8年前の夏に友達4人と自殺の名所として有名な熱海の錦ヶ浦に夜中に肝試しに行った時の話です。
8年前の夏に友達4人と自殺の名所として有名な熱海の錦ヶ浦に夜中に肝試しに行った時の話です。
夜中2時過ぎ錦ヶ浦自然郷の看板の所に僕らは着いた。クルマを止めて遊歩道がある散策路の入り口を探して、柵を跨ぐと、階段が崖の方に向かってグルグルと続いていた。
僕らはワクワクしながら下まで降りていって、崖に一番近い行き止まり迄きた。
暫く皆で周りを見渡してたら、波の音に混じって女の人の声がして、皆で耳を澄ませて聞いてたら、やっぱり波の音に混じってか細い声が聞こえた。
僕らは急激に怖くなり、うわぁーっと大声を上げながら我先にと元来た階段を走りながら登った。
汗だくになりながら息を切らせてやっとクルマを止めた所まで戻った。すると3人しか居ない。
あれ?Aは?
階段から下を見るがAの姿がない。大声で下に向かって呼び掛けるが全く答える気配がなかった。三人で顔を見合せた結果、怖かったが仕方なくAを探しに渋々また下まで降りていくことにした。
Aの名前を呼び掛けながら階段を降りて行ったが全く反応が無く姿もない。結局また一番下の崖に一番近い場所まで降りて来た。
携帯電話のライトで辺りを照らしながら、名前を呼び掛けても波の音しか聞こえてこない。
その時、崖側の柵の所に居たBがうわぁーーっと絶叫した。Aが居た!Aが!半ばかなり取り乱しながら僕らを呼んでいる。僕とCは急いでBの元へ駆け寄った。
何処だ?Aは何処に居るんだ?Bは恐る恐る柵から顔を出して震える手で下を指差した。僕とCは柵から顔を出してBが指さした方向を見た。その瞬間、凍りついた。
何と柵の更に下に、崖に突き出した展望台の様な場所があったのだ。
そしてそこにAが居た。Aはその展望台の柵に足を掛けようともがいていた。その柵の下は波しぶきが砕け散る断崖絶壁だった。僕たちはハッと我に返り必死でAの名前を叫んだ。しかし声が聞こえてないのか全く反応しない。
ヤバイ、ヤバイぞ!何でAはあんな所に居るんだよ!どうやってあそこへ降りたんだ?早くしないとあいつが柵から飛び降りてしまう!
三人で必死に下に降りる階段を探した。すると端の方に木の板が沢山打ち付けられた小さな入り口のような場所があったのだ。そこの右下の板が外されていて人一人が通れる位の隙間になっていた。行くぞ!行くぞ!早くしないと!
一人ずつその隙間を抜けると、また階段があった。それを勢いよく降りるとあの展望台があった。Aは相変わらずもがいていた。僕らはAの元に走って行った。
おい!なにやってるんだ!いったいどうしたんだよ!バカなことはやめろ!
しかし尚も柵によじ登ろうともがくAを、三人で力一杯に引き摺り下ろした。倒れ込んだAをBが体を揺すって、どうした?何があったんだ?と言うと、Aはハッと我に帰ったように僕らを不思議そうな顔で見てきた。ここは?何処だ?
聞きたいのは俺らの方だよ!何で皆で走って行った時に上に来なかったんだよ?とCが言った。するとAは俺も一番後ろから皆について行ったよ!でも階段で躓いて転んだんだ。
顔を打って痛くてなかなか起き上がれなくて、顔を上げると皆の姿が見えなくなってた。
起き上がりながら、怖くなって走り出そうとした時、すぐ後ろから声がしたんだ。
女の人の声で、大丈夫?って。
怖かったけど俺は思わず振り返ってしまった。すると白いワンピースを着た髪の長い女の人が立っていて、こっちに近道があるわよ。って言ってきた。
俺は怖くて怖くて逃げ出したかったのに、体も動かなくて声も出なかった。すると女の人が歩き出したんだ。俺らが下から登ってきた道を、また下の崖に向かって。気がつくと俺は意思とは反対に女の人について行ってしまっていた。
で、今記憶が戻ったんだ!
三人はAの話を聞いて戦慄した。
その時、また波の音に混じってか細い女の人の声が聞こえてきた。今度はそれはすぐ下の崖から聞こえてくる。僕らはもう無我夢中でAを抱え起こすと4人で協力しながら元来た道を必死で戻った。
やっとクルマを止めた場所まで戻って来た時には、僕の心臓は破裂しそうなくらいに高鳴っていた。皆でAをクルマに乗せ、逃げるように錦ヶ浦を後にした。
一つ誰にも話せなかった事がある。最後にAを支えながら崖の展望台から階段を登っている時、僕の耳元にはずっと女の人の声が聞こえていた。か細い声だったが、確かにこう聞こえた。
「死ねばよかったのに……なんで…わたしだけ」
後から分かった事だが、その一番下にあった展望台こそが自殺者が一番飛び込む場所だったのだ。Aは知らず知らずの内に自殺者の霊に導かれていたのだろうか。それ以来、僕らの中で肝試しは禁句になりました。
今でも思い出す度に鳥肌が立つ夏の忌まわしい記憶です。