姉の話。
姉はここ2、3ヶ月まえからダイエットしてる。
事務所の昼休みや帰りにウォーキングしたり自転車で出たりしてて
そのコースの途中に神社があるんだって。
だけどその神社は、私も見たことあるんだけどいつも閉まってる
鳥居の足元にガレージとかにあるようなXがいっぱい連なったみたいな感じの
門がついてて、鳥居からは入れないようになってる。
でも神社の隣にお寺があって、そのお寺から神社に行ける。
なんか姉はこの神社(以下A神社)に気に入られてるみたいだった
姉自身もいつも閉まってるA神社に興味持ってたみたいなんだけど
まるでA神社にも呼ばれてるみたいっていうのか
車で前通ったとき、寝てても誰かに呼ばれたみたいにパチって目覚めて
きょろきょろして「あ、ここの神社の前だったかー」ってことが何回もあった
でもそのお寺とA神社は車が止めづらい場所にあって
なかなかお参り自体は出来なかったのね
私もかなり前に、一回姉にくっついて初詣に行ったことはあるけど
「寂れた神社だな。もっと掃除すればいいのに」くらいしか思わなかった
境内に白い猫がいてその子はかわいかった
で、姉はウォーキングの途中にA神社に寄ってみた。
一回目は何もなかったんだけど、そのうち怖い夢を見るようになった
なんか怖いモノに襲われててどっかに避難してるのに、
そこから誰か知らない男の人に「こっちに行こう、外は怖くないよ」って
あの手この手で誘われるんだけど、
姉は「行ったら絶対にマズイ」って思って必死に断る夢。
最初は気のせいだって思ってたらしいんだけど
一ヶ月くらい連続で見るようになって一定の法則があることに気が付いた
A神社に寄ると怖くない夢、神社の前を素通りすると怖い夢、
ウォーキングに行かないと怖いところから綺麗な場所に誘われる夢。
綺麗な場所の時はお祭りに誘われたり、花とか星を見に行こうとか
綺麗な景色を見に行こうとかなんかデートっぽい誘い方。
とうとうある日、姉は一番怖い夢を見た
真っ白の着物を着せられて、白木の箱に寝かされて、火葬場の炉に入れられる。
扉が閉まると誰かが来て「このままだと焼かれてしまうよ」って
姉を連れ出そうとするんだって。
でも姉は「体は焼けるけど、私は焼けないから大丈夫。
それより今出て行っちゃったら家族に会えなくなる」って必死に断った
そしたらしびれ切らしたらしい相手が腕をぐって引っ張って、
「嫌だ!行かない!」って叫んだら目が覚めて助かった。
「真っ白の着物って死に装束?」って聞いたら「花嫁衣裳だった」って。
私は「それヤバいよ、変な神様に気に入られちゃったんじゃない?」って言ったんだけど
姉は「神様がこんな普通の人間を気に入ったりなんかしないでしょ」
でもヤバいことは姉が一番分かってたから
「Aさんに行ってくる」って地元の大きな神社にお参りに行った。
そこでお守りを貰ってきて、それを枕元に置いて寝るようにしたら怖い夢がなくなったらしい
今度はデートっぽい感じの夢ばっかりになったんだって。
花を貰うとか手紙が大量に来るとかストーカーに付きまとわれてるみたいな夢で、
そっちも必死に断ってたけど、今度は指輪を渡されたらしい。
怖いから指輪は嵌めなかったらしいけど、
指輪と言い花嫁衣装と言いなんか相手は本気っぽくない?ってことで
地元で有名な八卦見さんのところに行くことになった。
八卦見さんはすごい人で、会って挨拶してすぐ
「○○町のA神社のことだね?」といきなり言った。
姉は電話で「怖い夢を見るから」としか言ってないのに。
八卦見さんは「あんたの後ろに神様が見える」といって色々説明してくれた。
姉はやっぱりA神社の神様に気に入られちゃってたらしい。
でもA神社は開かずの神社になってて誰も来ないから神様が病んじゃってた。
神様と荒れた神社に入って来た魔物が混ざって余計に病んじゃって、
魔物は姉を連れて行きたいんだけど、神様は姉を守ろうとしてる。
でも神様自身も寂しいから段々姉を神社に近付けようとしてた。
普段は神様が勝ってるし、乱暴にすると姉に嫌われるから穏やかにしてるけど、
夢の中ではその抑えが利かなくてあんな怖い夢になってたんだって。
地元の大きな神社にお参りしてからは、魔物が抑えられたから
神様が正攻法で誘おうとしてる。もう病んじゃって力が無いから、夢でしか誘えないんだって。
昔だったらお嫁さんとして修行に行かされてるところだって言われてた。
「アンタは神様の妻になる気はある?」って聞かれた姉は、
「いくら神様でも夢とはいえ棺桶に突っ込んでくれた相手なんて絶対無理です」
ってきっぱり断ってた。
八卦見さんは「正気の時の神様は「時々姿を見せてくれるだけでいい」って言ってるよ。
でも、つらかったら近付かなくてもいい」って頷いてて、
お守りはきちんと持ってろとか、地元の神社には行くようにしろとか注意してた。
地元の神社の神様は力が強くて、もうそこにお参りした後だったから
八卦見さんはあんまりすること無かったんだって。
姉は「なんで私が見込まれたんでしょう」って聞いてた。
「今まで前を通ったことは何度もあるし、何年か前に行った時は何もなかったのに」
「前々から気にかけていらしたけど、
その何年か前のお参りに行った時にお気に召したんだろうね。
そういえばアンタ、最近行き始めた最初の時に雨に降られたって言ってたね。
それ天気雨だったんじゃないの?」
「はい、夕立だったんですけど、空の半分は晴れてて変な感じでした」
八卦見さんはやっぱりねっていう顔をした
「天気雨は狐の嫁入りっていうからね。嫁入りするのは狐だけじゃない、人間もだよ。
しばらく来なくて寂しがっていたところに、
また来てくれるようになったから、今度こそは逃すまいと思われたんだ」
情の深い神様だから長引くことは覚悟しなさいって言われて、それであとは帰ってきた。
姉はウォーキングのコースを変えて、わざわざ遠回りしてでも
A神社の前を通らないようにしてる。
変な夢を見る頻度は減ったみたいで、あとは徐々に治まっていくんだろうって言ってる。
長くなったけどこれで終わりです。