定番 怖い話

【怖い話】危険な好奇心 (2/2)

それから5年。。。

20140922c

俺・慎・淳はそれぞれ違う高校に進んでいた。
俺達はすっかり会うことも無くなり、それぞれ別の人生を歩んでいた。
もちろん『中年女』事件は忘れることが出来ずにいたが、『恐怖心』はかなり薄れていた。
そんな高一の冬休み、懐かしい奴『淳』から電話が掛かってきた。
「おう! ひさしぶり!」
そんな挨拶も程ほどに、淳は
「実は単車で事故ってさぁ……足と腰骨折って入院してんだよ」
「え?! だっせーな! どこの病院よ? 寂しいから見舞いに来いってか?」
「まぁ、それもあるんだけどさぁ。。。お前、【中年女】の事って覚えてる? 事件の事じゃなくってさぁ。。顔、覚えてる?」
「何で? 何だよ急に!」
「。。。毎晩、面会時間終わってから。。。変なババァが俺の事を覗きに来るんだよ。。ニヤつきながら。。」
淳の発した言葉を聞いたとたんに『中年女』の顔を鮮明に思い出した。
始めて出会ったあの夜の『歯を食いしばった顔』。
下校時に出会った『いやらしいニヤついた顔』。
自宅玄関で見た『狂ったような叫び顔』。
あれから忘れる努力をしていたが決して忘れることの出来ない『トラウマ』だった。
「何言ってんだよ?! もう忘れろ! ほんっとオメーって気が小せぇーなぁ?!」
俺は淳に答えた。
自分自身にも言い聞かせるように。。
淳は
「そーだよな。。。いや、こーゆーとこって妙に気が小さくなるんだよ!」
「そーゆーとこ、変わってねーな!」
と俺は余裕を見せた。
俺自信もあの日のまま成長していないが。
そして入院している病院を聞き
「近いうちにエロ本持って見舞いに行くよ!」
と言い電話を切った。
電話を切った瞬間、何故か胸騒ぎがした。
『中年女』
淳の言葉が妙に気に掛かりだした。

電話を切った後、しばらく考えた。
まさか、今更『中年女』が現れるはずが無い。。。
それにあいつは捕まったはず。。。いや、釈放されたのか??
というか、今思えば俺達三人は『中年女』に何をしたわけでも無い。
ただ『中年女』の呪いの儀式を見てしまっただけなのに、こちらの払った代償はあまりにも大きい。
偶然、夜の山で出会い、いきなり襲われた。
俺達は何一つ『中年女』から奪っていない。
それどころか傷付けてもいない。
『中年女』は俺達からハッピーとタッチを奪い、秘密基地を壊し、何より俺達三人に『恐怖』を植え付けた。
『中年女』がいくら執念深いといっても、さすがにもう俺達に関わってくるとは思えない。
こんなことを思うのも何だが、怨むなら『写真の少女』にベクトルが向くはず!
俺は強引に『俺自信』を納得させた。

