昔、花屋に勤めていた。
大概の花屋は葬儀屋と提携していて、葬儀に生花を届け、終わると片付けに行く。
これと県内外から注文された花の配達と、他県への依頼を主な業務としている。
ある日、前日飾った生花を片付けに行った。
その告別式をしている家の前には、小学生が大勢並んでいた。(自宅でやっていた)
その数50人前後。
不思議に思い葬儀屋の人に聞くと、仏様は12歳の女の子で長い闘病生活の末、亡くなったらしい。
祭壇に可愛い女の子が笑っている遺影が飾られていた。
普段、葬式に仕事で出向いても何とも思わなかったが。
幼い遺影やショックでいる両親、すすり泣いている姉妹二人やおじいさん、顔をくしゃくしゃにして参拝する小学生達・・・。
それを見ていたら涙がこみ上げてきた。
棺を火葬場へ運ぶ時間が来た。
庭から参拝者や小学生達が出ていく。
堰を切ったように棺にすがりつく遺族。
「◯◯ちゃん!」
名前を叫ぶ両親、泣きじゃくる姉妹、なぜかひたすら「ごめんね!」と、謝り続けるおじいさん。
俺は、歯を食いしばって涙を堪えていた。(当時その葬儀屋は、なぜか現場では泣いてはいけない事になっていた)
ふと隣を見ると、葬儀屋のIさんが青い顔をして固まっている。
「どーかしたんスか?」
話し掛けると、Iさんは目線の先にアゴをしゃくった。
つられてそっちを見ると・・。
遺族が一人増えていた。
女の子が三人いる。
遺族がすがりつく棺の向こうに遺影の女の子が立っている。
足下の遺族の方を向いている。
泣きながら、謝り続けるおじいさんを見ているように思えた。
何が起こったのか理解できず、その子を見つめたまま身動きできなくなってしまった。
その子は、何かもどかしそうに身をよじりながら左右に首を振っていた。
ふと、顔を上げ、Iさんと俺を見た。
悲しそうな顔で俺たちを見つめ、左右に大きく首を振るとフッと消えた。
どうやらその子を見たのは俺とIさんだけだったようだ。
俺はそれまで見たことがなかっただけに、まだ震えていた。
Iさんは、「あの子、じいさんに、悪いのはじいさんじゃないよとか言いたかったのかなぁ」と、言った。