友人は相当堪えた様で、しばらく音沙汰がなかったのだが、ある日俺は彼に呼び出され、近所のファミレスで食事をした。
彼はなんだか異様な目をしていて、興奮した様子だったので嫌な予感がしたんだけど、今の彼を邪険に扱うのはよくないと思って話を聞くことにしたんだ。
彼が取り出したのは、一冊の日記。
俺にそれを手渡しながら、おかしなことを言った。
「彼女(死んだ彼女)は地獄で拷問を受けてる。助けなきゃ」
はぁ? と思いながらその日記の中身を見ると、汚い字で血なまぐさい事が延々と書き連ねてある。
「○月×日、舌に穴をたくさんあけられた」「○月△日、足のつめをはがされた」みたいな感じ。
日記の始まりは彼女が亡くなった当日で、彼曰くその日記は毎日勝手に書き足されているらしい。
もちろん俺は信じなかった。友人がこんな事をする動機に心当たりもあった。
実を言うと、亡くなった彼女はあまり素行が良くなかったのだ。浮気もしていた。友人は知らないと思っていたが、きっと何かの拍子に知ったのだろう。そう思った。
だがそれにしたって、陰湿過ぎる。俺は言った。
「いい加減にしろ。浮気されて腹が立つのはわかるけど、死人に鞭打つようなことはするな(実際はもっと乱暴な言い方だったが、大意はこんな感じ)」
でも、それを聞いた友人は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしていたよ。
「え…?浮気…?」ってなもんでね。放心したままふらりと日記を抱えて出て行ってしまった。
翌日彼の下宿に行くと、部屋の鍵は開いていたが、彼の姿はなかった。
机の上に例の日記があった。開いてみると、昨日から1ページ分追加されていた。
「こゆびがないので もうかけません」
その日記に重ねるようにしてもう一冊白紙のノートが置いてあった。
これは誰の日記になるのだろう?彼か、それとも…
俺は流石に気味が悪くなって2冊とも燃やしてしまった。