2日後、俺はバイトを休み、本屋でエロ本を3冊買ってから淳の入院している病院に向かった。
久しぶりに淳に会うという「ドキドキ感」と、淳が電話で言っていた事に対する「ドキドキ感」で、複雑な心境だった。
病院に着いたのは昼過ぎだった。
淳の病室は三階。
俺は淳のネームプレートを探し出した。
303号室・六人部屋に淳の名前があった。
一番奥、窓側の向かって左手に淳の姿が見えた。
「よう! 淳、久しぶり!」
「おう! まぢ久しぶりやなぁ!」
思ったより全然元気な淳を見て少し安心した。
約束のエロ本を渡すと淳は新しい玩具を与えられた子供の如く喜んだ。
そして他愛も無い話を色々した。
淳といると小学生の頃に戻ったようでとても楽しかった。
無邪気に笑えた。
あっという間に時間は経ち面会終了時間が近づいてきた。
「んぢゃ、もうそろそろ帰……」
「実はさぁ、電話でも言ったんだけど」
と淳が真顔で何かを言いかけた。
「中年女の事だろ?」
と俺は言った。
すると淳は
「気のせいだとは思うんだけど……いつもこの時間に来るオバさんがいてさぁ、何か、こう。引っ掛かるっつーか」
「だから、気のせいだって! ビクビクすんなよ!」
と強気な発言をした。
すると淳は少しカチンと来たのか
「だから、勘違いかもしんねーっつってんぢゃん! ビビりで悪かったな!」
空気が重くなった。
俺は空気を読み、淳に謝ろうとした。
そのとき
『ガラガラガラ……』
廊下に台車のタイヤ音が響いた。
淳が
「来た……」
とつぶやく。
俺は視線を部屋の入口に向けた。
『ガラガラガラ』
台車は扉の前に止まったようだ。
そして、扉が開いた。
そこには上下紺色の作業着を着たオバさんが居た。
俺は
「何だよ! 脅かすなよ! ゴミ回収のオバさんじゃねーか」
と少し胸を撫で降ろした。
そのオバさんは患者個人個人のごみ箱のゴミを回収しだし、最後に淳のベットに近づいてきた。
淳が小声で
「見てくれよ!」
俺はそのオバさんの顔をチラッと見た。
「……!」
俺は息を飲んだ。
似ている……いや、『中年女』?なのか?
俺は目が点になり、しばらくその人を眺めていると、そのオバさんはこちらを向きペコリと頭を下げて部屋を出て行った。
淳が
「どう? やっぱ違うか?! 俺ってビビりすぎ?」
と聞いてきた。
俺は
「全然ちげーよ! ただの掃除オバさんぢゃん!」
と答えた。
いや、しかし似ていた。
他人の空似なのか?
「……んぢゃそろそろ帰るわ! あんま変な事考えてねーで、さっさと退院しろよ!」
と俺が言うと、淳は
「そだな。。あの女が病院にいるわけねーよな。お前が違うって言うの聞いて安心したよ。また来てくれよ! 暇だし!」
と元気よく言った。
俺は病室を出ると、足早に階段を駆け降りた。
頭の中からさっきの『オバさん』の顔が離れない。
『中年女』の顔は鮮明に覚えている。
しかし中年女の一番の特徴といえば 『イッちゃってる感』だ。
さっきのオバさんは穏やかな表情だった。
もし、さっきの『オバさん』=『中年女』なら、俺の顔を見た瞬間にでも奇声をあげ、襲い掛かって来てもおかしくない。
そうだ。
やっぱり他人の空似なんだ。
と考えつつ、なぜが病院にいるのが怖く、早々に家路についた。

家に帰ってからも『中年女』=『清掃おばさん』の考えは払拭しきれなかった。
やはり気になる……
その日は眠りに落ちるまでその事ばかり考えていた。
次の日『清掃おばさん』の事が気になり、俺はバイトを早めに切り上げ病院に行くことにした。
俺のバイト先からチャリで30分。
病院に着いたときには20時を回っていて面会時間も過ぎていた。
もう『清掃おばさん』も帰っている事は明白だったが、臨時入口から病院に入り、とりあえず淳の病室に向かった。
こっそり淳の病室に入ると淳のベットはカーテンを閉めきってあった。
寝たのか? と思い、そーっとカーテンを開けて隙間から中を覗いた。
「うわっ!」
淳が慌てて飛び起き、
「ビックリさせんなよ!」
と言いながら何かを枕の下に隠した。
淳はエロ本を熟読していたようだ。

俺は敢えてエロ本の事には触れずに
「暇だろーと思って来てやったんだよ!」
と淳の肩を叩いた。
淳は少し気まずそうに
「おぅ! この時間暇なんだよ! ロビーでも行って茶でもしよか?」
と言った。
俺は車椅子をベットの横に持って来て、淳の両脇を抱え、淳を車椅子に乗せてやった。
淳が
「ロビー一階だからナースに見つからんよーに行かんとな!」
と小声で言った。
俺達はコソコソと、まるで泥棒の様に一階ロビーに向かった。
途中、何人かのナースに見つかりそうになる度、気配を消し、物陰に隠れ、やっとの思いでロビーに着いた。
昼間と違い、ロビーは真っ暗で、明かりといえば自販機と非常灯の明かりしかなく、淳が
「何か暗闇の中をお前とコソコソするの、あの夜を思い出すよなぁ」
と言った。
「そだな。何であの時、アイツの事を尾行しちまったんだろーな。。」
と俺が言うと淳は黙り込んだ。

