8月、9月の2ヶ月間の夏休みのうち、後半の9月いっぱいを実家で過ごすことに決めたんだが、俺は今回の帰省までこの家を見たことすらなかった。
というのも、母親が春先に離婚し、高2の弟を連れて今まで住んでいた家を出て今の場所に移ったからだ。俺は母親の籍に入ったし、親父とは絶縁したので、俺の帰省先は今年から母親と弟が暮らすこのアパートになった。
うちのアパートについてだが、田舎に最近やたらと増えている安っぽい洋風の2階建てで、一階に風呂・トイレ、キッチン、居間、2階に和室と洋室が一部屋ずつという造りになっている。
部屋は一つの棟に4部屋ずつで、似たようなアパートがあと2軒並んで建っている。ちなみに、うちは南に面した方の端の棟。
前置きが長くなった。
船と鈍行を駆使してくたくたになった俺を母親と弟が駅まで迎えにきてくれて、初めてこの部屋に案内された。
築浅できれいだし、南向きの角部屋だし、駅も近く、おまけに家賃も安い。これでもか!ってくらい良い物件だなと思った。強いて言えば、壁が薄いのか、隣の家の音がもろに響いてくることが難点だった。
そこで1階の間取りだが、玄関を入ってすぐに階段、その脇のスペースにトイレがあり、左手に居間に通じるドアがある。真ん中に磨り硝子が嵌まったよくあるやつだ。
居間に入り、弟に持たせていた俺の荷物をドアの脇に置くように指示している時だった。
バタバタと階段を降りる音がしていて、隣の部屋の奴うるせえな、と思っていると、階段から小さい女の子が降りてきたのが見えた。そいつは階段を降りて玄関の方へと向かったようだった。
磨り硝子越しではっきりと見えたわけではないが、俺の腰くらいの背丈で白いワンピースのようなひらひらしたスカートを着ているように見えたから、咄嗟に女の子だと思ったのだ。
しかし、うちには40代後半の母親とDTをこじらせた高2男子しかいない。幼女とは縁もゆかりもない。
弟は俺の荷物を片付けているし、母親は俺の後ろで晩飯の支度をしている。
すぐにドアを開けて見てみたが、そこには誰もいない。
「兄ちゃん、どうかしたの?」と聞く弟に、「いや、なんか今そこに幼女が……」と言うと、弟がものすごく食いついてきた。
「マジで!?兄ちゃんにも見えるんだ!」
「“も”ってなんだよ」
「俺も見るんだよな、たまに」
弟の話では引っ越し当初から階段な昇降や人影、ラップ音があったらしい。
階段の隣の人じゃないのか、と聞いたら、隣は夜勤の仕事をしていて夜はいないのだそうだ。
「でも、良かった~。やっぱり何かいるんだ、ここ」
「何で喜んでんだよ。全く良くないだろ」
俺の問いに、弟はへらへらしながら、
「いやぁ、俺、ギャルゲのしすぎでとうとうロリっ娘の幻覚が見え始めたのかと思って怖かったんだよ。兄ちゃんにも見えててマジで良かったわ」
それを言ったら、俺も自分の目をあんまり信用できないぞ。
それからも音や人影は相変わらず今日まで続いている。調べてみたが、やたらと人の入れ替わりが早いことくらいしか収穫はなかった。
9月中俺はその人影と追いかけっこしていたが、はっきりした姿形は未だ捉えていない。
ただ、分かったことがある。
どうやらこの部屋にいるのは幼女1人じゃないらしい。
何かが起こるのは親と弟がいない日中が多かったように思う。
居間でくつろいでいるとき、階段を昇る音がしたので、追いかけると白い裾と足が見えたが、階段が曲がったところで見失った。
2階の寝室となっている和室に布団を干そうと入ると、胸の高さくらいの窓にかかったカーテンが人型に膨らんでいる。(人型といっても、足はなく、上半身だけ)カーテンを開けたが何もなかった。
四つん這いになって居間の絨毯にコロコロをかけていて、方向を変えたところに青白い足がある。すぐに顔を上げるが何もいないし、足も消えていた。
夜にそういうことが起こっても、確かめにいこうとすると母親が怒って止めるので、その辺の確認は出来なかった。母親は、実害がなければ無視するし、それらを明らかにしたくないらしい。
生足についてだが、見えたのはふくらはぎより下で、明らかに幼女のものではなかった。見た感じでは20~30歳の女の足だった。
弟に話すとあまり興味がないようだったが、「足コキ……」と呟いて自室に消えた。
家の中で起こった目立ったことはこれくらいだ。あと5日くらいで下宿に戻るが、それまでに正体を解明できたらまた書き込みたい。
長くなってスマン。