コトリバコで懐かしくなって思いだしたので、ちょっと語ってみる。
まさにコトリバコが流行った当時、これをネタに自称霊感女を
ひっかけてやろうぜwwwといいだした友人がいた。
早い話が、コトリバコらしき物を自作していかにも曰くありげに見せて
怖がらせよう、と……まあ、悪趣味な話だ。
普通だったら誰かが止めるんだろうけど、その自称霊感女は
これまで色々やらかしてたこともあって、言いだしっぺとは別の奴が、
偽コトリバコ作りを引き受けた。
地味であんまり目立たない奴だった。
でも手先は器用で、自分でアクセサリー作ったりとかしてた。
そんな奴が、箱じゃないんだけど……なんていうんだ、茶道で使う
ナツメっていうんだっけ、あれを古道具屋で安く買ってきて、
いかにもそれらしく細工したわけだ。
そして「うちの蔵を片づけてたら~」な役目は、言いだしっぺが
引き受けた。
コトリバコを参考に、言いだしっぺが「この前実家に帰ったらさ~」と
飲み会などで話を持ち出し、自称霊感女の興味をひいた。
別の奴は「そういえばネットでこんな怖い話みたんだけど!」と、
これまた自称霊感女に情報を与え、誘導していった。
言いだしっぺの実家は、ほんとに昔武家屋敷だったとかで、説得力は
あったと思う。
ちなみに製作者は言いだしっぺに偽コトリバコを預けてからは、
俺らの中に混じって素知らぬ顔で、自称霊感女と接していた。
言いだしっぺが「そうそう、この前言ってた、蔵の中で見つけた変なもの、
今日持ってきたんだ!」と、偽コトリバコを取りだした。
見た瞬間「ヤバいよ、これヤバいよ!」と騒ぎ始める自称霊感女。
そしてネットで見たとは言わずに、いかにも自分が関係者のような顔をして
コトリバコの説明を始める自称霊感女。
俺はそんな彼女を無視して「そんなの作り話だろwwwwwこれ開けてみれば
いいじゃんwwwww」と、偽コトリバコを開ける役目だった。
この時点で、偽物の中身は知っていた。
ちなみに偽物の中身も、今思うと本当に悪趣味なんだが、本物に
似せていた。
おもちゃ屋で悪戯グッズの指買って、血みたいに塗ってさ。
まあ冷静に考えれば、本物だったら中に入ってるのは干物状態だろうなと
想像はつくんだろうけども……
とにかく俺は、本気でおびえる自称霊感女と、心配そうに見守るフリをする
仲間の前で、偽物を開けようとしたわけだ。
見守る皆が「やめなよ!」とか「やれやれwww」とか煽るなか、俺は
偽物の蓋に手をかけた。
けどこれがあかないんだ。すっげー硬いの。
思わず製作者のほうを見ると、製作者も「???」な顔をしていた。
それでもムキになって開けようとしていると、不意に誰かが俺達の席に
近づいてきた。
「あんたそれ絶対開けるなよ」
って突然声をかけられて、思わず振り返ると、ハーフっぽい顔の男が立っていた。
ハーフっぽい男は俺の手から偽物を取り上げると、俺達をじろっと睨んで
「どうせ要らないだろ?これ。貰ってくわ」
と言い捨て、さっさと店を出ていった。
残された俺達はポカン状態。
いったい何だアレ?もしかして誰か仕込んだ?とか思ってると、
さっきの男の連れらしいのが(なんで連れって判ったかというと、店を出て行く
男に向かって「おいちょっと待てって!」と声をかけていたから)話しかけてきた。
「あー…なんかごめんね?あいつ変わってるでしょ。でもまあ許してやって」
とか適当なことをいいつつ、支払済ませて出ていった。
ちなみに自称霊感女は、男が偽物を持って出ていった後、安堵のあまり
ガチ泣きしてた。
俺達は肩透かしをくった気分だったけど、当初の目的だった
「自称霊感女を本気で怖がらせる」ことができたので、モヤモヤしつつも
まあいいか……となり、その日は解散した。
びっくりしたのは数日後。
怪しいハーフ男は、当時大学生だった弟の同級生だった。
仕事終って会社を出たら、弟とそいつが待ち伏せしてた。
話していた。
それがどこでどう繋がったのか、正直気持ち悪かった。
