3~4年前かな?
俺は霊感もないし,そういった経験もそれまではなかった。
だからそのアパートに住んで2年近く立ってからの金縛りなんて,
「疲れてるんだな」程度にしか考えなかった。
ちょうど人間関係のもつれから精神的にも肉体的にもキてたしね。
けど,2度目の金縛りの時,見ちゃいけないものを見た。
始まりは金縛り。起きて金縛り,じゃなくて圧迫感で目が覚めた。
「あーまたか。体動かないし,呼吸苦しいなー。」とか重いながら,
頭を覚醒させるために声を出そうとしたり,手足を動かそうとした。
俺の部屋は小さいながらも2DKで『品』の形に部屋が配置されてた。
上の口の左が玄関,右がユニットバス。俺が寝ていた部屋は左下のところ。
玄関から部屋に入るまでには玄関→玄関と部屋のしきり戸→部屋のしきり戸の
三つの扉がある。二つ目だけが引き戸で後は片開き。
で,その玄関の扉に違和感がある。違和感というよりイメージとして
誰かがいるのがわかる。
施錠は寝る前に確認しているハズだから入れる訳もない。なのに誰かがいて,
しかもそれが手に取るようにわかる。
はじめに書いたが,そういった経験は皆無だったので本当にパニックだった。
「来るなー,来るなよー」と必死に願っていたが,どこかで「これは夢だろ。」
って考えてる自分もいた。
でもそれは部屋に上がってきた。一歩踏みだし,力無くうつむいたまま引き戸の前に。
音もなく引き戸は開いた。一つ目の部屋に入ると向きを変え,俺がいる部屋の前に止まる。
「来る!」そう思った時。
片開きのハズのドアがスライドした。
そして,のぞき込むようにそれの顔と手が見えた。真っ白な顔,長くぼさぼさの髪,
真っ黒で落ちくぼんだかのような目,ひび割れて乾燥した唇,がりがりの指。
部屋は暗いのにやけにクリアに見える。
「ホラーなんて最近見てないのになんだよコレ!?」
夢だろうが現実だろうが入ってきたら拙い。それは明確に解った。
しかし,それはそこにたたずんいるだけで入ってこようとはしなかった。
ただじっと俺を見つめているのだ。
今だ続く圧迫感とじっと見つめる何か。
次第にいらだってきた俺は「もう帰れやっ!!」と罵倒するイメージをたたきつけた。
でも,帰らない。
俺はいい加減怖さも下がり「金縛りとけたらいなくなるのかなー?息つれぇ・・・」
と考えが落ち着きだした。そこで,今まではイメージとしてそれを感じていたのだが,
ここで目で見てみる事にした(玄関からずっと怖くて視線をやれなかったのだ)。
何とか動く視線をそれに向けた時だった。
視線が合った瞬間,おびえるように隠れるそれ。そして・・・
隣の部屋に行きやがった。
「まて,それは明日が怖いだろっ!」そう思っても金縛りは進行形で動けない。
疲れたのか俺はそのまま眠ってしまった。
朝起きてみたものは,閉めたはずの俺の部屋と隣の部屋の扉が開いている光景と。
玄関の扉内側の結露と手形ひとつ。
その後はそんなこともなくて,なんだったんだこれ?