141: 2014/09/10(水)05:33:31 ID:cTDDGLnjK
昔から何故か変な相談をよく受けた。
その日も、友達のお母さんから、最近知り合いの子供がちょっとおかしいという相談を受けた。相談というか、愚痴というか。世間話みたいなもんだろうか。
その子供が、何もない壁に向かってずっと話しかけているとか、行ったこともない場所の話をするとか、そういった類の話だった。
子供らしい、見えないお友達がいるんだろうと、笑い話として話していたが、表情は優れなかった。
妙に気になって、詳しく聞いてみると、不自然に話を終わらせようとしてくる。が、どうやらお母さんも気になることがあるらしく、ポツリポツリと、断片的ではあるが、話してくれた。
最初は子供のよくある妄想と思っていたが、あまりにも子供の変化が急激過ぎて戸惑っている。
幼稚園から帰ると、庭の隅にうずくまって延々と壁に話しかけている。
それに、その友人夫婦の仲もなにやらギクシャクしている様子。
とのこと。
目を閉じて、イメージしてみる。
それはだんだん近付いてきて、やがて意味のありそうな形へと変化する。
最初は犬に見えたが、どうやら違う。「狐?」
そう呟いた瞬間に、イメージの白狐は歯をむきだして眼前に迫ってきた。
驚いて目を開ける。
友母「狐?」
私「はい。多分、ですけど。でも生きてる狐じゃないような。パッと浮かんだイメージですが、神社の隅の祠に置いてあるような、陶器の白い狐みたいな…」
友母の顔色が変わったのが見えた。
友母「その子供が宝物って言って見せてくれたことがあるの、狐の置物…」
私「多分、それが原因です」
友母「それを捨てれば、良くなるの?」
私「男の子と、その狐のイメージが、かなり重なって見えました。捨てたら逆に危ないかも」
友母「わかった。今度そのことも話してみるね」
その日の話はそれくらいで終わりました。
友母の話によると、子供が宝物にしている狐の置物は、庭の隅に埋まっていたものを、子供が見つけたものらしい。
友母から置物の話を聞いた母親は、流石に気味が悪くなり、子供が幼稚園に行っている間に狐の置物を隠したそうだ。捨てるのは縁起が悪いと感じたのかもしれない。
だが、気が付くと子供は何故か狐の置物を見つけていて、大事に持ち歩いているという。
絶対に子供の手に届かない場所に隠しても、絶対に見つけて持ち歩いているというのだ。
子供の話だと、狐の置物が呼んでくれるから、何処に隠してあってもわかると言っていた。
友母「どうにかならない?」
私「………」
正直、私の手には余ると感じていた。
目を閉じてイメージしても、もうなんのイメージも湧かない。完全に拒絶されている。拒絶されている今が潮時だと感じていた。これが敵意に変わったら、対処のしようがない。
私「はっきり言うと、縁を切るくらいしないと、危ないと思います。少なくとも、距離は置くべきです」
友母「でも…」
気持ちもわかる。こんなオカルトじみた話を真に受けて、リアルの友人関係を破綻させるのも、逆に頭のおかしい人と思われても仕方ない。
この結末を知るのは、数年経ってからとなる。
私「はい。覚えてますよ」
友母「あれからね、本当に怖い話になっちゃって、私も最近聞いたんだけどね…」
子供は相変わらず壁に向かって話しているし、庭から出ることすら嫌がり、引きこもりのようになっていた。
小学校に上がる年だというのにこのままでは、と、不安も募る。
夫婦仲もほとんど冷め切っていた。
そんなある日、子供が両親にお願いがあると言ってきた。
そのお願いとは、子供がいつも佇んでいた庭の片隅を掘るということ。
夫婦は子供と一緒にその場所を掘った。
そこには、石で出来た、小さな社が埋まっていた。
夫婦が建築業者や、以前の土地の所有者に話を聞いて見ても、何にもわからなかった。
だが、社は出てきた。一緒に一つの狐の置物も掘り出したという。
夫婦は一番驚いたのは、その掘り出された狐の置物、子供が大事に持っていた狐の置物と、どうやら対になるものだということだった。
形も、大きさも同じ。
そして、左右対称。
夫婦は出てきた社を庭の隅に設置し、近所の神社にお願いして、お祓いのようなこともしてもらったという。
子供はいつも大事に持っていた狐の置物をその社に置いて、壁に向かって話しかけることも止み、今は普通に小学校に通っているという。
友母「そうよ。言ってなかったっけ?」
携帯画面の中で笑う、黄色い帽子の、赤いランドセルを被った女の子を、私はジッと見つめた。
嬉しそうに笑う女の子は、狐のようにニッコリと目を細めて笑っている。
狐のイメージと重なって見えたあの男の子は、いったい何だったのだろうか。
ひょっとして、女の子が壁に向かって話しかけていたのは、狐ではなかった?
私の中では、狐のイメージも、男の子のイメージも全く消えていない。
社を祀って、それで本当に解決したのだろうか?
いくつも疑問は浮かんだが、私は何も言わなかった。
目を閉じてイメージしてみる。男の子の顔が、グニャリと歪んで狐のように笑った。
終わり