「今うち(家に)誰もいないから…遊びにこぉへん?」
「いいの?」
こんな感じて初めて彼女の家に行くことになったが場所が分からないので住所を教えて貰い調べた。
意外に近く、ある程度知っている場所だったので歩いて行くことにした。
仕事先で出来た彼女と何度か外でデートを重ねたある日、夜の11時すぎに電話が掛かってきた。
「今うち(家に)誰もいないから…遊びにこぉへん?」
「いいの?」
こんな感じて初めて彼女の家に行くことになったが場所が分からないので住所を教えて貰い調べた。
意外に近く、ある程度知っている場所だったので歩いて行くことにした。
近辺まで来るとそこは閑静な住宅街でこんな感じになっていた。
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/ / / 線 路 / / /
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←│家│☆│←│駐車場│←│家│家│→
←│家│家│→ 道 ←│家│家│→
←│家│家│→ 路 ←│家│家│→
←│家│家│→ ←│家│家│→
「家」はもちろん住宅で、矢印は住宅の向きを表している。
つまり各々の家が道路に面しながら背中合わせになっている状態で角地の「☆」が彼女の家のはずだった。
で、お気づきの方もいると思うけど線路と小さな駐車場に面している彼女の家だけが住宅の進行方向が逆でこちら側から入ることが出来ない。
おかしいなぁーと思いながら反対側に回って見るも当然、そこは別の人の家で表札も「山本(仮名)」となっている。
彼女の名前が「佐藤(仮名)だから」この家ではない。
もしかしたら二世帯住宅みたいな感じで家の中で繋がってるのか?彼女の家だけ2つ分合わせて1つなのか?
と色々考えたがラチが明かないので彼女に電話した。
が、いくら鳴らしても繋がらない。
深夜だからその「山本」さんのお宅に問う訳にもいかず、ウロウロして不審者扱いされてもなんなので
「寝たん?」
と彼女にメールだけ打ち、諦めてその日は帰った。
次の日仕事先で顔を合わせると彼女が
「なんで昨日来てくれへんかったん…?」
と悲しそうな顔をする。
俺は入り口が見つからなかったことや、電話したこと、メールを入れたことを伝えたが、彼女は連絡もメールも貰ってないという。
彼女が携帯を俺に差し出したが、俺からの着信履歴はなく、メールもない。
俺が送ったメールは別フォルダに区分けして全て保存してくれているらしいが
「寝たん?」
と書かれたメールはない。
結局その日のバイト終わりに一緒に彼女の家に行こうということになった。
彼女も入り口が分かりにくいのは事実で、面している駐車場はお向かいのお宅の土地で、家の前に車も止めているし夜だったので分かり辛かったのだろうということで話しはまとまった。
ところが仕事を始めて2~3時間で彼女がお腹が痛いと真っ青な顔をしてその場にヘタリ込み、早退した。
心配だった俺はバイトの休憩中や終わりに電話したが繋がらない。
昨日のこともありついにイライラしてきた俺はバイト終わりに彼女の家に向かった。
ところが昨日と違い、入り口は他の家と同じくこちらを向いてる。
(あれ?入り口がある…!!)
そう思いながら表札を確認するとちゃんと「佐藤」。
彼女に何度か電話したが相変わらず繋がらない。
心配で仕方がなかったのでインターホンを押したが反応はない……。
3度目のインターホンを鳴らした後、諦めて帰ろうとした時ガラガラっと青い顔した彼女が出てきた。
「あ、ゴメン。寝てた?」
彼女はハッとした顔をして
「あ…来てくれたん?」
と力なくいった。
「ゴメン、気になったから。電話も繋がらないし」
「うん…寝ててん。とりあえず家入って」
「え、いいよ。悪いし」
「まぁ、いいから…もう大丈夫やし」
こんな感じのやり取りをした後、俺が一緒に居たかったのもあって彼女が寝ていた居間へと上がった。
結局、元々生理痛がひどい体質らしく特に今回は酷かったとのこと。
入り口もちゃんとこちら側を向いていたことも伝えて、元気を取り戻した彼女と話し込んでいると、お母さんらしき人が帰ってきた。
挨拶して彼女がことの経緯を伝えると
「晩ご飯一緒に食べていって」
という。
一度は断ったものの、「じゃあ」とおい葉に甘えて頂いていくことにした。
そうこうしているともうだいぶ夜も更けてきた。
俺も彼女も子供ではないから時間は構わないが、お父さんが帰ってきては気まずいと「もう夜も遅いし帰ります」と二人に告げた。
「そう、ありがとうね」といって、ちらりと時計を見やったお母さんの表情が急に変わって今日はもう遅いから泊まって行きなさいという。
「いや、でも男だから夜道も大丈夫ですし、僕がそばにいたらご両親も色んな意味で心配でしょうし」
と笑いながらいったが、お母さんの態度は強く
「いいから。うち母子家庭だから気にしないで」
という。
「いや、でも」
と粘る俺に
「そういうことになってもいいわよ。若いんだから!!、むしろその方が安心よ!!」
とお母さんは声を荒げた。
尋常じゃない雰囲気に困っていると彼女が
「一緒にいようよ」
とこんな時に限って甘えてきた。
「もう遅いから、12時過ぎるから、ね?……ね?」
と輪を掛けてくるお母さんに押され、結局泊まることにした。
結婚させたいのか……?
母子家庭だから男手が欲しいのか?
それとも12時過ぎると何かあるのか?
色々考えたていたら寝付けずにトイレに行きたくなった。
場所が分からずウロウロしていると
「どうしたの?」
と後ろから声が掛かりビクッとなった。
振り返るとお母さんが寝巻きにストールのようなものを羽織って立っていた。
「いや、すいません…トイレに行きたくて」
そう伝えると
「そっちよ」
と静かな口調でお母さんは俺の背後を指差した。
一度、そちらの方向を見て
「あ、こっちですか」
と振り返るとそこにもうお母さんはいなかった。
「あれ?」
消えた。
そう思って再度トイレの方向を見るとお母さんがいた。
「ほら」
お母さんがそう呟いた。
「え?あれ、あのおれ…僕いま」
「外には出ないでね。まぁ、出れないけど。」
訳が分からず押し黙っていると
「トイレ、そっちよ……。行かないの?」
とさっきと反対方向を指差した。
今いちどうしたらいいか分からず突っ立ていると、お母さんは居間に引っ込んでいった。
俺はトイレに行かず彼女の部屋になんとか戻り、よく分からないが怖くてすぐに寝た。
あれ以来彼女の家には行ってない。