ある初夏の晩、俺は友達と二人で少し遠い堤防に行き、夜釣りを楽しんでいた。
その日は魚がぼんぼんと釣れ、今日は大漁だなとハイテンションで友達に話しかけた。
しかし、何故だか友達がテンションが低く、「うん・・・」とか「ああ・・・」としか言わない。
釣りに集中してるのか思えば、その動きも何やら鈍い。
何かおかしいと思いながらも、魚は連れ続けるのでこちらは釣りに集中する事にした。
それから10分ほどして、いきなり友達が「ああ、だめだ!」と言い出した。
先程からの友達の反応もあり、俺は釣り糸でも絡まったのかと無視して釣りを続けようとすると、いきなり釣竿を持ったまま体を翻して俺に近づいてきた。
友達:「早く行こう!車!!」
俺が何がなんだか分からずに戸惑っていると、「いいから、早く!!!」と。
友達の気迫に押され、俺は何も持たず友達と一緒に車に乗り込んだ。
何事か聞く俺を無視してしばらくし、友達が口を開いた。
友達:「あれ、見えるかな?俺たちが釣ってたとこ」
友達が指差す方向に目をやると、いつの間にか男が一人、堤防に立っていた。
この一方通行の堤防の先、俺達とすれ違わないと居れないはずの場所に。
友達:「あれ、ヤバイよ。歩いてきた」
俺:「どこから?」
友達:「海の上!」
友達が言うには、最初ここに来たときに、海の遠くで光る点があったそうだ。
漁船かとあまり気にせずに釣りを始めたが、その光が徐々に近づいてくるにつれ、それが人間だという事が分かったそうだ。
その男は海の上をゆっくりと歩いてこちらに向かってきており、恐ろしくなったが、俺が釣りを楽しんでおり、興を削がない様に何も言わなかったそうだが、かなり近くまで来たので我慢できずに車に戻ったとの事。
その男は、まだ竿や魚が残っている俺達が釣っていた場所にたたずんでいた。
釣り道具が惜しい気がしたが、明日の午前中に取りに行く事にし、男がこちらに来る前に堤防を出発した。
翌日、その堤防近くで身元不明の死体があがった。
俺達は魚を食う気になれず、そのまま捨てた。