俺は今日病院に来た理由、すなわち『清掃おばさん』の事について淳に言おうと思ったが躊躇していた。
淳はこの先、1ヵ月近く此処に入院するのにそのような事を言うのは、と。
またあの時のように『原因不明のジンマシン』が出るかもしれない。
すると淳が
「お前、あのおばさんの事できたんじゃないのか?」
と。
俺はとっさに
「え? 何が?」
ととぼけたが、淳は
「そーなんだろ? やっぱり似てる……いや、【中年女】かもしれないんだろ?」
と真顔で詰め寄って来た。
俺はその淳の迫力におされ
「たしかに似てた……雰囲気は全然違うけど……似てる」
淳はうつむき
「やっぱり。。。前にも電話で言ったけど。。。」
と語り始めた。

淳は少し、声のトーンを下げ

「俺が入院して二日目の夜、足と腰が痛くて痛くてなかなか眠れなかったんだ。
寝返りもうてないし、消灯時間だったし、仕方ないから、目つむって寝る努力をしていたんだ。
そして少し睡魔が襲ってきてウトウトし始めた時、【視線】を感じたんだ。。。
見回りの看護婦だろうと思って無視してたんだけど、なんかハァ……ハァ……って息遣いが聞こえてきて、何だろう? 隣の患者の寝息かなぁ? って思って薄目を開けてみたんだよ。。
そしたら俺のベットカーテンが3cm程開いてて、その隙間から誰かが俺を見ていたんだ。。
その目は明らかに俺を見てニヤついてる目だったんだ。。
俺、恐くて恐くて、寝たふりしてたんだけど。。
そして、そのまま寝てたらしく、気付いたら朝だったんだ。
後から考えたんだ。
【あのニヤついた目】どこかで見覚えが
……そーなんだよ。
『清掃おばさん』の目にそっくりだったんだよ!」

俺はその目を知っている!
『中年女』にそのニヤついた目付きで見つめられた事のある俺にはすぐに淳の言う光景が浮かんだ。
更に淳は話を続けた。
「それにあの清掃おばさん、ゴミ回収に来た時、ふと見ると、何かやたら目が合うんだ。。俺がパッと見ると、俺の事をやたら見ているんだ。。。半ニヤけで。。。」
それを聞き、俺が抱いていた疑問、【中年女=清掃おばさん】は確信に変わった。
やっぱりそうなんだ。
社会復帰していたんだ!
缶コーヒーを握る手が少し震えた。
決して寒いからでは無い。体が反応しているんだ。
『あの恐怖』を体が覚えているんだ。。
その時、俺の後方から突如、光が照らされた。
「コラ!」
振り向くと、そこには見回りをしている看護婦が立っていた。
「ちょっと淳君! どこにもいないと思ったらこんなとこに! 消灯時間過ぎてから勝手に出歩いちゃダメって言ってるでしょ!それに、お友達も面会時間はとっくに過ぎてるでしょ!」
と、かなり怒っていた。
淳は
「はいはい。。。んぢゃまた近いうちに来てくれよな!」
と看護婦に車椅子を押され病室に戻って行った。
「おぅ! とりあえず、気つけろよ!」
と言った。
俺もとりあえず帰るか。。。と思い、入って来た急患用出入口に向かった。
それにしても夜の病院は気味が悪い。
さっきまで『あの女』の話をしていたからか? と思って歩いていると。
ん?
廊下の先に誰かがいる。
あれは?
清掃おばさん?
いや『中年女』か?
『中年女』らしき女が何かしている……

間違いない!
『中年女』だ!
この先の出入口付近で何かしている!
俺はとっさに身を隠し、『中年女』の様子を伺った。
どうやら俺には気付かず、何かをしているようだ。
中腰の態勢で何かをしている。
俺は目を凝らし、しばらく観察を続けた。
何か大きな袋をゴソゴソし、もう一方に小分けしている?
尚も『中年女』はこちらに気付く様子も無く、必死で何かしている。
ひょっとして、病院内の収拾したゴミの分別をしているのか?(俺達の地元はゴミの分別がルールとなっている)

その時、後ろから
「ちょっと、まだいたの? 私も遊びじゃないんだからいい加減にして!」
と、さっきの看護婦が。
俺はドキッとし、
「あ、いや、帰ります! どーも……」
と言い、出入口に目をやると『中年女』はこちらに気付き、ジィーっとこちらを見ていた。
「全く!」
看護婦はそう吐き捨て、再び見回りに行った。
いや、それどころでは無い!
『中年女』に見つかってしまった!
どうすればいい?
逃げるべきか?
先程の看護婦に助けを求めるべきか?
俺の頭はグルグル回転し始め、心臓は勢いを増しながら鼓動した。

