昔俺が18、9だった頃、近所に綺麗なバス停があった。
俺の家は結構な田舎で、そのバス停は山の中の人気のない場所にあった為か利用者はほとんどいないらしかった。
なのにあまりにも新しい上にしっかりとした東屋(あずまや:壁のない小屋のようなもの)が建てられていて少し奇妙に感じていた。
ある日、友人の一人が例のバス停について妙な噂を耳にした。
「あのバス停、少し前に近所の婆さんが焼身自殺をしたらしい。で、小さな屋根があったのだけど一緒に燃えてしまったから建て直したんだって。」
そういえば確かに焼身自殺の話は聞いたことがあった。
「肝試ししない?お前平気なんだろ?」
友人が俺に挑発的な言い方で誘ってきた。
俺は昔から霊的なものは一切信じていないと公言していた故の発言だ。
ちょうどその時、女の子を含む7人で集まっていたため、カッコいいとこ見せられるかな?と俺は
「今から行こうか」
と皆を連れて行くことにした。
時間は深夜2時ぐらい。
街灯もない暗い山道を車2台で向かっていると、うっすらとバス停が見えてきた。
誰も通らないからとバス停の前に適当に車を停めて東屋の中に皆で入った。
「こうして見ると綺麗すぎて雰囲気でないねー」
と女の子も平気そう。
コンビニで買ってきた食い物を食いながらしばらく皆でワイワイしてると、1人の友人が
「なあ、あそこなんか気持ち悪くね?」
と言い出した。
バス停の周囲は竹藪に覆われており、月明かりに照らされてなんだか不気味に思える。
どこどこ?と指差す方を見てみると1ヶ所、竹の生えていない場所がある。
「着いた時から妙に気になるんだよなー。」
確かにぽっかり空いて見えるその場所に違和感を感じる。
「そう言われるとなんか気持ち悪いね。」
怖がり始める女の子達を見て、
「俺が近くに行って見てこようか?」
と俺は格好をつけた。
「絶対やめた方がいい!なんだか嫌な感じがする。」
と1人の子が言い出した。
「大丈夫だよ。余裕余裕!」
と、俺は1人でそこに向かった。
足場の悪い中を慎重に進んでいくと竹のない場所が出てきた。
暗い竹藪の中を見回すが何もい。
「なーんにもないよ。ビビる要素なし!」
と、皆を振り返りおどけて見せた時だった。
「おいっ!早く戻ってこい!」
と友人がすごい剣幕で叫ぶ。
「はぁ?もういいって!そんなの言われてもビビらねーら。」
「いいから走れ!冗談じゃねーんだよ!」
6人が一斉に動き出す。
「何?何?皆でビビらせようっての?」
と言いながらゆっくり皆の方に歩くことにしたその時、
「もうだめだ!逃げよう!.」
と友人達が車に乗りだす。
「助けて!歩けない!」
と腰を抜かし、泣きじゃくる女の子。
それを助けるように友人達が肩を貸す。
完全にパニック状だった。
さすがに俺も気がつく。
「これは本当にヤバい!」
慌てて車に向かい乗車。
急いで車を走らせる。
長い下り坂をブレーキも踏まず駆け抜ける。
「ヤバいヤバい…」
を連呼する友人や
「助けて!」
と泣きわめく女の子達。
何があったんだ?と思いながらも俺は夢中で車を飛ばした。
そんな時だった。(ブゥーーン)と車のエンジンが切れると同時にヘッドライトやオーディオまで切れてしまった。
「何なの!?」
と半狂乱になる女の子達。
「わかんねーよ!」
と叫びながら必死にキーを回す。かからない。
「下り坂だから行けるか?」
と車を走らせるもエンジンが切れたものだからレーキが効かなくなってしまった。
ハンドブレーキを使いなんとか停車。
「このままじゃヤバいよ。車を置いて歩こう」
と、友人が女の子達を車から降ろし早足で歩きだす。
しばらくして見えなくなった俺達を心配した友人達が戻ってきてすし詰め状態でなんとかその場を離れた。
ふもとの少し開けた所まで来たところで車を降りた。
「お前本当になにも気付かなかったのか?」
と、友人が俺に尋ねる。
「本当に分からないんだ。何があったんだ?」
「お前があそこに近づいた時、お前の右側に婆さんがいたんだよ」
「!?」
「皆に聞くと同じように見えるって言うんだ。」
「全員見たのか?」
そう聞くと6人全員頷く。
「俺が声をかけたとき、その婆さんゆっくり手をあげていたんだよ」
と友人が青い顔をして話をする。
「私見たの…。」
と震えながら女の子が話し出した。
「お婆さんが包丁みたいなのであなたを殺そうとするのを。」
その後、夜が開けてから別の友人達を連れて車を取りに向かうと不思議なほど簡単にエンジンがかかった。
それから例の場所を見に行くとそこには小さな地蔵のようなものが竹の落ち葉に埋もれていた。