わたしは学部の時に県外で一人暮らしをしていたんだけれど、大学院進学で地元に戻ってきた。
一つ下の妹が地元の私立大学に通っていて、かつ、わたしの進学する大学と距離が近かったこともあったということで、
私が戻ってくるのを機にお互いの大学の間くらいの場所に部屋を借りて二人暮らしをすることに。
学部の時にいた所から地元に帰るってなると片道5時間くらいかかってしまうこともあり、
「最低限これだけ満たしていればあとはどこでもいいよ~」とその条件だけ伝え、部屋選びは妹と両親(主に母親)に任せた。
だからわたしが実際に部屋を見たのは、卒業式を終えて地元に帰って来てから。
初めて部屋に行った日、「すっごくいい部屋でしょ!?」って母親は絶賛していたんだけれど、
わたしが最初に抱いた感想は、「なんだか変な感じがする」。
最初に言っておくと、わたしに霊感はない。
ないけれど、その土地とか場所で「嫌な感じがする」とか、「この場所好きだな」みたいなのを感じる…性質みたいなのはあるのかなって思う。
確かに物件自体はとても良かったと思う。
ファミリータイプのマンションだったんだけれど、バストイレ別、リビングキッチンが10畳以上あって、それとは別に6畳の部屋が×2。
ベランダ広くて、日当たりも良くて、階も真ん中くらいで、エレベーター付いてて、妹とわたしの大学の中間くらいにあって、近くにスーパーや薬局もある。
部屋はリフォームされているけれど、物件自体は結構古かったこともあって、家賃は近辺のマンションより1~2万くらい低い。
物件の条件だけみたら本当にすごくいい部屋だったと思う。
でも、わたしはなぜか部屋を好きにはなれなかったんだよね。
まあでも、選ぶの任せておいて意見するのも何だかと思ったし、実際部屋の条件は良かったし、
ということでその時は「たしかにいいね~」とかそれなりの言葉を返した。
そして後日わたしの荷物も搬入され、3月末くらいから本格的に妹との二人暮らしが始まった。
最初におかしいなって思ったのは、二人暮らしを始めて数週間が経った頃。
ある日ポストをみてみると、管理会社からの文書が。
文書内容は簡単に言うと、「昼夜問わず物音がすると苦情が入った、集合住宅だから気をつけて下さいね」というもの。
マンション全体に配られていた文書だったので、「小さい子でもいる部屋の住人さんあてかな~、大変だね~。」なんて妹と話してその時は終わった。
しかしその文書が配られた数日後、なんと文書のことに関して管理会社から妹に連絡が。
(ちなみに妹のところへ連絡がいったのは、契約の時に書いた連絡先が妹だったため)
うちの下の階の人が、昼夜問わず大きなものを落とす音がする!うるさくて仕方がない!!ということで苦情をいれたらしい。
でも、わたしの引っ越しの荷物搬入は3月の段階で終わっていたし、そもそも昼間はお互い大学に行っているかバイトしてるか、もしくは妹が部屋に引きこもってネットしているかのどれかだったから、大きな物を落とすなんてこと絶対にあり得ない。
足音だったとしたら細心の注意を払っていたし、そもそもマンションだよ?走り回ったりしない限りそんなことは絶対にない。
妹は上記のことを管理会社に説明し、「自分が布団を敷いて寝ているから、もしかしたら寝がえりの際に音をだしているのかもしれない」ということだけ伝えた。
そのあと物音にはより注意をはらうようにはなったけれど、今振り返ってもやっぱり、そんな大きな物音を立てていたとは思えないんだよね。しかも昼夜問わずだなんて。
ちなみにその後に苦情が入ることはなかったけれど、下の住人は半年くらいたったころに引っ越したみたいだった。(引っ越した真相は知らない)
他から苦情が入ったのは後にも先にもその一軒だけだったけれど、マンションに住み始めてからあれ?って思うことがかなり多くなった。
まず、金縛りにあうことがすごく多くなった。
学部の時から時々金縛りにあうことはあったけれど、大概疲れてるときになることが多かったし、そこまで気になる程度では全然なくて。
でも二人暮らしを始めてからは、多いときで月に2、3回かかることも。
新しい環境で、しかも大学院の研究のプレッシャーとかで初めのころから少し病んでいたから、精神的な疲れかな~なんてあんまり気にしないようにしてた。でもそれにしても多かったと思う。
