大学もやっと卒業論文が終わり、バイトに明け暮れていたのだが、ある日疲れて帰ってくると何だかものすごく眠くなった。
あぁ~疲れが溜まってたのかなぁと思い、さっそくベッドでバタンキュー。
少し説明すると、俺のベッドの上は向かって右半分がCDケースやら脱ぎっぱの服やらで埋まっていて、いつも向かって左半分のスペースで寝てたわけ。
その日も勿論、左半分のスペースで寝たんだけど、うつぶせで倒れ混むように寝ると何分スペースが狭いから左手がベッドから垂れるのね。
まぁ、そんなことは気にせず普通に寝てると、誰かに手のひらをつつかれて目が覚めた。
何時かは分からないけど真っ暗だったから夜中なのは確か。
はぁ?なに?とか寝ぼけているとまた手のひらをつつかれた。勿論、つついてる本人の姿は見当たらない。
そして、あろうことか寝ぼけてるせいもあって、つついてるものを握ってみた。
指だった。
丁寧にその指をなぞってみる。指って関節の所にシワが寄ると思うんだけど、それもちゃんとある。先の方には爪らしき硬い感触もちゃんとあった。
そして、指だと分かった瞬間、一気に頭が覚醒して状況の理解に働いた。
自分の状態は右手はベッドの上。左手は肘から下がベッドから垂れている。
当たり前だがベッドの高さはせいぜい立ってる人の膝くらいなもので、垂れてる左手も床に付くかギリギリな感じ。
この状態で俺の左手は誰かの指を握っている。
まず自分の指ではない。自分で自分の指を握るのは不可能。親指なら握れなくもないが、さすがに握られている感触はあるはず。
床すれすれの俺の左手をつつけるとしたら床から指がはえてるか、ベッドの下から俺の手をつついてる奴がいるかどっちかである。
瞬時にこれはもしや幽霊!と思ったが、なんとも人間の欲求というのは強いもので、とにかく眠たかった。そして、恐怖より疲れてるのに無駄に起こされたという怒りが勝ったのである。
そして、この指どうしてやろうかと考え、その結果、折ってやることにした(笑)
つまり、手の甲側に指を思いっきり曲げてみたのだ。
…が、ここで更に頭が働いた。
もし、今、俺が寝ぼけている状態でこれが自分の指だったとしたら…
もし、親か誰かの指だったとしたら…
…折るのはさすがにまずいか。
我ながら冷静な判断をし、そっとその指を離すと左手をベッドの上に戻し、何事も無かったふりをして、また眠りについたのでした。