新幹線のガード脇の細く長い階段を登る近道があった。
俺は毎週火曜日と金曜日、親が迎えに来ない日は
その道を通って帰宅していた。
その道は殺人未遂事件があったとかで、
小学校の通学路からは完全に外された道だった。
特に、新幹線のガード脇にある階段は、途中に街灯が無く
非常に暗いので、
夜間は大人でも避けて通るような評判の悪い道だった。
そんな所を一人で通って帰っている事が親にバレると
大変なので、俺はずっとそれを隠していた。
なんだろう、何でも知っているはずの親に隠れて
悪い事をするのが楽しかったし、
人の気配の無い怪しげな道を散策する気分は、
中二病的なものだったのかも知れない。
時々そんな静寂を新幹線の轟音が突き破る、
あの爆音のスリルも楽しかった。
近道を通って帰った冬のある日、ガード脇の階段の
上下にある街灯が、下側だけ消えていた。
いつもなら近くに鉄工所の明かりがあるのだが、
その日は鉄工所が暗かった。
なので、階段の登り口は目を凝らさなければ危険なほど暗かった。
いつもwktkして通っていた俺も流石に怖くて、
上の明かりを目がけて階段を駆け上がった。
こんな怖い気分の時に限って、新幹線の近付く気配がする。
俺は新幹線が来る前に耳を塞いだ。
新幹線が真横を通った時、その風圧や爆音に
思わず怯んで足を止めた。
耳塞いでてもこれかよ、と思いながら再び走り出し、
横目で架線の青白い光をチラッと見たら、
視界の端に真っ白い男の顔が見えた。
真っ白な顔だけが、胴体も無く浮いているように見えた。
小室哲哉の「永遠と名付けてデイドリーム」っつー
シングルのジャケットをもっと暗くした感じ。
俺は恐怖のあまり声もあげられず、ひたすら上の街灯を
目がけて走った。
やっとあと数秒で登り切る!と思ったその時、
階段の一番上の段に、さっき見た白い顔があった。
俺はチビリそうだったが、このまま後ろを振り向いて
引き返す勇気も無く、
半ばパニック状態になりながら、その顔の脇を颯爽と
駆け抜けようと決めた。
顔は無表情だった気がする。視線をまっすぐに向けたまま
動いていなかったので、
俺は顔の脇を2段飛ばしくらいで登り切った。
俺の体験した中で4番目か5番目くらいに怖い出来事だったが、
誰に話しても笑われる。
別にその階段は呪いとか霊とかの噂があるような場所じゃなく、
ただ単に物騒で、夜間は人が寄り付かなかっただけだ。