五年くらい前に経験した事です。
当時私には同い年の彼がいました。
いきなり変な話になっちゃうけど、彼とHする時は都内私鉄沿線
のラブホによく行っていたのね。
そこは”でる”ってちょっと変な噂があったりして、私もあまり雰囲気が
好きじゃなかったけど、お互い実家で学生だったし、
安くて利用し易いってだけでなんだかそのラブホになっちゃってた。
そこでの話です。
いつもどおり事が終わって部屋を出て、薄暗い廊下でエレベーターを
待っている間、話し好きな彼はずっと私に何か話してくれてたんだけど、
エレベーター乗って正面に向き直ってすぐに彼が突然話すのを
やめたんだ。
私が「えっ」と思って彼を見上げたのと、彼がすごい顔してエレベーターの”閉まる”ボタンを
何度も思いっきり強く押すのとほぼ同時に、知らない人が息切らして
乗ってきて扉が閉まったんです。
その乗ってきた人ってのは汗だくの中肉中背、たぶん中年の男でした。
エレベーターの中はその男の荒い呼吸の音だけでいっぱいになりました。
相当取り乱しているみたいでその人は私たちの存在自体に気付いて
いないような感じ。
ラブホでエレベーター乗る時、他人と鉢合わせってのはあるけど
一緒に乗るなんてみんな避ける事だし、その人一人だったし
明らかに何か変で、だから私か彼、ちょっとでもどっちかが動けば
とんでもない事が起こりそうな気がして、私たち完全に固まっちゃってて、
彼もそれまで私に見せたことないような顔してた。
続きます。
一階に着くまでの時間はとっても長く感じたのを今でもはっきり
覚えているよ。
ずっと男の「ゼー!、ゼー!」っていう苦しそうな呼吸音だけ。
で、一階に着いて扉が開いた途端、扉をこじ開けるようにして中年男は
ものすごい勢いで走ってホテルから出て行っちゃった。
とにかく怖かったってのがあったし、なにより私たちに何も危害が
無かった事にホッとしてその後、私なんだかボーッとしてて、
彼もこの事についてその日あまり話したくないみたいな雰囲気だった。
それからしばらくしてからも、その時の事話題にしようとすると彼、
変にすごく拒むんだ。
だから私も話題に出すのやめてました。
それから少し経って彼とは別れちゃったんだけど、
彼の怯え方を見てたら最後まで彼に言い出せなかった気になる事が
あって・・・。
あの時、エレベーターの中で私の側からしか見えてなかったと
思うんだけど、その男の人の左腕にクッキリとした赤紫色の痕(アザ?)が
ついていたんです。
子供くらいの小さな手で引っ掻かれながら掴まれたら、ちょうどそんな
痕がつくんじゃないでしょうか。
子供に腕を掴まれたくらいであんなにはっきりとアザができるとは
考えにくいけど、逆にそれが異様だったのと、怖くて視線をそこから
そらせなかったのとで、今でもその赤紫色の小さな手の痕が忘れたくても
目に焼付いています。
・・・今書いていて思ったけど、あの男と同じように怯えていた彼の事を
考えると、私たちが乗っていたエレベーターに男が駆け込んで来た時、
もしかしたら彼は男の背後の薄暗い廊下に「何か」を見ていたのかも
しれません。