今から5~6年前ぐらい、会社の先輩と2ケツでツーリングに行った時の話です。
ツーリングに出掛けたのは夏の終わり頃、日中は汗ばむが、陽が暮れると肌寒くなるぐらいの時期でした。
ツーリングの前日、一緒に行く先輩の家に泊まり、二人で地図や観光案内を見ながら何処に行くかを話し合い、道の駅や絶景スポットなど、いくつかの目的地を決め、数ある目的地の一つに観光マップに載っていた『滝』をルートに組み込みました。
そして翌日、自分が運転。先輩が後ろのシートに乗りツーリング出発。天気も良く、いくつか決めたルートも段取り良く回り、いよいよ見所の滝へ向かうぞ~とテンション高めでバイクを飛ばして行きます。
さてこの滝なのですが、関西の南のほうに位置する滝で、人手が少なく落差もかなりの高さがあり、更に滝壺の裏に回る事が出来て、流れ落ちる見事な滝を裏側から見れるというものでした。しかも観光案内の雑誌に載ってるぐらいなので期待出来るだろうと。
しばらく走っていると『○○滝↑』という古ぼけた小さい立て看板が出てきたのでその看板に従い走っていると、地図には載ってない細い山道にどんどん入っていく。上り下りが激しくなり、道も車じゃ通れないほど細く荒れた道になっていた。
本当にこっちで合ってんのか?という不安を抱えたまま結構長い時間バイクを走らせ、ようやくその滝の入口らしき場所に到着した。雑誌に載っていたほどなので最低限の駐車場的スペースを期待していたが、駐車場どころかバイク一台止めるスペースすらも無かったので、仕方なく山肌に立て掛けるような感じでなんとか止めました。
バイクは止めたもののまともな案内看板などは無く、山中への入口(?)からは滝は全く見えず、滝の流れる音すらも全く聞こえませんでした。しかし通って来た道にもそれらしい入口も無かったので多分ここだろうと。とりあえず一服して(ちゃんと携帯灰皿は持ってます)さァ山に入ろうか、としたところで急に先輩のMさんが渋りだす。
M「俺はここでいいや。○○一人で行っておいでや」
俺「いやいや、なんでなんスか。せっかくここまで道なき道を走って来て滝は目前やのに」
M「いや…まァ…滝まで遠そうやし、体力無いからこの山道を歩いて行くのはしんどいわ。ここでのんびりしとくから○○行って来な。あとで写真見せてもらえたら俺はそれで十分やから」
俺「…分かりました。ほんなら僕一人で行って来ますわ!写真見てからやっぱり見に行けば良かったァ~って思っても知らないっスよ!」
そんな感じのやり取りをして自分一人で滝まで行く事に。
山道へ入り5~6分ほど歩いてもまだ滝の音すら聞こえず、最初は歩きやすかった道も奥へ進むに連れてどんどん歩きにくくなり、バイク用のブーツだとかなり厳しくなってきた。そして、滝へ近付くに連れて段々と心細いような、不安な気分になりました。まァさっきまでMさんと一緒にいたのに急に一人っきりになったからだろうな~なんて思いながら歩を進め、大体10分ほど歩いたところで滝の音が聞こえ、大きな滝が姿をあらわしました。
雑誌に載っていた通り凄く立派な滝で、実際に目の当たりにすると言葉を失うほどでした。しかしそんな感動的な気持ちとは裏腹に「早く戻りたい」という感覚がありました。普段なら滝を眺めながら一服してしばらくのんびりするンですけど、この時ばかりは何故かそんな気分には全くならない。元々一人っ子で一人でいるのは慣れてるし寂しいとも思わないハズの自分が、早くMさんのいる場所に戻りたいと思っていました。
「ここまで来て一人でいるのが心細いなんて情けないこと言うてられるか!せめて滝の綺麗な写真は撮らんとな!せっかくやから滝の裏側も見ておかんともったいない!」と、自分に言い聞かせて、持っていたデジカメで何枚か滝の写真を撮影。しかし何枚撮ってもピントが合わず、全てピンボケの写真ばかり。
この辺りから「もうここには居ないほうがいい。写真も撮らないほうがいい」と思い始めたのだが、せっかく来たのに…という悔しさが勝り、半ば意地になってもっと綺麗ないい写真を撮ろうと少し場所を移動。
滝の真ん前から少し左側にボロボロの梯子が立て掛けてあり、滝の裏へ行けるようになっていた。その梯子を上って左斜めの角度から滝を撮ろうと梯子に手をかけた時、なんとも言えない空気が流れました。自分は霊感が全く無いので上手く表現は出来ませんが、とにかく進みたくない重たい空気。
霊感が無いせいか、危ないとか怖いとかの感覚が無く、自分としてはこのワケの分からない感覚が何なのか分からず、躊躇いながらも梯子を上りました。
梯子を上ると多少の広さの空間があり、清掃されていない泥や蔦だらけの木のベンチが一つ。そして、梯子を上る前よりも更に澱んだ重たい空気。それは滝の裏へ近付くほどに重さを増すような感じで、あまりの異様な空気にそれ以上は全く進めず、そこで写真を撮ったらすぐ戻る事にしました。
デジカメの電源を入れて滝に向かってシャッターを切ると、テレビの心霊番組でやってるのと同じようにいきなり電源が切れました。何をどうしても電源が入らず、一度バッテリーを抜いてから再度電源を入れて撮影開始するも手動ではシャッターが切れず、セルフタイマーで撮影を試みる事にしました。
