俺には新聞配達のバイトをしている友人がいるんだが偶然?にもそいつの配達地域が俺の住んでる町なんだよ。
基本的に俺は寝てることが多いけどごく稀に夜中まで起きてた場合、新聞配達が来たら窓から手を振るくらいのことはしてた。
まあ、友人はバイクに乗って仕事に夢中だから手を振っても気づいてくれるのは5回に1回くらいなんだけど。
しかし、自分の家に定期的な配達をしてくる人間が知り合いなんてこと早々無いと思う。1回、家に上がらせてお茶でも飲ませることを提案したが次の家への配達があるからとやんわり断られた。
この現状を利用してなんかしたいなあと思ったある日。俺はとある板で面白そうなスレを見つけた。
それは「郵便受けから手を出して新聞を待つのが楽しすぎwww」みたいなスレだった。これ、面白そうだなと思った。
今になって考えればやめときゃ良かったのだがその時の俺は珍しい形で仕掛けるイタズラに対する友人のリアクションが楽しみで仕方なかった。
計画を実行に移す前に俺は1週間ほど深夜まで起きていた。無論、友人が配達しに来る時間の平均を割り出すためだ。
平均時間(およそ深夜3時半すぎ)も割り出したところで計画スタート。3時頃に目覚まし時計をかけて起床。そこから郵便受けに手を突っ込んでスマホを弄りながら待機。
3時半を少し過ぎた頃、ついにその時が。静かな住宅街にバイクのエンジン音が微かに響いてきた。そしてバイクを止めたかのような音。さあ来いマイフレンドよ!
しかし、俺は本当に馬鹿なのである。見知らぬ人のドアの郵便受けから手が出ていたらそりゃあビビるが向こうからしたら知り合いの家のドアから手が出てるだけ。
いくら深夜とはいえ、こんなのにビビる奴はいねえよなあ。途中で気付いた俺は手を引っ込めようとしたがその手を掴まれた。
そこで俺はビビった。クソが、この野郎、やるじゃねえか。逆に俺をビビらせるってか。こちらも激しく手を振って抵抗。あれ?こいつこんなに腕力あったっけ?
そうこうしてるうちにパッと離される手。急に離されてビックリした俺はふっと力が抜けてその場にへたり込んだ。ああ、いい年して何やってんだ俺。アホらしい。
オナニーをしたわけでもないのに賢者タイムみたいになった俺はそこから10分ほど放心状態でスマホを弄った。ちょうどその時に本来の目的である新聞も郵便受けから出てきた。
部屋の覗き穴から確認するとそそくさと退散する友人の姿。こいつにカウンターを食らわされたと思うと何故かこみ上げてくる悔しさ。
後日、プライベートで会った時に俺からその話題を持ち掛けようとしたところ友人が開口一番切り出した。
「そーいやお前、先日の晩は何もなかった?」
冗談めかしく言っていると思った俺は「クソ野郎がwwwwwwまさかカウンター食らわしてくるとはやるじゃねえかwww」と返した。
しかし、友人は「え?」と狐につままれたような表情。こいつ、すっとぼけてやがるな。
「俺だってさ、お前にイタズラ仕掛けてやろうと思って考えたんだよ?なのにこんなこと、酷いわ~wwwwww」
「……いや、ごめん。ちょっと何言ってっか分からん」
「すっとぼけんなよwwwwwwサンドウィッチマンかよてめえはwwwwwwあれだよ、郵便受けから手を出したやつ。お前もその話だろ?」
「いや、俺が言いたかったのはさ、あの日配達しようとお前のマンションに行ったらドアの前に得体の知れない者がいたってことだよ。あれのおかげで配達が遅れて危うく怒られるとこだったし。何もなかった?」
「…は?」 瞬間凍りつく俺。
「バイク止めてさ、新聞入れに行こうと思ったら何か人影が見えたのよ。お前の知り合いかと思って割り込んで行こうか行かまいか躊躇ってたら暴れ出すし…しまいにゃその黒い人影、サラサラーっと空気に溶け込んで消えちまった」
話を聞いて凍りついたものの、俺は覗き穴から友人が立ち去るのを見ている。きっとこいつはこの後に及んでまだ俺を嵌めようとする気だな。そう思ったので敢えて嘘で返した。
「だ、だからかな。ここ最近左手がズシッと重いんだよね~wwwwwwwwwwwwwwwwww」
終始心配そうに眺めてくる友人。こいつ演技上手いな…アカデミー賞もんだろと思いつつ、その日は解散となった。
ただ、帰ってる途中で俺は気づいてしまった。友人の言っていることが本当だということに。
>1回、家に上がらせてお茶でも飲ませることを提案したが次の家への配達があるからとやんわり断られた。
そう、こいつは仕事中に俺の家1軒に構っている余裕など無いのだ。俺の手を掴んで10分待ったのちに新聞投下なんてふざけたこと、できるわけがない。
友人は恐らく遠目に見て待機していたから黒い人影にしか見えなかったしそう表現するしかなかったのだろう。近づけば真相が分かったのかもしれないが。
ただ、何であろうとそいつが俺に危害を加えていたことも恐らく事実。俺はとんでもないやつと格闘していたと思うとゾッとする。
これ以来、深夜に起きていることはなくなった。あいつが、いつどんな形で来るかも分からないからだ。