もう10年ぐらい昔のことだけど、その頃戸建の借家に住んでいた。
ある日、近所の空家(そこも借家)に引っ越してきたんだけど、挨拶もないし
自治会長が訪ねても人はいるらしいのに出てこない。
軽自動車が1台あるんだけど、運転席以外はダンボールがみっちり乗せてあって
隙間には汚いタオルやゴミにしか見えない袋状のものや色褪せた古い雑誌が詰めてあって
あれじゃあ運転席から左側と後の視界が取れないんじゃないかってぐらい。
あんなの走ってたら警察に注意されるだろうに。
その車があまりにも異様だったから、その家のことはちょっと警戒し始めていた。
それが完全にオカシイと思い始めたのはある雨の日。
ポツポツじゃなくてザーッと本格的に降っていた日に出掛けようとして目に入った。
雨の中をそこの奥さんが庭に布団を干そうと出してる最中だった。
いや、干すどころか濡らす為としか思えないし、何故そうするのか意味不明。
その行為も異様だったけど、全くの無表情で雨を気にする素振りもない。
なんかゾッとしてそれ以降は見ないようにして出掛けた。
その事があってから、元々なにか変だと思ってたのが確信になって
当時未就学だった子供たちには近づかないように厳しく言いつけてた。
その後隣市に引っ越して、その家のことはすっかり忘れてた。
が、昨年、当時仲の良かった近所の奥さんを訪ねて
久しぶりにその街に行ったら、例の家があったところが更地になってて
その奥さんに聞いてみたら、私が引っ越した翌年ぐらいに火事で全焼したらしい。
焼け跡から奥さんらしい遺体が発見されたそうだ。
大家さん曰く、夫婦と子供ふたりで入居するって話だったのに
奥さん以外見かけなくてオカシイオカシイと思ってたらしいが、
何度か訪ねても奥さんしかいないし、質問には答えないし、
玄関からすごい汚部屋でとんでもない人に貸してしまったと困ってた所らしい。
おまけに火まで出されて死人が出ては建て直しても借り手つかないしって更地にしてるらしくて。
だけどもっと気の毒なのは貰い火事で半焼したお隣さんで、
30代で頑張ってマイホーム建てたのにそんなことになって奥さん泣いてたって。
うちに帰って、その話を家族にしたらもっとビックリしたのが
子供たちがその家の奥さんのこと“怖いおばさん”としてよく覚えてたこと。
私が「近寄るな」と教える前にそこんちの前を通った時、
そのおばさんが「おいでおいで」と手を振ってきたそうだ。
だけどその笑い方がなんか変で怖くて気持ち悪くて逃げて来たらしい。
うちの子の危機察知能力に感心したし、何もなくて本当に良かった。