620: 04/08/09 00:20 ID:ZraCrQ2T
当時、俺は予備校に通っていたのだが、日曜日はボランティアで小学生のサッカーの
クラブチームのコーチをしていた。
そのクラブチームは俺が小学1年の頃立ち上がったチームで、俺は6期生にあたるOBである。
立ち上がったときにはコーチもサッカーをよく知らなかったという状態から始まり、
6年になる頃にはその地区で1,2を争う強豪にまで育っていったチームであった。
そのため、自分にとっても思い出深いチームであり、よく顔を出してはコーチをしていた。
さて、夏に入りそのクラブチームでは恒例の3泊4日の夏合宿が行われることになった。
場所は・・・・・どこだっけか。夏場は避暑地、冬場はスキーで賑わうような山間の場所であった。
昔からそのチームに入っていた俺は、古参の保護者やコーチとかと顔見知りであり、
「タダでいいから参加しない?」と誘われた。
予備校の夏期講習も谷間の時期だったため、気分転換もかねて俺は参加することに決めた。
との練習試合などをこなして、3泊4日のスケジュールはあっという間に消化され、3日目の
夕方、最終日を前にして花火大会が催された。
・・・といっても買ってきたファミリー花火を楽しむというつつましいものであったが。花火も終わり、5年生以下はペンションに戻っていったが、6年生の子達と古参のコーチ2人、
そして俺がグラウンドに残った。胆試しをするということであった。
胆試しの前にコーチの一人が怪談を始める。ま、定番だね。
んで、怪談をやってる後ろで他のコーチに俺は耳打ちをされた。
「先に車で上に上がってるから、盛り上げるのヨロシクね」
・・・引率の役をまかされたようであった。
怪談の後にコースの説明が始まる。
胆試しのコースを説明すると、スキー場の駐車場をスタート、そのままスキー場を上に上っていくと
自動販売機が見えるから、一人目はそこの前にコーン(カラーコーンな)を置いて戻ってくる。
2番目はコーンを取って戻ってくる。以下3番目からはその繰り返し。ありがちだね。
コーチの怪談の後、怪談をしたほうのコーチは車でさっさと先に行ってしまった。
俺ともう一人のコーチで6年生7人を引率していく。
街灯の周辺だけ明るいものの、そこを少しでも離れると真っ暗だ。
根っからの都会っ子である6年生達は少し驚かせただけでおもろいくらいにびびりまくる。
俺も根っからの都会っ子であるとはいえ、暗闇程度じゃ全然びびらないない。
鈍感なんだろね、たぶん。怖がらせつつスキー場に到着する。
夏のスキー場は、誰もいなくてぽつんとしているわけではない。そこは営業努力、宿泊所や体育館
などがあって、どこぞの大学生だと思われる人たちがバトミントンとかやってた。
正直、なかなか強力な照明もついてて明るい。もっといい雰囲気を予想してた俺の完全に予想外だ。
しかも、そんな明るい駐車場の入り口がスタート地点。なんじゃい。
「んじゃ、誰が先に行く?」
正直拍子を抜かれてた俺は、鼻白みつつも声をかけた。
しかし、先ほど散々俺に驚かされてた子供達は何だかんだ言いながら行きたがらない。
俺はコーチと顔を見合わせた。しゃーない。
「それじゃ、俺が先に行こうか?」
とたんにはしゃぎだす子供たち。都会っ子なんぞ現金なものだ。結局先に行くことになった俺。
胆試しなんぞ初めてだったからどきどきの反面、結構浮かれてたりした。
(ゴメン、言い方わかんないから、ここから先は「エプロン」で統一するわ。駐車場とかに続く
スキー場の一番下、広くてゆるいスロープのあるところね)
夏のスキー場は当然のごとく雪がない。あるのは腰のあたりにまで生えそろった草原だ。
ザザザザザザ‥・・・ザザ・・・ザ・・・・・
涼しい風が吹きぬけ、まるで海にいるように草がたなびく。
草の音以外はあっという間に山に、闇に吸い込まれていく。基本的に静寂が支配している。
その草原の中、左に森を見ながらエプロンの端に沿ってくっきりと轍が残っていた。
それはゆるく左へ曲がりながら上に続いている。
何かいい雰囲気が出てきたなと、どきどきしつつ俺はその轍を進んでいった。手に持った懐中電灯の光だけを頼りに進んでいく。
轍は森に接近し小川のせせらぎを左手になおも進む。600mほど進んだくらいだろうか、
他のコースからエプロンに合流してくるような、分岐点に到着した。リフトの支柱が立っている
ところで、地面はむき出しの土になっている。エプロンを区切るように深い森が迫っていた。
「・・・・自販なんてね~じゃんか~」
ちっとも見当たらないばかりか、ますます山の深くに入っていくようで、ちっと不安にかられて
俺は独り言をつぶやいた。
地面の轍はその土のとこで入り混じっていて、よく判別しなかったが、どうやら更に左の森の中の
コースに続いているようだ。
そこまでの途中、自販なんぞ見かけなかったため、俺は仕方なしにその方向に進んだ。
そこは他のコースから合流してくるような、幅10メートルくらいの森の中を通る道だった。
さすがにこんな奥にまで来ると真っ暗闇だ。しかも圧倒的な静寂が包んでいる。左右には木々が
押し倒すように迫っている。地面は土むき出しになっている。
俺は正直・・・・・・・うーむ、怖くはなかったなぁ。
怖いというか「どこだよ自販。手が込んでるな、ドチクショウ」などと心の中で悪態をついてたと思う。
100mくらい先に進んだ頃であろうか、突然視界が開けた。別のエプロンへと続く他のスキー場のコース
に出てしまったようであった。
俺は止まった。すぐ目の前にはリフトの降り場があった。完全な暗闇の中の無人のリフト降り場。
ここに来て俺は少し怖くなった。
轍はリフト降り場の手前で途切れている。車は・・・・どこにも見当たらない。もちろん自販なんぞ
影すらもうかがえない。そもそも、こんな時期にここに自販があったとしても、誰が使うんだ?