俺は『中年女』から目を離せずにいると『中年女』は俺から視線を外し、何事も無かったように再びゴミの分別作業をし始めた。
『え!?』
俺は躊躇した。
その想定外の行動に。。
俺の頭には『襲い掛かってくる』『俺を見続ける』『俺を見、ニヤける』と、相手が俺に関わる動向を見せると思っていたからである。
俺はしばらく突っ立ったまま『中年女』を見ていたが、黙々とゴミの分別をしていて俺のことなど気にしていないようだった。
『何かの作戦か?』と疑ったが、俺の脳裏にもう一つの思考が浮かんだ。
【中年女≠清掃おばさやん】?
やはり、似ているだけで別人・・・?!
俺と淳が疑心暗鬼になりすぎていたのか?!
やはり『中年女』とは赤の他人の別人なのか?
そう一人で俺が考えている間も、『その女』は黙々と仕事をしている。
俺は意を決して、出入口に歩き出した。
すなわち『その女』の近くに。。。
少しずつ近づいてくるが相手は一向にこちらを見る気配が無い。
しかし、俺は『その女』から目を離さず歩いた。。

あっという間に何事も無く、俺は『その女』の背後まで到達した。
女は一生懸命ゴミの分別をしている。
手にはゴム手袋をハメて大量のゴミを『燃える』『燃えない』『ペットボトル』に分けていた。
その姿を見て、俺は『やはり別人か。。』
と思っていると、
『その女』はバッ!っとこちらを見て
「大きくなったねぇ~」
と俺に話し掛けてきた。
俺は頭が真っ白になった。
【大きくなったねぇ?オオキクナッタネェ?】
この人は俺の過去を知っている??
この人、誰?
この人、『中年女』?
こいつ、やっぱり
『中年女』!!
その女は作業を中断し、ゴム手袋を外しながら俺に近寄ってくる。
その表情はニコニコしていた。
俺はどんな表情をすればいい???
きっと、とてつもなく恐怖に引きつった顔をしていただろう。
女は俺の目前まで歩み寄って来て
「立派になって。。もう幾つになった? 高校生か?」
と尋ねてきた。
俺は『この女』の発言の意味が判らなかった。
何なんだ?
俺をコケにしているのか?
恐怖に引きつる俺を馬鹿にしているのか?
何なんだ?
俺の反応を楽しんでいるのか?
俺が黙っていると、
「お友達も大きくなったねぇ、淳くん。可哀相に骨折してるけど。お兄ちゃんも気付けなあかんよ!」
と言ってきた。
もう意味が全く解らなかった。
数年前、俺達に何をしたのか忘れているのか?
俺達に『恐怖のトラウマ』を植え付けた本人の言葉とは思えない。
『女』は尚もニヤニヤしながら
「もう一人いた……あの子、元気か?色黒の子いたやん?」
!!慎の事だ!
何なんだコイツは!
まるで久しぶりに出会った旧友のように。。
普通じゃない。。
わざとなのか。。?
何か目的があってこんな態度を取っているのか?

俺は『中年女』から目を逸らさず、その動向に注意を払った。
【こいつ、何言ってるのか解ってるのか?】
「あの時はごめんね……許してくれる?」
と中年女は言いながら俺に近づいてくる。
俺は返す言葉が見つからず、ただ無言で少し後退りした。
「ほんまやったら……もっと早くあやまらなあかんかってんけど……」
俺は耳を疑った。
こいつ、本気で謝罪しているのか?
それとも何か企んでいるのか?
ついに『中年女』は手を伸ばせば届く範囲にまで近づいてきた。
「三人にキチンと謝るつもりやったんやで……ほんまやで。。。」
と言いながら、ますます近づいてくる!
もう息がかかる程の距離にまで近づいた。
『あの時』とは違い、俺の方が身長は20cm程高く、体格的にも勿論勝っている。
俺は『中年女』に指一本でも触れられたら、ブッ飛ばしてやる! と考えていた。

『中年女』は俺を見上げるような形で、俺の目を凝視してくる。
しかし、その目からは『怨み』『憎しみ』『怒り』など感じられない。
真っ直ぐに俺の目だけを見てくる。
「あの時はどうかしててねぇ、酷い事したねぇー。。」
と『中年女』は謝罪の言葉を並べる。
俺はもう、 その場の『緊張感』に耐えれず、ついに走りだし、その場を去った。
走ってる途中、『もし追い掛けられたら……』と後ろを振り向いたが『中年女』の姿は無く、ある意味拍子抜けた。
走るのを止め、立ち止まり、考えた。
さっきのは本当に本心から謝っていたのか?

