うちの地方じゃインコババアっていう妖怪がいる。
うちの地方じゃインコババアっていう妖怪がいる。インコババアは
婆さまの見た目をしているんだが、インコのような頭をしていて、
誰かの言ったことをそのまま繰り返すっていう、笑えるんだか怖いんだか
よくわからないキャラ設定なんだよ。
おそらく、いろんな人の目撃談が混じってそんな想像上のババアを
作り上げたんだろうけど、爺さま婆さまはインコババアをたたりのように
恐れていて、何かよくないことがあったら、「インコ様の祟(たた)りじゃ」ってんで
お払いに行くわけ。まぁ、よくないことが起こったら誰かのせいにして
厄落とししたい気持ちもわかるけど、インコババアはないわなwお笑いだよww
田舎の因習(いんしゅう)ってやだやだって思うだろ?実際俺も思ってた。
出たんだよ、インコババアが。
田舎っつっても若い衆が5、6人いるんだが、あるとき寄り合いというか、
村の集会があったんで、そのあと5、6人で集まって、神付岩っていうでっかい
岩の前でだべってたんだ。神月岩の周辺っていうのが鬱蒼(うっそう)とした森で、
ちっちゃな社以外はなーんにもないんだけど、まぁ少し雰囲気のあるところで。
朽ちた像とか、左手の欠けたお地蔵さんとか、しめ縄とか、曰くのありそうな
ところなんだよね。
俺たちはこえーとかギャーギャー騒ぎながら、そこらで楽しんでたんだ。
「おほっ、ユーレイとか出そうじゃね?」
誰かが言ったんだけど
「おほっ、ユーレイとか出そうじゃね?」
そっくりそのまま繰り返すやつがいるんだよね。酒も入ってたし、誰かの冗談かと思って
「おい、ふざけんなよ?」
って俺が言ったんだけど
「おい、ふざけんな!」
微妙に違うトーンで返してきやがる。正直俺は、おしっこちびりそうだった。
てか、半分ちびってた。インコババアが出ると何か祟りが起こるって話だったし、
ビビって膝ガクガクだった。
俺の仲間で、タイチっていう一番度胸が座ったやつが、暗闇の方に向かって叫んだ。
「てめーふざけんな!!出てこい!」
タイチの度胸をこのときばかりは呪ったね。ユラユラと明りの方に向かって
何かが動いてくるんだ。街灯の薄明かりにぼんやりと人影が映ってきて。
「てめーふざけんなよ!」
脳裏(のうり)に響(ひび)くようなモヤモヤした声で、そいつは言ったんだ。
ボイスチェンジャーっての?ああいう声。
怒ってる!何か知らないけどこいつは俺らに悪意を持ってる!
考えるよりも早く誰かが走り出した。俺もそいつに続いた。足が自分の物じゃない
みたいだ。フワフワと地面を飛ぶ感じ。俺らが”オダイジンさま”って呼んでる
そこに辿り着いたときには、足がガックガクで手に力が入らなかった。
タイチも、当然そこにいると思った。
ところが、あとから辿りついたやつらを見ても、タイチだけ見当たらないんだよ。
「タイチは?タイチは戻ってこなかったん?」
俺は全員に聞いたが、みんな青白い顔して首を横に振る。タイチと一番仲の良かった
ユウジに聞いてみたが、彼もタイチの行方を知らなかった。
「タイチは…タイチはアイツの方に向かっていった。俺、やめろって叫んだんだけど
ババアにやめろって言われて。怖くなって…」
ユウジは泣きながら叫んだ。
「ババア、インコの顔のくせに笑ってやがった。くちばしのはし歪めて」
俺は、ユウジの肩に手をのせて慰(なぐさ)めた。
「ユウジ、きっと大丈夫だよ。誰か人を呼んでこよう」
「ユウジ、きっと大丈夫だよ?」