自分は大学院生で、失恋がきっかけで論文が捗らなく教授に叱責されるなどのストレスもあって、その頃は必要以上によく落ち込んでいた。
気分転換によく自宅の周りの河原を散歩していたんだが、その日は起きるのが遅く夜になりかけていた。
その日は曇っていて空はもう薄闇。
いつも通り川沿いに歩いたんだが、30分も歩けなかったと思う。
右下に川があってその横が高台でコンクリートの遊歩道、左手にはススキ野原みたいな場所。
普段は遊歩道を歩きながら川に泳いでる黒い鯉を見たり、無学のせいで名前を知らない鳥を見たり、ただ単にそよいでる草やコンクリートを見たりしながら歩く。
要するに地方都市川沿いの普通の道。
養豚場がその道沿いにあるので、独特の匂いと共に時々なんとなく陰鬱な気持ちになるが、幼稚園もそばにあるし、普段は普通の明るい道だと思う。
でも、その日は霊感が全くない自分でも怖いなって感じがした。
雨が降る前触れなのか、風のせいか、ススキ野原や草が普段にはないほどザワザワ音を立てて揺れて、暗い空にカラスがここから早く離れようとしてるみたいに急いで大声で鳴きあって飛んでいくのが見えた。
自分しかその道にいないのがわかった。
右下の川は真っ黒で、風景全体が薄闇に包まれ、街灯も少ない道で変質者も出るかもしれないと思ったんだが、なぜかその日は風景自体が怖いなと思った。
うまく言葉では言えないんだが、薄羊羹みたいな色の哀しげな絵の中に閉じ込められて出れないみたいな感じ。
カラスの鳴き声も、いつもと違う感じに聞こえて、小走りになりながら帰った。
帰る道に派手な霊現象にあったわけでもなく、霊障が今も続いてるわけでもない。
でも、その日に見た夢は忘れられないと思う。
自分が歩いてたんだよね・・・。
寝る前に歩いた道を寝る前と全く同じ時間、同じコースで。
当然気味の悪い感じがする草木の音やカラスの声などの風景も全く一緒。(ちなみに、自分が必要以上にその日の川散歩を意識していたわけではない。その日は帰って家族とご飯を食べ、趣味のお笑いを見て友達とメール、、とすっかり忘れていた。あと、ここまで寝る前にしたこととピッタリ一致した夢を見たのはこれが初めてでその後はない。)
薄闇の中の陰鬱な風景の中、私はまた早く家に帰らなきゃ帰らなきゃと焦って小走りになっていた。
暗い川の流れも寝る前の散歩と一緒。
でも、全て同じ風景や自分の行動の中、一つだけ違うことがあった。
自分の方向に向かって男が早歩きよりもう少し早い速度で近付いてきていたことが、現実とは違っていた。
でも男がすごいペースで近づくにつれ、あれ?と思った。
目が普通の人間とは違う。
黒目の焦点が2つともに寄目になってるっていったらわかるかな?
2つとも視線が交差してどこもみてない目なんだよね。
それでいて黒目が大きくて、目が目立ち、中が空洞になってるようにも見える。
狂う位の空虚や無気力を煮詰めたような、見たことのない目だった。
もう中年男性っていうより、暗い大きなどこも見ていないような空洞みたいな目だけズンズン寄ってくるような印象。
あんな視線を交差させる目つきしてたら普通の人は歩けないし、目の前まで来た時に普通の人間じゃないなって思ったら怖くて怖くて・・・。
しかもなぜか私の横を通るんじゃなくて、私に近づいて来てるのがわかった。
避けるように歩こうとしても、もう手遅れで、見えないはずの、視線が交差した、真っ暗ながらんどうな瞳がどんどんどんどん迫ってくる。
そのまま人間じゃない男は、私の体に正面から入り、自分の怯えた叫び声で目が覚めました。
その後、何事もなく暮らしていますが(父母の別居はありました)、体の中に入っていったせいで、時々もしかして取り憑かれているのかなと思うこともあります・・・。
同じ道を夢の中で辿ったことで、あの時実はこんな霊がいたと教えてくれたのかもしれません。
川は不浄なものを流す場でもあるので、夜は通るなとその経験の後はじめて家族から聞きました。