スイマセン長文です
私には大好きな祖母がいました。
幼い頃から私はダメ人間で、いつも祖母に心配ばかりかけていました。
「お前がしゃんとせな、ばあちゃん死んでも死にきれん」
祖母の口癖でした。
そんな祖母も私が働きだして何年か後に亡くなりました。
その後私は付き合っていた人に振られ、職も失い、軽い鬱状態になっていました。
どうしようもなく酷く落ち込んだ時、神様仏様じゃありませんが
「ばあちゃん、どうしたらいい?」
泣きながら亡くなった祖母に問いかける事もありました。
ある晩私は物音で目を覚ました。
コトコトコトコトッ コトコトコトコトッ
音は下階から、猫かなにかが走り回っているようでした。
私の住んでいるのは木造の安アパート、周りの音は筒抜けです。
「どうせ下の人がこっそり猫でも飼っているんだろう」
そう思い再び目を閉じました。
コトコトコトコトッ コトコトコトコトッ
いつまで経っても足音は止みません。
それどころか音は段々と大きくなり、とうとう寝ている私の頭上を
右から左に走り回っているのではと思える程に。
私は只ならぬ気配を感じ、恐る恐る目を開けました。
目を開けると同時に音は止まりました。
部屋の中は街灯のせいで薄暗いながらも良く見えます。
私は目だけを動かし、先程まで音がしていた方を見ましたが何もありません。
そしてぐるりと部屋を見渡し、足元を見た途端ギョっとしました。
誰かが布団の袖に座っていました。
若い女性、おかっぱの黒髪、 子供が着るような丈の短い、白地に赤い井裄絣模様の浴衣を着ていました。
俯き垂れ下がった横髪で顔は見えません。
こちらを見るでもなく、何か喋るでもなく、ただ正座したままじっとしています。
私は怖くなって頭から布団を被りました。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
何度も何度も謝りました。
何に対して謝罪しているのかさえ分からずに。
するとどこからとも無く
コトコトコトコトッ コトコトコトコトッ
またあの音がまた聞こえてきました。
コトコトコトコトッ コトコトコトコトッ
いつまでもいつまでも音は止みませんでした。
それがどれ位続いたかは分かりません。
長かった様に思えましたが、実際は短かったかもしれません。
目を覚ました時には朝になっていました。
昨晩の事ははっきりと覚えていたのですが、 「夢だった」の結論で自分を納得させました。
それから暫くしてなんとか職に就き、 久しく行っていなかった祖父母の墓参りに出かけました。
ついでと言ってはなんですが、近くに住む叔父の家も訪ねました。
叔父は長男だった為、祖父母の仏壇があったからです。
仏壇に手を合わせた後、ふと床の間にあるガラスケースに目をやりました。
ケースの中身は福岡の伝統工芸博多人形でした。
微笑みながら片足を上げ手毬を打つ少女。
どこにでも在りそうな人形でしたが、私が驚いたのはその装い。
おかっぱの黒髪、白地に赤い井裄絣模様の浴衣姿でした。
夢に出てきた女性と全く同じ・・・
世間話の後、叔父に人形の事を聞いてみました。
「あれはばあさんの家取り壊した時に納戸から出てきたったい」
叔父の話によれば、 その昔、祖父が近所に住んでいた有名な陶師から貰ったとの事。
当時買えば結構な値段がしたらしく、祖父母は大事にしていたようでした。
「人形は気味が悪いけん、捨てるに捨てれんめーが」
叔父は笑って言いました。
私は覚えていませんが、幼い頃に見た記憶が夢に出てきたのかもしれません。
でも私は「祖母が叱りに来てくれた」そう思いました。
帰り際、もう一度仏壇に手を合わせました。
「ばあちゃん、心配かけてごめんね」
失礼しました