俺は中年女を信じることが出来なかった。
疑う事しか出来なかった。
まぁ『あの事件』の事があるから当たり前だが。
俺は小走りで先程の場所近くに戻ってみた。
そこには再びゴム手袋をはめ、大量のゴミの分別をする『中年女』の姿があった。
こいつ、本当に改心したのか?
必死に作業をする姿を見ると、昔の『中年女』とは思えない。
とりあえず、その日はそのまま帰宅した。

俺は自室のベットに横になり、一人考えた。
人間はあそこまで変わることが出来るのか?
昔、鬼の形相でハッピー・タッチを殺し、俺を、慎を、淳を追い詰め、放火までしようとした奴が。。。
『ごめんね』など、心から償いの言葉を発することが出来るのか。。
いや、ひょっとして【あの事件】をきっかけに俺が変わってしまったのか?
疑心暗鬼になり、他人を信じる事が出来ない『冷たい人間』になってしまったのか?
『中年女』の謝罪の言葉を信じることで【あの事件】の精神的な呪縛から解放されるのか?
もう一度、『中年女』に会い、直接話すべきだ。。。
俺は『中年女』にもう一度会うこと、今度は逃げないこと!と決意を固め、その日は就寝した。
そして次の日、俺はバイトを休み、病院に行った。

まずは淳の病室に入り、昨日の出来事を説明した。
そして今日は『中年女』に会い、直接話してみるつもりだ、と 言う事を伝えた。
淳は最初『中年女』は変わっていない!と俺の意見に反対だったが
「このまま一生、中年女の存在に怯え、トラウマを抱えたまま生きていくのか?」
と俺が言うと、
「……中年女に会って話すんだったら俺も付き合う、。。」
と言ってくれた。
しばらく沈黙が続いた。
刻々と時間は過ぎ、面会時間終了のチャイムが鳴ると同時に
『ガラガラガラ……』
廊下の奥の方からゴミ運搬台車の音が聞こえてきた。
「。。来たな。。。」
淳がボソッと呟いた。
俺は固唾を飲んで部屋の扉へ視線を送った。
『ガラガラガラ』
台車の音が部屋の前で止まった。

部屋の扉が開いた。
作業服の『中年女』が会釈しながら入室してきた。
俺と淳はその姿を目で追った。
『中年女』は奥のベットから順にゴミ箱のゴミを回収し始めた。
「ごくろうさん」
と患者から声を掛けられ、笑顔で会釈をする中年女。。。
とても昔の『中年女』と同一人物とは思えない。
そして、ついに淳のベットのゴミ回収に中年女がやってきた。

『中年女』はこちらに一切目を合わせず、軽く会釈をし、ゴミを回収し始めた。
俺は何と声を掛けていいのかわからず、しばらく中年女の様子を伺っていたが、淳が
「おばさん! どーゆーつもりだよ?」
と 切り出した。
中年女はピタッと作業の手を止め、俯いたまま静止した。
淳は続けて
「あんた、俺の事覚えてたんだろ? 俺には謝罪の言葉一つも無いの?」
俺はドキドキした。
まさか淳が急にキレ口調で話すなんて予想外だった。
中年女は俯いたまま
「……ごめんねぇ。。。」
とか細い声を出した。
淳はその素直な返答に驚いたのか、キョトンとした目で俺を見て来た。
俺は
「。。。おばさん。。。本当に反省してるんだよね?」
と聞いてみた。
すると中年女はこちらを向き
「本当にごめんなさい。。私があんな事したから淳君、こんな事故に会っちゃって。。。私があんな事したから・・・ほんとゴメンね!」
と。
俺と淳は更にキョトンとした。何か話がズレてないか?
俺は
「いや、昔あんた犬に酷い事したり、俺ん家にきたり、すべてひっくるめて!」
と言った。

