トラックドライバーの彼がその運送会社に入社して3カ月
深夜に通い慣れた峠を越えていた時の話
3カ月とはいえ毎日乗っているトラックだから、何トン積んでいたらここは何速何㌔で上れるとか分かるそうだ
その日は最大積載の半分である5トンの荷物で峠を越えていた
5トンならこの先の九十九折りも4速入れっぱなしでも楽勝だと思っていた
ところが何故か底が抜ける程アクセルを踏んでも徐々に速度は落ちてゆく
下りでのブレーキの効きも何だか甘い
整備も抜かりないのにどうしたんだ?と思いつつも峠を越えてゆく中でふと思い出した
会社の年寄り運転手共があそこの峠は出るだのあそこのトンネルは通らないほうがいいだの言っていた事を
ジジイ共め、そんな話信じるもんかと鼻で笑い飛ばし峠を越え、夜明け前には目的地にたどり着いた
だが、朝になり荷降ろし前に荷台後部の観音扉を見て彼は鳥肌が立った
観音扉一面に泥の手形がびっしりと付いていた
出たのか?と、頭の中が真っ白になっていたその時、持ったばかりの携帯電話に会社の配車担当から着信があった
「昨日お前が帰った後、荷物があと4トン追加になったから積み増ししておいたぞ!
増えた分は先方に連絡してあるし手当増えるんやから喜べや
あ?観音に手形? ああ、年寄り運転手連中が面白がって昨日ベタベタやっとったわw いわゆる洗礼や
帰ったらちゃんと洗車しとけよ」
先方の荷受け担当がニヤニヤしていた