
 
海で行方不明なんて出ると夜、夜中まで皆で横一列に手を繋いで探すんだ。
時間が立った死体は酷い有様で目なんかは最初に取れる。だから目の無い死体が見つかる。
まあ、その友人の話な。
 ある日、女性が海で溺れて行方不明になった。
それで友人たちは夜まで探したんだが女性は見つからなかった。 
 何日だったかとかはすまんが覚えてない。まあそれなりに長い期間探したらしい。
それでも見つからない。 
 もう遠くに流されてしまったんじゃないか、なんて皆は諦めムードに入りつつあった。 
 その日もいつも通り、夜まで女性を探していたが、やはり見つからない。
天気予報では嵐が来るらしく、海も荒れてきた。これ以上の捜索は危険だと判断し、沖に上がった。 
で、その小屋がボロいところで、風でがったがた煩いわ、窓(上の方についてて、細長い形の、
回転式でハンドルで開閉するやつ)も二つあるうち片方、閉まらないようなところだった。
扉の鍵も簡素ですぐに外れてしまうようなものだった。
 友人はその日、後輩と二人で小屋に寝泊まりする番だった。 
 後輩と共に酒を飲んでから、灯りを消して毛布をかぶり、そのまま就寝した。 
 夜中、友人は尿意を感じて目を覚ました。酒を飲んだせいだろう。 
 当たり前ながらこのボロい小屋にトイレなんてないので、外で用を足さなくてはいけない。 
 外は嵐だ。雨風が吹きつけて、小屋がガタガタと煩いし、ともかく気味が悪い。 
 仕方なしに横で寝てる後輩を起こす。 
 「……なんすか」 
 「おう、小便行きたいんだけど」 
 「あんなに飲むからですよ。行ってくりゃいいじゃないですか」 
 そう言ってまた眠ってしまう後輩。 
 一人では行きたくない。我慢できない程でもないか、と寝転がるとあることに気づいた。 
風も強いし、きっとヒトデが飛ばされてへばりついたのだろう。そう思っていた。
しかし、眠れなくてその影をじぃっと見ていると、星型の影が段々上に動いていくことにも気がついた。
妙だな、と影が大分上にいったところでハッとする。
あれはヒトデじゃない。人の手だ。
 そのまま固まっていると、手がずるずると上がっていく。窓の上部は空いている。 
 片方の手の指が、空いた窓の隙間に掛かった。ただ呆然と見ていると女の顔が隙間から覗いた。
わかめのようなものは、髪の毛だった。 
 そこでなんとか自我を取り戻して、隣にいる後輩を起こす。女は「あぁ…あぁ…」と呻きながら、
長い髪を揺らし、首を隙間に捩じ込もうとしていた。 
 「おい……お、起きろ!」 
 「トイレなら一人で行ってくださいよ……」 
 「そうじゃなくて、あれ!あれ!」 
後輩は気だるげに体を起こすと、友人が指差した方を見る。
「わかんねーよ!」
 あまりの恐怖に男二人でくっついて震えながら、窓から顔を捩じ込もうとする女を見る。
ただの呻き声だと思っていたものは、なにか言葉らしいが、なんなのかは聞き取れなかった。
「うぃ……けた……うぃ……けた」みたいな、顎が動いてない感じの喋り方だった。 
 暫くすると女は諦めたのか、いなくなった。  
 ほっとしたのも束の間、今度はドアからどんどんっと激しく叩く音がした。鍵が外れてしまいそうだった。 
 ひぃっと二人は悲鳴を上げる。 
 「おっ、おい!お前、ドア抑えろ」 
 「い、嫌ですよ、先輩行ってくださいよ!」 
 がたがたと激しく揺れるドア。 
 がくがくなりながら、なすすべもなく去ることを祈る。 
 がたん、ドアが開いた。 
 目の無い女の人が立っていた。 
「みつけた」
 どんどんと扉を叩く音で目を覚ましたら、気づけば朝になっていて、
「なにしてるんですか!起きてください」と男の叫び声がした。 
なんだ夢だったのか、とほっとした。
扉を開けると、地元の漁師の人が「早く来てください!マグロが上がったんですよ」と言った。
マグロは死体を意味する。友人と後輩は死体の上がった場所へ急いだ。
 そして友人は死体を見て驚いた。目のない、長い髪の女性だった。 
 昨晩、見たものと全く同じだったのだ。 
早く見つけてほしくて俺らのところに来たのかなあ、と友人は言ったらしい。