中年女は
「本当にごめんなさい! 私が、私があんな事さえしなければ、こんな事故、ごめんね! 本当にごめんね!」
と泣きそうな声で言った。
その態度、会話を聞いていた病室内の患者の視線が一斉にこちらに注目していた。
静まり返った病室に
「ゴメンね! ごめんなさい! ゴメンなさぃ!」
と中年女の声だけが響いた。
淳は少し恥ずかしそうに
「もういいよ! だいたい、俺が事故ったのアンタとは一切関係ねーよ!」
と吐き捨てた。
中年女はペコペコ頭を下げながら淳のベットのゴミを回収し、最後に
「ごめんなさい……」
と言い、そそくさと病室から出て行った。
その光景を周りの患者が見ていたので、しばらく病室は変な空気が流れた。
淳は
「何なんだよ! あのオバハン! 俺は普通に事故っただけだっつーの。。何勘違いしてやがんだよ!」
といいながら枕をドツイた。
俺は『中年女』の行動、言動を聞いていてハッキリと思った。
やはり『中年女』は少しおかしい。
いや、謝罪は心からしているのだろうが、アイツは『呪いの儀式』を行った事を謝っていた。
『呪い』を本気で信じているようだった。
淳は
「あの頃は無茶苦茶怖い存在やって今だにトラウマでビビってたけど、さっき喋って思ったんは単なるオカルト信者のヲバはんやって事やな!」
と何処かしら憑き物が取れたと言うか、清々しい表情で言った。
俺は
「あぁ、昔と違って俺らの方が体もデカくなったしな!」
と調子を合わせた。
「さて、とりあえず一件落着したし、俺帰るわ!」
「おぅ! また暇な時来てや!」
と言葉を交わし俺は病室を出て家路に就いた。
家に帰る途中、俺は慎の事を思い出した。
アイツにもこの事を伝えてやろうと。
アイツも今回の話を聞かせてやれば、きっと『あの日のトラウマ』が無くなるのでは無いか、と。

家に帰り早速、慎と同じサッカー部だった奴に電話をかけ、慎の携帯番号を聞いた。
そして慎の携帯に電話を掛けた。
「おう! ひさしぶり!」
なつかしい慎の声。
俺はしばし慎と、最近どうよ? 的な話をした後、淳が事故って入院したこと、その病院に『中年女』が 清掃員として働いていること、中年女が昔と別人のように心を入れ替えている事を話した。
慎は『中年女』が謝罪してきたことに対し、たいそう驚いていた。
そして最後に慎は
「淳が退院したら三人で快気祝いをシヨウ」
と言った。
もちろん俺は賛成し、淳の退院のメドが着き次第連絡すると伝えた。
その翌日、俺は病院に行き淳に
「慎がおまえの退院が決まり次第、こっちに帰って来て快気祝いしようってよ!」
と伝えた。
淳はたいそう喜んでいた。

それから一週間程、病院に見舞いには行っていなかった。
別に理由は無いが、新学期も始まり、なかなか行く時間が無かったというのもある。
それに『中年女』が更正(?)しているようだったので、心配も以前ほどはしていなかった。
何かあれば淳から電話があるだろうと思っていた。
そんなある日、淳から電話が掛かってきた。
内容は来週退院するとの事だった。
俺は、良かったな、と祝福の言葉と共に『中年女』の動向を聞いたが『普通にゴミ回収の仕事をしている。特に何もない』との事だった。
そして、さらに一週間が経ち、淳は退院した。
俺は学校帰りに淳の家に立ち寄った。
チャイムを押すと、松葉杖をつきながら淳が出てきた。
「おぅ! 上がれよ!」
足にはギブスをはめたままだったが、すっかり元気そうだった。
淳の部屋でしばし雑談をした。
夕方になり俺は帰宅し、夕飯を喰った後、慎に電話をした。
「淳、退院したぜ!」
「まぢ! そっか、じゃあ快気祝いしなくちゃな! すぐにでも行きたいけど部活が忙しいから月末頃にそっち行くよ!』
との事だった。

そして月末の土曜日。
俺、慎、淳。小学校以来、久しぶりの三人での再会だった。
昼に駅前のマクドで落ち合った。
久しぶりに会った慎は冬なのに浅黒く日焼けし、少しギャル男気味だった。
まぁ、それはさておき、夕方まで色々と語った。
それぞれの高校の話。
恋の話。
昔の思い出話。
もちろん『中年女』の話題も出てきた。
あの時それぞれが何よりも恐ろしく感じていた『中年女』も、今となればゴミ回収のおばさん。
病院での出来事を俺と淳が慎に詳しく話してやると、慎は
「あの頃と違って、今ならアイツが襲って来てもブッ飛ばせるしな!」
と笑いとばした。
もう俺達にとって『中年女』は過去の人物、遠い昔話でトラウマでも無くなっていた。

