高校1年生の時だからもう10年くらい前の話です。
ある土曜日、部活終わって学校から帰ってきた。
時間にして夕方6時半。季節は丁度今頃でもう全然薄暗かった。
ドアを閉めると家の中は真っ暗で。台所の電気点けて
洗濯物を放ってカバン持って自分の部屋へ行こうと階段上がろうとした。
階段横の仏間を通ると、襖が開け放ってある。
いつもとは違う様子につい中をのぞいた俺、真っ暗な部屋の中、
机に何かが乗っている。何だろう?と思いながら仏間に入って蛍光灯の紐を引く。
パッパッと蛍光灯が2回閃いて灯りがついた。
見下ろすと机の上にお客様用の朱塗りの茶菓子の皿、に
饅頭がのっていた。昼間お客でもあったのかな?
腹減ってるし食ってもええんかな?と饅頭に見入る。
黄みがかったつやのある酒蒸し饅頭。蒸かしたてのように
湯気を噴いている。
湯気?えっ?人差し指で触るとまだ暖かい。
「母ちゃん?」思わず台所を呼んでみる。
スーパーにパートに出てる母ちゃんの帰宅は通常夜の8時過ぎ。
昼間帰ってお客さんあって饅頭出しっぱなしなのかな?
それにしちゃ饅頭だけってのも妙だ。
母子家庭のうちは兄貴も大学入るとともに家をおん出て
俺と母ちゃん以外に特に出入りする人もない。
そもそも饅頭は湯気ふくほど暖かい。
ついさっき蒸かしたてを買ってきたくらいの勢い。
一体誰が饅頭暖めて食うんだって?一人家の中饅頭を
前に問答する俺。
だがどうやっても答えは出ない。一先ず部屋に上がって
荷物を下ろし着替え母ちゃんの帰宅を待つ。
突然はっ!とする俺。丁度その前年だかに
世田谷一家殺人事件があって、犯人が家の中でアイスを
食ったとか言う噂を聞いた事があった。
その話を思い出して急に心細さが増幅。暫くまんじりともせず
漫画などを読んでたけど意を決して修学旅行土産の
木刀握りしめそうっと階段を下りた。
1階の戸締まりを窓ドア一つ残らず確認。
完璧に施錠されていて進入の形跡は見当たらない。
おかしいな?取りあえず家を出て母ちゃんの携帯に着信残し
コンビニで立ち読みしてた。
1時間ほどして母ちゃんから電話。
今駅前のコンビニいるからって言うとやってきた。
何か食べて帰る?って言うからそれよりお母様聞いておくんなまし、と。
仏さんの部屋にさ、酒饅頭があってさ、蒸かしたてで
湯気出てたんだよ。昼間誰か来た?
母ちゃん家帰った?え?それ泥棒とかじゃないの?
ちょっと急いで帰ろうっかって二人で
早足で帰宅。
仏間へ行くと饅頭は無くなっていた。
あれ?確かに饅頭あったんだけど・・・。
家の戸棚とかを急いで確認した母ちゃん、紛失物は特に無いと言う。
何だったんだろう。空き巣じゃないっぽいね。
マジで饅頭あったんだって!
嘘じゃないよ!俺力説。
どんな饅頭よ?ちょっと黄色がかって小ぶりでつやつやしてて・・・。
俺の饅頭の説明を首かしげて聞いていた母ちゃん、
はっとして今日何日?
あ、婆ちゃんの命日じゃん!と。
黄色い酒饅頭は神戸出身の婆ちゃんの大好物で、
ことある毎に取り寄せては食べていたらしい。
ご所望かよ!あーもうこの時間じゃヨーカ堂かコンビニくらいしか
開いてないわね。
取りあえず饅頭買いにいこっかと家を出た。
でヨーカ堂で一番美味そうな饅頭買って
ラーメン食って帰って饅頭と線香をお供えしました。
いや、文章にすると全然怖くないですね。
でも世田谷事件のせいもあってそれがあんまり遠くないことも
あって、もしかして犯人が暖めた-!?と思いついた時は
身震い出てくるほど怖かったのです・・・。
すぐそばにいるだろ!?って。帰ったら無人の家に熱々の
饅頭って・・・。
婆ちゃん食い意地張りすぎだろってほんのり怖い?お話でした。