明らかにおかしい。もしかして・・・・間違えたか、俺!?
いくら鈍感とはいえ、遠巻きにリフト降り場を照らしていた俺は、それ以上ここにいて
何か見んのも嫌なので引き返し始めた。心の中で悪態をつきながら、さすがに背中が気になってくる。自然に足は早足になる。
来た道が長く感じられる中、先ほど来た分岐点に到着した。右下のほうに駐車場の光が見える。
光を見て、ちょっとほっとしてもう一度周囲を見回した。
ここで入り混じってる轍は、先ほど行った左方向の他にも、正規コースのほうにもわずかに残っていた。
意味がわかんなくなった。
どこだよ、ゴールは?
ずっといても仕方がないし、いい加減怖さも感じてきたため引き返すことにした。
轍は草原に戻る。周囲からは相変わらず風でそよぐ草の音が聞こえる。
合流地点から引き返し始めて、轍がエプロン沿いの森に近くなった辺りであろうか。
俺は立ち止まった。そして、周囲を見回す。
気のせいか・・・・風でそよぐ草の音に混じって人の、それも女性のささやき声が聞こえたような気がしたのだ。
森のほうから。
普通はゾーっとするとこなのかな。しかし、俺は間違いなく風でそよぐ草の音だと確信していたため、恐怖感は一切なかった。
なのに、なぜ立ち止まって念入りに周囲を見回したのか、自分で不思議だった。
エプロンに入ってから風でそよぐ草の音はずーっと聞こえていたしね。
周囲を照らしても何もない。森のほうもよく見たが不審なものは見当たらない。
しばらくそうしていた。が、ずっとこうしてても仕方がない。俺は来た道を引き返し始めた。
近寄ると、6年生のやつらが心配そうな声で俺を探しているようだった。
俺の姿が見えると、泣きそうな声でみんな近寄ってくる。コーチも来た。何か怒ってるようだ。んで顛末。
胆試しのコースは、下の駐車場を出て、上の駐車場の自販機までだったそうだ。
その距離・・・・・な、なんとおよそ50m。スタート地点から目視可能。
なんじゃ、そりゃ。いくらなんでもそんな近いとは思わんわ、ボケッ!
みんな始めのうちは俺がからかってると思ったそうだが、最終的には何かがあったのかと探してたそうな。
子供は泣くし、俺の話し聞いてコーチはあきれるし。てか、笑われた・・・。
うむ、笑い話だわな。
胆試しも終わって、保護者とコーチの打ち上げが始まった。当然胆試しの話題で俺はおもいっくそ笑われた。
いくらなんでも間抜けだもんなぁ。そんなこんなで飲みも進み、俺は俺がクラブに入ってた頃からの古参のコーチ1対1でいろんな話をしてた。
そのうち胆試しの話になる。そこで、俺は照れ隠しのために女のささやき声を聞いたことを話した。
怖がらせて話をそらそうとしたのだ。
するとコーチは顔を曇らせた。どうしたのか聞くと、コーチは思案顔でこんな話を始めた。
去年の夏に、そのスキー場で死体遺棄事件があったらしい。この事件は新聞にも大きく報道されたとか。
被害者は女性。犯人は女性を殺害した後四肢を切断してバラバラにし、ガソリンで焼却してその灰を
このスキー場横の森にばらまいたそうだ(確かそう聞いた)。
あの深い轍は、警察車両が遺体捜索のときに作られたとのこと。
確かに・・・・あの深い轍、俺は何の疑問も持たなかったが、1度車が通ったくらいじゃできはしない。
遺体のメイン部分、つまり胴体部分が発見されたのが、ちょうど俺が女性の声を聞いたあたりだとか。
つまり、合流地点付近の森の中ね。この事件の話は、俺の話を聞いてとっさにコーチが思いついた創作か、それとも事実なのかはわからない。
ただ、俺はそのコーチに話をしたとき女性の声を聞いたとは言ったが、その他の詳細は一切伏せていた。
どう進んでどういう状況で声を聞いた・・・・・などとは言っていない。ただ声を聞いただけと言っただけだ。
なのに、コーチの話の死体遺棄現場の状況が俺が見たものと酷似し過ぎている。
まぁ、偶然だろうし、6年たった今でもあの声は空耳だと確信している。
ただ・・・・・・今考えても不思議な出来事であった。