夕方になり、俺達はカラオケBOXに行った。
久しぶりの『三人』での再会と言うこともあり、俺達は再会を祝して『酒』を注文した。
まぁ酒と言っても酎ハイだが。
当時の俺達は充分に酔えた。
各々、4、5杯ぐらい飲み、皆ほろ酔いだった。
いい気分で歌を歌い、かなりHIGHテンションだった。
そして二時間経ち、歌にも飽き出した時、慎がある提案をした。
「よーし、今から秘密基地に行くぞ! あの時、見捨てちまったハッピーとタッチの供養をしに行くぞ!」
と。
一瞬、空気が凍った。
俺も淳も「……」と言葉を失った。
まさか『あの場所』に行こうなんて予想外の発言だったから。
慎はそんな俺達を挑発するように
「オメーら変わってねーな! まぢでビビっんの?! ハハッ!」
と少し悪酔い? していた。
その言葉に酔っ払い淳が反応し
「あ? 誰がビビるかよ! 喧嘩売ってんのか慎?」
とキレ出した。
俺は酔いながらも空気を読み
「おいおい、やめとけって! 第一、淳まだ杖突いてんだぜ?」
と言うと、慎がすかさず
「あ、そっか、杖ツイてちゃ逃げれねーしな? ハハハ♪」
とかなりの悪酔いしていた。
淳は益々ムキになり
「うるせーよ! 行きてーんなら行ってやるよ! お前こそ途中でビビんぢゃねーぞ?」
とまるで子供の喧嘩のようになり、結局『ハッピーとタッチの冥福を祈りに』と言う名目で行くことになった。
慎、淳は二人とも結構酔っていたのと、引くに引けなかったんだと思う。
まぁ『ハッピーとタッチの供養』はいずれしなければならないと思っていたので、いい機会かもと少し思った。
三人なら恐さも薄れるし。
カラオケBOXを出て、コンビニに寄り、あの2匹が大好きだった『うまい棒』と『コーラ』を買い込み、タクシーで一旦俺の家に寄り、照明道具を取って来てから『小学校の裏山』へ向かった。

タクシー運転手に怪しげな目で見られつつ、山の入口でタクシーを降りた。
俺は三人でよく遊んだ裏山という懐かしさと共に『あの日』の出来事を思い出した。
こんな夜更けに又、入ることになるとは……
そんな俺の気持ちも知らずに淳は意気揚々と
「さぁ、入ろうぜ!」
と杖を突きながらズカズカと入っていく。
その後ろをニヤニヤしながら慎が明かりを燈しながら着いて行った。
俺は
「淳、足元、気つけろよ!」
と言い、慎に続いた。
いざ山に入ると、昔と景色が変わっていることに驚いた。
いや、景色が変わったのでは無く、俺達がデカくなったから景色が変わって見えているのか?
登山途中、慎が淳をからかうように
「中年女がいたらどーする? 俺、お前置いて逃げるけど♪」
等、冗談ばかり言っていた。(俺は逃げるけど)
思いの外、スムーズに進め、30分程で『あの場所』に到達した。

『あの場所』
『初めて中年女』と会った場所。
俺達は黙り込み、ゆっくりと明かりを燈しながら『あの樹』に近づいた。
『あの日』中年女が呪いの儀式をしていた樹。
間近に寄り、明かりを燈した。
今は何も打ち込まれておらず、普通の大木になっていた。
しかし、古い『釘痕』は残っていた。
所々、穴が開いていた。
恐らく警察がすべて抜いたのだろう。

しばらく三人で釘痕を眺めていた。
そして慎が
「ここらへんでハッピーが死んでたんだよな」
と、地面を照らした。
さすがにもう、ハッピーの遺体は無かったが、ハッキリとその場所は覚えている。
俺はその場に『うまい棒』と『コーラ』を供えた。
そして三人で手を合わせ、次は『タッチ』の元へ。
『秘密基地跡』へ向かった。

