爺ちゃんは俺が生まれる前に亡くなったから、今では俺のお袋の弟
さん家族と婆ちゃんが暮らしている。婆ちゃん家は昔の家具とかが
たくさんあって、俺ら孫たちはその大きな家を探検するのがとても
好きだった。近くには流鏑馬?で有名な神社があり、そこは昔から天狗が現れる
という伝説があった。お袋は子供の頃そこで不思議なものを何回も
見たらしい。
ちょうどお盆の時期だったと思う。真夏で暑かったのを覚えてる。
いつものように各家族の孫達が揃うとドタバタと家中を走り回り、
探検が始まる。俺が1番年上でお袋の妹の子供が1歳下。その次は
更にその下の妹の子供達2人で3~4歳下だった。お昼ごはんを皆で
食べた後、2時間くらいドタバタと屋内外で遊んだ。
1番下の孫2人は昼寝を始めたので、俺は1歳下の従兄妹を連れて2階
の物置(元・蚕部屋)へ行った。いつものように梁の上に登ったり、
昔の家具の上に登ったりして遊んでた。窓からは午後の日差しが差
し込み、ぼんやりと2階の中を照らしていた。
子供だった俺は家具の上から大きなダンボール箱が2個積んである
上に飛び降りてみようと思い、思い切ってジャンプした。ドスンと
箱の上に着地したが、すごい埃でゲホゲホ言いながら箱から降りた。
飛び降りた勢いで2個の箱は崩れ、中身が見えていた。何だろう?
と思い中を見ると天狗のお面や団扇、お祭りの衣装?のようなもの
が入っていた。
そういえば神社のお祭りの時に叔父さんがよくこの衣装を着て舞台
の上で踊っていたことを思い出した。箱の中には他にも色々と昔の
ものが入っていて興味津々だった。と、従兄妹が何か言った。おにぃちゃん、ここに戸があるよ?
え?戸?おかしいな、婆ちゃん家は何度も探検してたがこんな所に
扉なんてあったっけ・・・確認したが確かにあった。恐らく飛び降りた
拍子にダンボール箱がズレて、隠れていた戸に気づいたんだな。
好奇心の塊だった俺は邪魔な箱をどかし、その戸を恐る恐る開けて
みた。
そこは天井裏のような空間だった。何もなかった。いや、よく見ると
1番奥の壁に何か貼ってある。何だろう?貼ってあるものが何なのか
すごく気になった俺はとりあえず中に入って見てこようと思った。
従兄妹もついてきた。しかし床がおかしい。他の部屋のように頑丈な
感じではなく、薄い板のような感じだった。仕方ないので縦横に何本
も張り巡らされた梁の上を進んでいった。
その空間は高さもあまりなく、小学生の俺でさえ立って歩くのが困難
なくらい天井が低かった。壁には窓はなかったが、外からの光が透け
て入ってきており明るさは問題なかった。ようやく1番奥へ辿り着き、
貼ってあるものを確認した。それは1枚の御札だった。但しなぜか上下
逆さまに貼ってあった。そして更に不思議なことに貼ってあったので
はなく、串で刺して固定してあった。
今思えば何であんなことをしてしまったんだろうと後悔してる。
まだ子供だったんで何も考えてなかったんだろうな。俺はその串を
抜いて御札を手に取り、色々と観察してみた。かなり年季の入った物
であることがわかった。漢字で何か書いてあるが読めない。そして
串はよく見ると弓矢の矢のようだった。と、その時だった。ドスン!・・・ドス、ドス、ドス・・・
何かの大きな音が聞こえてビックリした。従兄妹も驚いたようだ。
その音は大人が歩いているような音だった。誰か2階に上がってきたの
かな?そう思ったが何かがおかしい。よく聞くとその音は俺らが乗っ
ている床?の上を歩いている感じだった。床の下の部屋から何かで突っ
ついているのかとも思ったが、そんなものじゃなかった。明らかに歩い
ている音だった。天井を逆さまで。。。
天井を歩くって・・・なんだそりゃ???
マンガやアニメではそういうシーンは見たことある。でも聞こえてくる
音はそんな現実逃避を100%吹き飛ばすリアルなものだった。従兄妹は
怖くて泣いている。とりあえず「逃げないとヤバイ」ことだけは理解
出来た気がした。俺は剥がしてしまった御札と矢をポケットにしまい、
従兄妹の手を引いて梁づたいに入口まで戻り始めた。
出来るだけ音を立てずに進んだ。例の足音はどうやら床をあちこちを歩
き周っているようだ。まるで何かを探しているような感じで。と、その
時ポケットの中から矢が床に落ちてしまった。
カタン・・・
しまった!と思うのとほぼ同時にドス ドスドス!と足音が近づいてきた。
確実に俺らの真下にいる。。。ハァーッハァーッという息遣いや爪?のようなもの
で床を引っ掻く音まで聞こえてきた。恐怖の限界だった。従兄妹は怖さの
あまり目を見開いて硬直している。と、床のある1点に何かが見えた。穴だ・・・
それは床に開いた直径3cm程度の穴だった。どうやら真下にいるやつは
そこから必死に覗こうとしているらしい。入口まではあと10m程もある。
このままでは逃げ切れないかも知れない。。。そう思った俺は床に落ちた
矢を拾うとゆっくりとその穴に近づいた。今にも心臓が破裂しそうだった。
そして恐る恐るその穴を覗いてみた。
目が合った。
ぁhf@j;あjdhふじこ!恐怖で声にならない声を上げ気がつくと
俺はその穴に矢を刺していた。
ドスン!
ギィャァァァァァァァァ!ドタバタドタバタ!
真下にいた何かが、本当の床に落ちた音がした。今しかない!俺は従兄妹
の手を引き入口まで一目散に突っ走った。そして外に出るとすぐに戸を閉め
ダンボール箱で戸を隠した。怖さで二人ともしばらく無言で固まっていた。
窓から差し込む光は夕暮れ色になっていた。ほどなくして親から夕飯だから
降りてこいとの声が聞こえて我に返った。
階段を下りながらポケットに手をやると、おかしなことに御札がなくなって
いた。泣いてる従兄妹を見てお袋が「また泣かしたの?仲良く遊びなさいよ」
と言った。みんなで食べた夕飯の味もよくわからなかった。一体アレは何
だったんだろう。。。あれだけドタバタ音がしてたのに誰も気づかなかった
のかな?従兄妹の家は夕飯後に帰った。うちは遠いので何泊かしてゆく予定
だった。俺はその晩は怖くて眠れなかった。翌朝、婆ちゃんに聞いてみた。
すると婆ちゃんは、そんな部屋は知らないと言う。叔父さんも知らないと。
そんな馬鹿なと例の2階のダンボール箱の所へ連れて行った。しかし箱を
どけても戸はなかった。俺は頭が???な状態でしばらく昨日のことを力説
したが、やがて無駄なことだと理解してあきらめた。ただ、婆ちゃんがこん
なことを言った。
この辺は昔は天狗様に連れ去られる人がおったったで。特に子供がな。んだで
神社でお祭りするようになったじゃのう。おまえもお参りしてくるといいで。
俺はお袋と神社へ行ってお参りした。お袋は俺の言ったことを信じたようで、
御札はありがたいものだから無闇にいじってはいけない、と教えてくれた。
お袋も小さい頃天狗に遭遇したが、なぜか連れ去られなかったと教えてくれた。
時が経ち、その従兄妹とは数年前に他の従兄弟の結婚式で会ったが、あの出来
事についてはすっかり忘れていたようだった。
今でもあの空間や床下にいたのは一体何だったのか・・・よくわからない。
おしまい。
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