私の家系は洪水を鎮めるために、進んで人身御供をするくらい信仰深い家だったらしい。しかも、それをした子がまだ3歳だったとか…。この時点で嘘くさいし、その結末も竜神様のご加護で悪運が強いとかありきたりな話。話してくれたおじいちゃんも家族もだれも信じてなかった。
すっかり記憶から消えて私が大人になったある日。
私が新婚旅行の代金を支払いに行く日の朝のことだった。
その怪奇現象よりも怖かったのは、空間そのものが臭い!!生臭い!!!
息をするたびに生臭い魚の汁を飲んでいるみたいだった。
それからジェットコースターの時みたいにお腹がフワフワして、身体に力が入らない。その状態でドア越しには生き物の気配がする。寝室の窓から脱出して自分の車に飛び乗るも、車検をしたばかりの車が動かない…。
すべてにおいてこの21世紀に、あり得ない事態が何よりも怖かった。
しばらくして、私の前をある夫婦がのった車が通り過ぎると、あっさり車が動いた。
車に置いておいた予備の靴を履いて代理店に向かうも、着く前に私の旅行の担当者から電話が入った。
新人の手違いで旅行の宿泊先と日時がある客とブッキング。しかもその客は手付金を支払って帰ったそうな。
予定を一カ月も早めることになり、私たちは夫婦共々、仕事先に迷惑かけるわ、クソ寒い中の温泉で風邪を引いてこじらせるわ、旅行先でお土産よりも治療費がかかって離婚寸前まで揉めた。職場でも針のむしろで、もう職場を辞めて離婚しようかと思ってた。
それから一ヶ月後、昼休みは終わったというのに職場の休憩室が騒がしい…。やがて上司に引っ張られて休憩室に行くと、テレビであの震災の映像が流れた。
自分は↑思い当たる筋があったから落ち着いてたけど、職場のみんなは真っ青。その日は私だけ早く返された。ラッキーと思いながら帰宅すると、旦那と厳しい姑が泣きながら飛びついてきた。
あの話で先祖は恩恵を受けるが、あくまでも悪運でしかないから誰かが身代わりになる。あの夫婦は帰ってこなかった。