そこは印刷データを製版フィルムに起こすサービスビューロー
ここでは四ヶ月毎に一ヶ月間の夜勤オンリーが続く勤務シフトが待ち受けていた
そのビルの裏は○宗寺という340年以上の歴史のあるお寺さん
2階の窓を開ければ境内と墓所が一望できる、まったく嬉しくないロケーションだ
で、夜勤なんだが
何かが見てる……
フロア内には○宗寺とは真反対の道路側にソファーのあるスペースがあり、
切迫詰まってギリギリで入稿する印刷データを持ち込んで来られるお客様を
出力までお待たせする待合い室があったのだ
不思議なことに夜勤で独りの時になると、ここから針のような視線が飛んでくる
待合い室には観葉植物しか置いていないのに、何か姿のない存在が見ている感じがするのだ
最初はバイトくんと2人で居る時も内心気にはなっていたが、バカげた事なので放っておいた
しかしある日、先輩社員が新社員の女の子と話している時に遂にこの件で口火を切った
「ここは出るよ、ほら、あそこからいつもジーッと何か見てる!」
そう言って指を指す先輩
それは紛れもなく自分が言わずに秘めていた、あの待合い室の観葉植物のある辺りだった
そうなるとこちらもカミングアウトするしかない
実はと、自分もそれを知っていた事を告げてみると、どうやらこの謎の視線に
気がついていたのは我々二人だけなのだと分かった
後輩の女の子はシーンとするのみで反応は薄い……
隣は江戸時代初頭から続く○宗寺である
浮かばれぬ魂が建物の2階にやって来るとは、畏れ入る噺である
ただ、ビルの1階は駐車場で、夜間は閉鎖するので住むには寂しかったのかもしれない