が見てきたものの一部
・国道2号線のおばちゃんみたいな何か
・国道312号線の四足動物的な何か
・近所の桜の木にへばりついているカエルみたいな何か
・東京タワーで見た空飛ぶ巫女ぽい何か
・中古車センターの車に乗っている自縛霊一家
・落ちてた財布から禍々しいオーラ
・海で不知火
などなど
「ほー、けっこう見てるんやねぇ」
「まだまだこんなもんじゃないっすよ」
「で見えたらどう対処すんの?」
「基本はガン無視です。俺は見えるってだけで対処の仕方とか知らないっすから」
「ほんとに見えるだけなんだなぁ、でも本当に見えてるん?実は変な薬でも決めてるとかw」
「あははは、バレましたぁ?w」
そんなこんなで怪談とも言えない怪談話で盛り上がりつつ、俺らは目的の琵琶湖についた。
琵琶湖(南湖)についた俺ら、テンションは実に高かった。
実は俺らは琵琶湖初挑戦でその期待たるや半端なものではない。
琵琶湖なら50センチ60センチオーバーは当たり前!ルアーを投げれば即爆釣!
そんな勝手な妄想していたが現実は厳しい。
時刻はすでに正午を回っているがいまだに誰もバスを釣れず。意気消沈する三人。
昼食時にこれからどうしようかと小会議、もう少し車で北に移動して仕切りなおしということになった。
適当に車で北上し、適当に護岸駐車場に車を止め、地に降りた。
岸際を歩いて北上しつつロッド(竿)を振るも全く当たり無し。
そもそもこの季節は護岸付近は藻が大繁殖していてまともな釣りにならない。
次来るときはボートを調達しとかないとあかんかな・・と思いつつ俺らは歩いて北上を続ける。
「あ」
唐突に淳君が声を口に出す。
「なに、どうしたの?」
「おっとこれは、久々に何か見えたかぁ??」
淳君は一瞬動きが固まったてから
「うわ、これは・・・おおおお???」
一方向をマジマジと観察している。
「なんだよ、教えろよ」
「なーんか嘘くせえw」
「いやいや、まあまあ」
一通り観察終えてから淳君は
「あそこに箱があって、その周りで子供が三人遊んでるでしょう?」
「うんうん」「うんうん」
「あの周辺、何かがうようよいるんすよ」
「ブヨ(蚋)じゃね?」
「そんなんじゃなくて・・あ、あの箱から湧いて出てるのか・・」
「???」「???」
「もしかしたらデジカメに写るかも・・あ、駄目か、やっぱり写らないし」
よくわからないが俺らも試しに携帯で写真を撮ってみる。が、やはり何も写らない。
淳君が言うには地上50センチくらいのところまでで全長10センチから40センチくらいの何か分らない「群れ」が湧いているのだとか。
それは「箱」から湧き出し子供たちの足元をまとわり付いているとか。
「実害とかはありそう?」
「さあ?でも近づく気にはなれないっすね」
さらに観察、どうやら子供たちノベ竿で魚を釣っては生きたまま箱の中に捨てているらしい。
そして死んでいく様子を楽しんでるようだ。
暑い中、背中に冷たいものが走る・・
「何やってんだ、あいつら!?」
注意しようと前に出ようとするが淳君が立ちふさぐ。
「近づかない方がいいっすよ、憑かれちゃうかも」
「え、そうなの?」
「可能性高いっす。」
「あんたたち、あれが見えるんだ?」
唐突に声をかけられて思わず振り向くと女の人がいた。
ロッドを持っている、どうやら俺らと同じ釣り客のようだが・・
「あれはね、悪名高い『バス回収ボックス』。そして湧いてるのは魚だったものの残りかすみたいなものかな、よくわからないけど。
まあ大人が近づいてもどうってことは無さそうだけどね、でも百害あっても一利なしな存在だから近づかない方がいいよ。」
「あんた誰?」
「通りすがりの普通のバサーだよ。」
「あれ、止めなくていいんですか?」
そういってバス回収ボックスに魚を捨てて楽しむ子供たちを指差した。
「外来魚を箱に捨てるのは行政が決めたことなのよ、注意する理由なんてある?」
「でも・・」
なんか釈然としない。
「それにあの子達はもう手遅れだから。」
「手遅れ?」
「そう手遅れ。あの子達、思春期に入る頃には楽しんで人を殺せるくらい感性が変貌するでしょうね。きっといつか人を殺すわ。」
俺と亮は怪しい人を見る目で
「なんでそんなこと分るの?」
と問いかけた。
「さあ、なんでだろうね?持って生まれた才能としか言いようがないわ。」
その後少し話をして女の人は去っていった。もう少し詳しい話を聞きたかったが仕方が無い。
帰りの車の中は例の話で持ちきりだ。
女の人が言うには回収ボックスの形は問題がありすぎるとのこと。
あれは祭壇的な形であり生きたまま放り込まれる魚は生贄と変わらない、野良幽霊や野良神や野良妖怪のかっこうの住家になり力を増大させるらしい。
そして俺たちが見た回収ボックスの中にも得たいの知れない何かが巣くっていたらしい。
しかし琵琶湖周辺の全ての回収ボックスが同じ状況にあるというわけでは無いらしく、ほとんどは何も居ついていないのだとか。
まあ確かに外来魚のブラックバスやブルーギルを生贄に出されて喜ぶ日本の神やモノノケは少なさそうだ。
「ところであの女の人・・」
「ん?」
神妙な顔して淳君が語る。
「あの女の人、おっぱい大きいかったすね!」
場の空気をぶち壊す淳君、以後おっぱいの大きさと霊能力の関係について盛り上がりつつ俺らは帰った。
月日は流れ・・
それにしても気になるのは
「子供たちはもう手遅れ」
の言葉。
本当に手遅れなら2012年現在、あの子供たちももう中学生か高校生くらいのはずで殺人を犯しているかもしれない。
しかしながら琵琶湖周辺や滋賀県で重大な少年殺人事件の話は聞かない。
もしかしたらバレないように殺しているのか県外に引っ越して殺しているのかもしれないが。
まあ女の人の予言は外れたんだろうと今は楽観しているが。
おわり