今から30年以上前。
東京に出稼ぎに出て、そのまま父親と結婚した母の実家がI県にある。
毎年、お盆の時期になると、その母親の実家へ父親の運転する車で帰省するのが恒例行事だった。
当時は、高速道路も途中までしかない。一般道でいくつも山を越えなきゃならなかった。
その年、なぜか私の家族が乗った車は、いつも通っている道ではなく、向こうの親戚に教えられた道を使って山を越えようとしていた。
「十字路に出るから、そこをまっすぐ行けば良い」
そう親戚には教えられたのだが、いくら行っても十字路には出ない。
そのうち、T字路に突き当ってしまい、父親はおかしいと思いつつ道を曲がった。
しばらく道なりに進むと、やはりT字路に出る。
しかも、先程と同じT字路にしか見えない。
家族全員でおかしいと言いつつも、車を走らせると、やはりまた同じ場所に出る。
そんなことを繰り返しているうちに、突然、車の前に一匹の狐が飛び出したんだ。
その狐は車にびっくりしたのか、すぐに山に駆け込んでしまい、姿が見えたのは、ほんの一瞬だけだった。
それからしばらく車を走らせていると、またあのT字路に出てしまった。
いや、よく見ると、それは十字路だった。
どういうわけか、今までずっとT字路だと思っていたのは、実は十字路だったんだよ。
家族そろって、なんで正面の道が見えなかったんだろうと首を傾げるしかなかった。
見通しが悪いとか、そういうことではなく、本当になぜこれをT字路だと思っていたのか自分たちも不思議だった。
狐に化かされるって言うのは本当にあるんだね、家族全員で驚いた夏の思い出です。