知り合いだと紹介されて、最初は俺らの計画を止めるために
わざわざやってきたのか??とか思ったんだけど、俺らが集まったファミレスに
ハーフ男がいたのは、本当に偶然だったらしい。
まあ弟とは生活圏被ってたから、奇跡的な偶然てわけじゃないかもだけどな。
俺の顔を見て開口一番、ハーフ男は
「ああいうの、もう作らせない方がいいっすよ」
と言ってきた。
最初は悪戯のことを言われてるんだろうなと思って、
俺らもハーフ男の介入があったおかげで、かなり悪趣味なことしたよなー…
という自覚があったので、年下に説教される我が身を恥じつつ
「うん、まあ、もうしないわ」
とか言ったのね。
そしたらハーフ男はため息ついて
「オカルトとか好きなんですよね?だったら本当にヤバいものがあるってこと、
なんとなくわかりません?」
と言った。
背筋がぞわっとした。
「あれを作った人は、その気がなくてもそういうもんを作っちゃう人です。
たとえ中身が本物じゃなくても、相手に対してなんらかの悪意があれば、
本物に近いモノになりますよ」
ハーフ男はそれ以上詳しい説明はしなかったけど、なんか腑に落ちた。
製作者は学生時代、自称霊感女に振られたとか、霊感女のせいで当時の彼女と
別れたとか、そんな話を聞いたことがある。
どっちも俺にとっては後輩で、詳しい話を聞いたわけじゃなかったけど、
偽物作って騙そうぜwwwとなった時、製作者がやたらと張り切ってたのを思いだした。
弟はもうちょっと、ハーフ男から色々聞かされてるらしかった。
なのでしばらく経ってから、酒飲ませて色々聞きだした。
ハーフ男に対する興味もあったしな。
弟から聞き出せたのはこんなかんじ。
・ハーフ男は本当にハーフ。母親がロシアだかあのあたりの出身。
・霊感相当強いらしいけど、滅多なことではそれに触れない。
・本当にヤバそうな時だけ、的確に動く。
・偽物製作者は言ってみれば、祟られ屋の呪詛専門バージョンみたいな血筋の生まれ。
マジで?と思ったけど、弟を通じて関わりができてから、
二回ほど思わぬタイミングで助けてもらったからなぁ……
ちなみに俺、というか俺の友人が助けてもらった一回が、
二年ほど前に製作者が突然死した時な。
製作者とは偽コトリバコの一件以来、あんまり連絡とってなかったんだけど、
ある日別の友人を通じて「死んだ」と知らされた。
まだ若くて特に病気もなかったのに、自宅に戻って朝起きてこなくて……という
パターンだ。
「あの人死んだんでしょ。手作りのものを誰かにプレゼントしてると思うんで、
回収してください」
って、すげー無茶を言われた。
意味不明だと思いつつも、俺は友人に連絡とって、とりあえず製作者が作った
アクセサリーを回収しまくった。
集めたそれを、ハーフ男は分別して、ヤバそうなもんだけ持っていった。
そのうちの一つ(指輪だった)は、なんかもう俺が見ても、これちょっと……
ってなるようなものだった。造形が気持ち悪かったとかじゃないのにな。
ハーフ男いわく
「あー半分は俺のせいかもですね。
あんたらの悪戯の一件で、自分が本物を作れることに気がついちゃったんだと
思いますよ。早死にしたのもそのせいでしょうね」
だそうだ。
幸いにというか、あの一件以来俺は距離を置いてたので知らなかったんだが、
製作者は以前にもましてアクセサリー作りに精をだし、作ったものは
気前よく人にあげてたそうだ。
一番ヤバい指輪を貰った俺の友人は、そうとは知らずに、製作者が
片想いしてた女と結婚した男だった。
個人的に「祟られ屋の呪詛バージョンの血筋」ってのが笑えない。
「そういう知識がなくても、先祖から引き継いだ血ってのはバカにできませんよ」
ってハーフ男に言われたのが、なんか印象に残ってる。
今は海外にいるらしいけどな、ハーフ男。
またいつかひょっこり連絡あるんじゃ…という予感があるんだが、連絡あるってことは、
俺の周辺にそういうトラブルが発生した時だと思うと、ちょっと複雑だ。