泥や蔦などで汚れたベンチの多少綺麗な場所にデジカメをセットしてセルフタイマーを作動させ、自分は滝を背にした状態でデジカメのほうを向く。そして時間が来たらタイマーで自動撮影。上手く撮れていないとマズいと、念の為もう一枚同じ手順でタイマー撮影。
写真を撮り終え、撮った写真がどんなものか確認しようとデジカメを手にするとまたもや電源が切れました。ここまで連続して怪現象が起きるとさすがに怖くなり、もう写真確認どころじゃないとその場を立ち去ろうとした時、
『パシャッ!』
…と、操作もしていない、ましてや電源の切れたデジカメのフラッシュが急にたかれたかと思うと、耳の裏から背中にかけて今まで感じた事の無い凄い悪寒。一瞬にして全身に鳥肌が立つのが分かり、血の気が引くほどゾクッとしました。その悪寒と同時に、ベッタリと張り付くような感じの視線を背中の1m後ろぐらいに感じました。
怖い話の中でよくある「視線を感じる」という表現を、いつも「視線なんてそんなに分かるか?w」と小馬鹿にして読んでましたが、実際に自分が体験するとこれほどまでに分かるものかと痛感。肌や感覚で分かるほどの視線というのは、重さと粘り気のある見えない空気に触られてるような気持ちの悪い感覚と寒気でした。
「いやいや、これはアカン。ホンマにアカンやつや。心細いとかじゃない別の違和感を感じた時点で戻れば良かった…」
自分は霊感なんて無いです。姿を見た事も無ければ音や声を聞いた事すら無い。それでも、今この場で振り向いたら確実に『なにか』を見るだろうと思い、自分の戻るべき道だけを見ながら進みました。この時点でもう半泣き。
上って来た梯子を下りる時は、梯子を下りる自分を上から『なにか』が見ている感覚が常にあり、とにかく足を踏み外さないよう、そして絶対に上を見ないよう慎重に降りました。
そのまま来た道を戻るのですが、何故か自分の頭の中には「急いだら転ばされる」という感覚(?)がありました。Mさんとバイクの待つ山の入口までは徒歩で10分。もし怪我でもして歩けなくなれば助けも呼べない。自分がこの場に残る羽目になると、恐らくその『なにか』の思うツボだと思い、足下をしっかり確認しながら決して急がず焦らず、そして絶対に振り向かないように何も考えず来た道を戻りました。
しばらく無心のまま歩き続け、ようやく入って来た山の入口が見え、小さくMさんの姿と自分のバイクが見えました。すぐにでも駆け寄りたかったンですが、ここで無駄にMさんを怖がらせても仕方ないなと思い、精一杯平常心を保ちゆっくりと山を抜けました。
M「遅かったな。どうやった?」
俺「いやァ~、メチャクチャ良かったっスよ!やっぱ雑誌で見るのと実際に自分の目で見るのとはちゃいますね!」
M「そっかそっか。ほな出発しようや」
俺「えっ?ちょっとぐらい話し聞いて下さいよ。一服もしたいし」
M「うん、あとで聞くわ。とりあえずこの場所から離れようや。○○がどうしても滝が見たいって言ったから我慢してたけど、俺この場所は嫌や。今は○○だってそうやろ?」
俺「俺っスか?いや別に…涼しくて気持ちいいなァ~ぐらいですけど…」
M「いや、もう嘘つかんでエェよ。よっぽど怖い思いしたんやろ。必死に平常心保とうとしてるけどさっきからメッチャ声震えてるし、なによりな、○○が山から出てきた時の顔色が尋常じゃなく真っ青やった。今も青冷めてるで。ミラーで見てみ?」
Mさんに言われるがままバイクのミラーで自分の顔を見た。これが本当に自分なのかと思うほど血の気が無く真っ青になり、自分の顔にも関わらず、ミラーに映る顔は生きてる人間の顔じゃないように思えた。その瞬間、全身が痙攣するほど激しい悪寒に襲われ、またこの悪寒とほぼ同時にMさんに強く背中を叩かれた。
M「分かったやろ?とにかく早くここから離れようや。しばらくは意識しっかり保ってくれぐれも安全運転でな」
バイクを発車させてからずっとハンドルを握ってる腕がガクガクしながら乗っていたのが、滝から10㎞ほど離れたあたりで全身の悪寒がピタッと止まり気分が凄い楽になった。後ろに座るMさんに「もう大丈夫です」と声を掛け、ほどなくしてコンビニで休憩した。
Mさんいわく、滝(山)の入口に着いた時点でそれ以上はどうしても足を踏み入れたくなかったんだそう。俺の場合は全く霊感が無いので大丈夫だろうと。なにより楽しみにしていたツーリングの途中でそんね霊的な話しで気分を盛り下げるのが可哀想で止めなかったのだと。自分としては是非とも止めてほしかったが…ww
Mさんは「見える」というより「感じる」らしく、俺が山から出てきた時にも『なにか』の姿までは見えないが『なにか』の存在感(?)みたいなものはずっと感じていたので一刻も早く離れようと提案してきたらしいです。ある一定の距離を置いて悪寒が無くなったのは「よく分からんけど諦めたンじゃないの?」と話していた。そりゃまァ必死に訴えかけられても見えも聞こえも触れもしなけりゃ誰だって諦めるンでしょうね。
ツーリング自体はそのまま決行しました。滝のせいで時間がズレてルートは変更せざるを得ませんでしたが、Mさんも自分も無事故無違反で家路に着きました。