怖いというか不思議というか、微妙な話なんだけど、久々に実家に帰ったら思い出したので。
私が中学生の頃の話。
私の友達に霊感があると自称する子がいた。
いつも見えるわけではなくて、ふとした瞬間に見えることがあるんだそうで、
たまに「そこにおばあさんの霊がいる」とか言い出して、周りから少し変わった子だと思われてた。
周囲の人も慣れたもんで、「はいはい、いつものね」って、真に受けてない感じだった。
そんな扱いだから友達は少なそうだけど、実際、性格も頭も良くて、でもどこか抜けてて憎めない感じで結構人気者だった。
お菓子作りが得意でイベントがあるたびに周りに手作りのお菓子を振舞って、
バレンタインやクリスマスには他のクラスからもお菓子目当てに女子が集まったくらいだったから、そのせいもあるかも。
部活も同じ絵画部。
そんな彼女が登下校中に、ある場所に差し掛かると、「赤い着物の子がいる」と言い出すようになった。
私の地元はド田舎で、通学も山をいくつか超えた先にあって結構通学が大変。
彼女が「赤い着物の子がいる」と言ったあたりは山の中に通ってる急な坂の途中で、
一生懸命に自転車をこいでいる時に突然そんなこと言い出したもんだから、
それどころじゃないんですけど!と思ってた。
いつものことだとその時はさして気にしてなかった。
ああ、いつもの不思議ちゃん発言だなって。
でもそれが一回二回じゃ済まなかった。
その坂道の途中で毎回「赤い着物の子がいる」って言う。
登下校中に毎回だから、一日二回、週に計10回。
本気にしてなかった私もだんだん気味が悪くなってきちゃって、無視するようにしてた。
また彼女が変なこと言い出すんじゃないかと心配で、上り坂には決して近寄らないようにと思ってたのに、
彼女は例の上り坂にまっすぐ向かっていった。
私はいい加減うんざりして、「また赤い着物ー???見えるの?」ってちょっと馬鹿にして言った。
そしたら「今は見えない。でも何かあると思う」なんて言う。
イラっときて、「何かって?何よ」と聞き返した。
するとまっすぐ、坂から見える山の奥へと続く獣道?かろうじて道っぽいのを指差して、「行けばわかるかも」って。
私も普段は彼女の霊感をちょっとした冗談くらいにしか思ってなくて、
でも今回はあまりにしつこいから、嘘を暴いてやろうって気持ちになった。
「いいよ。じゃあ、その何か、見に行こ」って彼女の手を引いて獣道に入った。
獣道は案外短くて、少し歩くとすぐに開けた場所に出た。
古びたお寺?神社?
知識がなくてよくわからなかったけど、なにせそんなような、六角形の建物がぽつんと立ってた。
どうせ何もないとタカをくくってたから、なんだか怖くなっちゃって。
「何かって、これ?ただのお寺?じゃん?ほら帰るよ」って彼女の手を軽く引っ張った。
でも彼女は私の話なんか聞いてない風で、私の手をほどいてその建物に近づいて、周りをぐるりと歩き出した。
もうその建物も彼女も不気味で、でも彼女を残して帰るわけにも行かなくて、ただただ、離れた場所から彼女を見てた。
でも彼女がその建物の後ろに回って、姿が見えなくなってからなかなか戻ってこない。
何かあったのかって心配になって、でも怖くて、
しばらく迷ったけど一向に帰ってくる気配がないもんだから結局私も後ろに回ってみることにした。
建物の裏手に行くと、いくつかの地蔵に囲まれた人の腰くらいの高さの石があって、彼女はその前でボーっとたってた。
その様子がまた気味が悪くて、心ここにあらずって感じでじっと石を見てる。
何かにとりつかれたんじゃないかと怖くて、なかなか声がかけられなくて私もしばらくボーっと彼女の背中を見てた。
すると突然、「帰ろっか」って彼女が振り向いた。
別に、顔が別人になってたとか、様子がおかしかったとかそういうこともなくて、いつもどおりの彼女だった。
ただ、突然言われたもんだから、びっくりして、「えっ、あ、うん」と返すのが精一杯だった。
それから引き返す途中で彼女はお菓子やら絵のことを話しだして、結局あの建物はなんだったのかとか、あの石はなんだったのかとか、
何も聞けなかったし、聞ける雰囲気じゃなかった。
あの建物がなんなのか気になって昔からここら辺に住んでる祖父に聞いたけど、そんな建物があることも知らないと言っていた。
家からあの建物はさして離れてないから噂くらい知ってるかと思ったんだけど。
昔事故があったとか、そういう話もなかった。
ただ、あの石は、「お墓か何かかもね」って言われてますます気味が悪くなった。
私がいい顔しないことに気づいてか、だんだんと言わなくなった。
でもたまにじっと坂道から山の、獣道の方をじっと見てたから見えてたんだろうと思う。
月に一度くらい、遊びに行った先とかで「あそこに男の人の霊が見える」とかも言ってた。
周りは「やだ、こわーい」とか笑ってた中で私だけは一人、以前みたいに冗談には思えなくて、
彼女とは結局だんだんと疎遠になってしまった。