あまり、怖くはないのですが思い出すたびに少しさびしくなる話があります。曾祖母と、我が家で以前飼っていた犬の話です。
今から10年以上前に、我が家でカイという犬を飼い始めました。番犬としての役割を果たすとき以外には無駄吠えしない賢い犬で、顔を覚えた相手には吠えたりしませんでした。なので、曾祖母も隣の老夫婦もかわいがっていました。
カイはたまに、どんなに叱りつけても誰もいないにもかかわらず吠え続けることがありました。そのときには、単に何か小動物に向かって吠えているのだと思って、あまり気に留めていませんでした。
そんなときです、お隣のおじいちゃんが亡くなったのは。
隣同士仲良くさせて頂いていたのでショックも大きかったです。お隣は、芝犬を飼っていたので、犬を飼っている関係からも親しくしていました。
おじいちゃんとおばあちゃんの2人と、芝犬がいつも仲良く寄り添っていたのを覚えています。
そんなお隣に舞い込んだ突然の事態が、おじいちゃんの死でした。
おじいちゃんの様子がおかしいことに気がついたおばあちゃんが、救急車を呼んで一緒に乗り込み病院に向かいました。
このとき、私はおじいちゃんもすぐによくなって帰ってくると思っていたのですが、そうはいきませんでした。
おじいちゃんが運ばれたのは夕方で、その日の8時頃、カイがしばらく吠えていました。おじいちゃんたちの飼っていたポチは静かにしているのに、こんなときにカイはどうして騒ぐのだろうと疑問でした。
おじいちゃんのお葬式の後は、おばあちゃんは、娘さんと同居することが決まり引っ越して行きました。
その数年後のことですが、うちの曾祖母が亡くなりました。
そのときにもカイは激しく吠えており、たまらず父に相談しました。葬式にはたくさんの人がやってくるので、訪問客のみなさんを怖がらせるのではないかと、そう思ったからです。ですが、父は少し寂しそうな顔をして、カイには見えているからと言いました。それと、お別れをいいに来たんだよ、とも。
お葬式の間にも思い出したように激しく吠えるのを繰り返していましたが、少し注意しようと思いカイの様子を見に行ったら、小さくクゥーンと鳴いて弱々しくしっぽを振りながら一点を見つめていました。
このときに、父の言った、カイには見えているからという言葉の意味が何となく分かったような気がしました。
カイには、死者の魂のようなものが見えているのだと。
今までのことも思い返すと、事故や病気などで親しい人がなくなった時や父が山狩りに駆り出されたあとなんかに吠えていたことが多かったと思い至りました。そして、父もなんとなくそれを感じ取ってあまり強くカイを叱らなかったのだと思います。
カイは、曾祖母の死の丁度1年後に、曾祖母の亡くなった時間頃に息を引き取りました。もともと、数年前からとある病気だと診断されており、その治療をしていました。
家族がカイを囲んでいると、最期に誰もいない方向へ小さく鳴きました。そして、静かに息を引き取りました。父が赤い目をこすりながら、ばあちゃんが迎えに来た、とつぶやいていました。
私には霊感はないので、本当にカイが普通の人には見えないものを見ていたのかはわかりません。
ですが、人の死や事故や病気に敏感だったのは、間違いありません。父は、昔自分には霊感があると言っていました。なので、葬式の際の父の様子から、おそらく父にも見えていて、お別れを言いに来たという言葉が出たのだと思います。
生前、カイと曾祖母は毎日長時間一緒にいたので、とても仲が良かったです。
なので、曾祖母は、カイの死後、カイを迎えに来て一緒にいったんではないかと思います。
一緒にいるなら、カイも曾祖母も天国で寂しくないのではないかと思っています。
霊感のない私の体験した唯一の心霊体験は、以上です。