太陽の光を浴びながらの散歩というのは最高に気持ちがいいものだが、それが今日は
残業のせいで台無しだ。
…まあいい。明日は休みだ。それに、夜の散歩というのも悪くはない。
歩きだしてどれくらいの時間が経っただろうか。
昼間と比べると嘘のような静けさの中を、一人黙々と歩いて行く。
グシャリ。
「ん?」
暗い路地に差しかかったとき、何かを踏み潰したような感触があった。
何とも形容しがたい、奇妙で、不気味な感覚。
「何だ?犬の糞でも踏んだか?」
それにしては小さかったような気がする。
決して大きくは無かった。例えばそう、ピンポン玉くらいか?…とはいっても、確認する術がない。
この辺りは街灯が全くと言っていいほど無く、見通しが悪い。
生憎、灯りになるような物も持ち合わせていなかった。
しかし…、何か嫌な予感がするのは気のせいか。
得体の知れぬ恐怖感が不安を掻き立てる。
…よし、今日はこれで引き上げよう。
何を踏んだかは、家に帰ってから靴を確認すれば分かることだし、もう夜も深い。
元来た道を帰ろうと振り返り、歩みを進める。
しばらく歩くと、先ほどの路地の辺りの電柱の影に隠れるようにして、誰かがしゃがみこんでいる。
あたりは視界が悪く、判別がしづらいが髪の長さからして女の子のようだ。
歳の頃は…小学生くらいか?
いくらなんでも、こんな時間帯に一人で居るなんておかしい。
それにこんな少女が。
早く帰宅したいという思いもあったが、何せ小さな女の子だ。
事情を聞かない訳にはいかないだろう。
少女に近づき、目線を合わせるようにしゃがみこみ、話しかける。
顔は暗がりのせいでほとんど分からない。
「こんな時間に何やってるの?お父さんかお母さんは?」
「ボールでね、あそんでたの。」何故こんな時間に?少女は続ける。
「だけどね、ちいさかったからね、ついさっきなくしちゃった。」
「ボール遊びをしていたの?でももう遅いから、帰らないと。家は何処?」
「くらくってね、よくみえないからね、みつからないの。」
少女の話によると、ボール遊びをしていたようだが、私にとってそんなことは
どうでもよくなっていた。
先ほどから妙な不安感。この少女はなにかおかしい。それに踏んだ何かも気にかかる。
もう置き去りにして帰ってしまおうか。
早く家に帰って、一息つきたい。この不安感を拭い去ってしまいたい。
そう考えていると、ふと、遠くのほうから車の音がした。どうやらこちらに向かって来ているようだ。
…こんな時間に車が通るなんて珍しいな。
車は私と少女のほうに近づきながら、目の前を通り過ぎていく。
車のライトに照らされ、浮かびあがる少女の顔。
少女には片目が無かった。
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