知り合いの話。
彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。
知り合いの話。
彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。
「昔、時々連んでた鉄砲撃ち仲間がいたんだけどな。
大分前に死んじまった。
山に入っている時、誰かに鉄砲で撃たれてな。
ああ、当然警察沙汰になった。
あの時そこらの山に入っていた者が皆、取り調べを受けたりしたよ」
しかし事件は、調べが進むうちに奇妙な運びになったらしい。
「あいつの身体から出てきた鉄砲の弾なんだけどな、あいつが持ってた鉄砲から
撃たれた弾だったんだと。
旋条痕とやらが一致したらしい。
おかしいんだよな。
一緒だった奴らの話じゃ、あの日あいつは一発も撃ってないってんだから。
明らかに余所の方角から撃たれたっていうし」
その時の同行者たちはしつこく取り調べを受けたのだが、皆がシロと判断された。
結局、この件は事故として処理されてしまったという。
「そのうちにな、別の仲間がおかしなことを思い出したんだ。
『そういや前に飲んだ時、あいつ変なこと言ってたなぁ』って。
死んだ奴な、その数ヶ月前に、あの山で変なモノを撃ってたらしいんだわ。
大きくて真っ黒い、猿みたいな何かを。
儂が思うに猿じゃないと思うけどな。
地べたを二本足で歩いてたっていう、奴の話が本当ならばな。
撃ったら倒れたんで駆けよってみたが、そこにゃ何もなかったんだとさ」
ここまで語ると、祖父さんは「ところでな」と話を変えた。
「返し矢って知ってるか?」
「この辺りじゃ弓矢の時代から言われとる、まぁ一つの古い呪いみたいなモンだ。
射かけた矢を取られて逆に射返されるとな、これが絶対に命中すると言うんだ。
だから返し矢。
他の地方でもあるかどうかは知らん。
弓矢を主に使ってた頃は、当たらなかった矢も出来るだけ回収してたそうだよ」
「猟師内じゃ『あいつ返し矢をされたんじゃないか』って噂されるようになった。
誰にかって?
あいつに撃たれた奴に決まってるだろ。
正体なんかわからんがよ」
「儂自身は返し矢とか、実のところ信じちゃいないけどな。
・・・案外と、大きな声じゃ言えねえ裏事情とかがあったのかもしれんし。
まぁ何にせよ、人型のモノに矢鱈目鱈と撃ちかけるモンじゃねぇってことだ」
ここで酒を呷ると、祖父さんは話を締めくくった。