秘密基地に向かう途中、淳が
「色々あったけど、やっぱ懐かしいよな」
とポツリと言った。
すると慎が
「あぁ。あの夜、秘密基地に泊まりに来なければ、嫌な思い出なんて無かっただろうな」
と言った。
確かに。
この山で『中年女』に会わなければ、ここは俺達にとっては聖地だったはずだ。

「ここらへんだったよな」
慎が立ち止まった。
『秘密基地跡地』
もう跡形も無かった。
あの日バラバラにされていた材木すら一枚も無かった。
淳が無言でしゃがみ込み、『うまい棒・コーラ』を置き、手を合わせた。
俺と慎も手を合わせた。
しばらく黙祷したのち、慎が言った。
「ハッピーとタッチがいなけりゃ。今頃俺達いなかったかもな」
「あぁ」
「そうだよな……結局、中年女も更正して、なんだか、やっと悪夢から解放された感じだな」
しばらく沈黙が続いた。

ふと慎が周囲や目の前の池を電灯で照らし、
「この場所、あの頃は俺らだけの秘密の場所だったのに、結構来てる奴いるみたいだな」
と。
慎が燈す場所を見ると、スナック菓子の袋や空き缶が結構落ちていることに気付いた。
「ほんとだな、あの頃はゴミなんて全然無かったもんな。。今の小学生、この場所しってんのかな?」
淳が続けて
「あの時は俺ら、まじめにゴミは持ち帰ってたもんな」と言った。
その時、慎が
「うわっ! 何だこれ!」
と叫んだ。
俺と淳はその 声に驚き、慎の照らす明かりの先に視線をやった。

一本の木に何やらゴミが張り付いている。
よく見ると無数の菓子袋や空き缶、雑誌が木に釘で打ち付けられていた。
「なんだこれ?!」
慎が明かりを照らしながら近づいていった。
俺と淳も後を着いて行った。
「誰かのイタズラ??」
俺はマヂマヂと打ち付けられたゴミを見た。

その時、
「あぁぁぁ、、、これ、、俺の、ゴミぃ、、ぁぁぁぁあ、、」
と淳が震えた声で言いながら硬直した。
「は?!」
俺と慎は聞き直した。
淳は
「あ?ぁぁぁ、、俺が、病院で捨てた、、、あぁぁ、、」
といいながら後ずさりした。

慎が
「おい! 淳! しっかりしろ! んなわけねーだろ!」
と怒鳴りながら、釘で打たれた一枚の菓子袋を引きちぎった。
それを見て、淳は
「あー、ぁあぁ、、」
と奇妙な声を出し、尻餅を付いた。
その行動に俺と慎は呆気に取られたが、次の瞬間、
「うわっ!」
と、慎が手に持っていた袋を投げた。
「え?!」と俺がその袋に目をやると、袋の裏に
「淳呪殺」
とマジックで書かれていた。
俺は『まさか?』と思い、木に釘打たれたゴミを片っ端から引き剥がし、裏を見た。
『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』
すべてのゴミに書かれていた。
淳は口をパクパクさせながら尻餅を付いた状態で固まっていた。
慎が何気に周囲に落ちていたゴミを拾い、
「!おい!、これ!」
と俺に見せてきた。
『淳呪殺』
なんと、周囲に落ちているゴミにも書かれていた。

俺はその時、初めて気付いた。
『中年女』は更正なんて初めからしていなかったんだ。
ずっと俺達を怨んでいたんだ。
俺が病院で見掛けた、ゴム手袋をして必死で分別していたのも、淳のゴミだけを分けていたんだ!
俺達に『ごめんね』と言っていたのも全部嘘だったんだ。
俺は急にとてつもなく寒気を感じた。
【此処にいてはいけない!】と本能的に思い淳に
「おい!しっかりしろ!行くぞ!」
と行ったが、
「俺の、、ゴミ、。俺のゴミ、、、」
と淳は壊れていた。
発狂していた。
とりあえず慎と俺で淳を担ぎ、山を降りた。

あれから8年。
あの日以来、もちろん山には行っていない。
『中年女』とも会っていない。
まだ俺達を怨んでいるんだろうか?
どこかで見られているんだろうか?
しかし、俺達三人は生きている。
ただ、今だに、淳は歩く事が出来ない。

 

 【怖い話】危険な好奇心 (2/2)はこちら

 

引用元:http://kowai.publog.jp/archives/31404985.html

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