ソイツを見た瞬間俺はビビっときたね。
座敷女…!
座敷女を知らない人の為に説明すると、まあ妖怪じみたストーカー女が出てくる
傑作ホラー漫画の事だ。
俺はかなりビビったよ。
でもコンビニは客商売、いちいち反応してたらキリがない。
「俺のレジに来たらやだなぁ」くらいの考えで済ます事にした。
で、見事に俺のレジに来た訳だ。しかも行動が最高に気持ち悪い。
小銭を受け皿の手前にバラまいて金を数えて渡すまではいい。
ブツブツニヤニヤしながら俺を見てくるんだ。しかもお釣りを受け取る時、
何故か胸の高さまで手を上げてお釣りを渡す瞬間に手をフォークさせるんだ。
分かるだろうか、渡そうとして急に手を下ろされる気持ち悪さを。
しかも何故か座敷女は清算を2回に分けるんだ(しかも大体おでんを2つ)。
「嫌な客だなぁ」と思いつつ、その日は終わった。
次の日、またその次の日。座敷女は毎日コンビニに来るんだ。
「お前はそんなにおでんが大好物なのかよ」と言いたかったが、もちろん言える訳ない。
相変わらず清算の時はブツブツニヤニヤフォーク。
それでも、まあその時だけ我慢すればいいや、と思ってた。
座敷女を見かけるようになって2ヶ月くらい経ったある日、決定的な出来事が起きた。
その日俺とチーフ、女のバイトの人の3人がいた。で、座敷女ももちろん来た。
俺は相手したくなかったから、座敷女がレジに近づいてきた時にタバコの入れ替えを
するフリをしたんだ。その時
「Sさんがいい!」
座敷女の声だ。Sとは俺の名字だった。いっつもブツブツ言いながら俺の名札を
キチンと見てたとは…!
仕方ないからレジしたよ。手震えてたけどさ。
冷静に考えたら、座敷女は女のバイトの人が嫌いだったのかもしれない。
しかし俺は座敷女にそっくりな風貌、挙動不審っぷりを見て冷静でいられる訳がなかった。
座敷女が来れば、トイレ掃除に行くフリをしたり休憩に入ったりした。
出勤途中で店の入り口近くですれ違う(しかもニヤニヤこっちを見てくる)時も
完全無視を決め込んでいた。
そんなこんなで俺は精神的にも参っていた。
そして座敷女を避け出して1ヶ月くらいのある日だった。俺の家から店に行くまでに
俺は踏切を通っていた。家から数十メートル先にある踏切を
「バイト行きたくねぇなぁ」と思いながら自転車で渡ろうとした時だ。
いたんだよ、座敷女が。
そりゃ歩いて店に来てるんだから近くにいてもおかしくはない。
しかしその時の俺は冷静になれなかった。その風貌と挙動不審っぷりを考えて
「もしかしたら俺の家がバレたのか!?」と思っていた。その日俺は遠回りしてバイトに行った。
それから数日で俺は店を辞めた。座敷女だけが原因ではなかったが、とにかく辞めた。
今は別の仕事に就き、また外に出る機会も増えたが、未だにあの踏切を通る時は思い出してしまう。
まだ座敷女は俺を探しているのかもしれないと…。
怖くなかったらすいません。