そしてこれは一番感じていたんだけれど、マンションの部屋に戻るとものすごく元気がなくなったんだよね。
なんていうんだろう、気力が削がれる…とでもいうのかな。
外に出ると元気になって、研究のことを考えると気重だったけれど大学に行くと元気になって、よし!と思いながら家に帰った途端に、やる気の全部が削がれる。
これは、わたしが大学院2年になって、妹が就職してから顕著になったと思う。
大学を卒業して就職した妹、1年目は集団の寮に入らなくちゃいけなかったから、外出のできる土日祝日だけマンションに戻って来てたんだけれど、妹がいない平日はほんとに元気じゃなくなって、妹が帰ってくる土日は元気になる…みたいな感じだったんだよね。
妹が帰ってきたり友達が来たりすると、ぱっと部屋の空気が軽くなって雰囲気もよくなるんだけれど、わたしひとりでいるときは、かなり空気が重くて、何もする気が起きなくなって…と、ずっとこのループだった。
そんなこんなで大学院に進学して2年目の夏、研究室の飲み会がうちで開催された。
店飲みからの流れで始まった飲み会だったので始まった時点で眠い人は寝てたし、途中布団を出したら横になって話す→そのまま寝るって感じで、多分1時過ぎくらいにはほとんど寝てたと思う。
唯一起きていたのがわたしと、春から新しく研究室に入ってきた女の子の後輩。
及川光弘が好きなのでその後輩をミッチーとする。
ミッチーと二人で話したのはその時が初めてに等しく、いろいろ話していたんだけれど、学部の卒業旅行の話をした時にミッチーの霊感の話になった。
なんでも、ミッチーは昔霊感がかなり強かったらしい。
でもそのことを心配していたおばあちゃんが亡くなってから段々と見えなくなり、卒業旅行でとある海外に行ってからほとんど見えなくなったとかなんとか。
ただ全く見えなくなったわけではないらしく、今でも時々見たり聞いたりすることがあるらしい。
大学図書館の書庫でこういうことが~とか、学部棟の階段を下りる時にこういうのが~って話は研究室にいるときにみんなと聞いていたし、誰も話していない研究室で突然「なに!?」とか言うミッチーの姿を見ていたから、へえ~そういうこともあるんだね~なんて話していた。
途中にふと自分の部屋のことが気になって、ミッチーに「この部屋なんかいたりしないよね?(笑)」なんて冗談半分で聞いたんだよね。
そしたらミッチー、突然テレビのある方向の天井付近をだんまりと見つめた後に、「わたし、部屋にいる霊だとかそういうのは全然分からないんですけれど…」と、いろいろと話をし始めた。
ミッチーがわたしの部屋に入って最初に感じたのは、「この家、空気が重い」だったそうだ。
湿度が高いから、空気がこもっているから、などが原因の重さではなく、何とも言えない重さだったと。
実際、その日暑かったから窓を開けて扇風機も回していたから、わたし自身も「そうなんだよ!!」と、それまでのことをミッチーに話した。
一人で部屋にいるとやる気が削がれるって話をしている時はまだなんともなかったんだけれど、金縛りが多くなった話をしたときくらいから空気が明らかに変わった。
実は私、金縛りにあったときは素知らぬふりをするか「ごめんなさい」って心の中で唱えるようにしていたんだけれど、一度だけ「絶対負けないからな!!」って心の中で抵抗したことがあるんだよね。
その瞬間ものすごく耳鳴りが酷くなった。
本能的に「ヤバい」と思ったわたしは、その後ひたすら謝り続け、いつの間にか耳鳴りも金縛りもなくなった…という話を笑いながらしたんだよね。
そしたら隣にいたミッチーは先程のテレビ上空あたりを凝視して、「今手汗がヤバいです。…空気が黒くなりましたね。」と、一言。
わたし自身笑って話しながらも、「なんかヤバい」って思うように空気が変わったのが分かった。
ミッチーには「多分、自分たちの話をされているって思ったから、そうなったんじゃないですかね」なんて言われたけれど、確かに金縛りの話は半分くらい「もしや霊?」なんて考えて話していたからかもって納得した。
しかし一番ヤバいと思ったのは、見覚えのない物音の苦情が入ったって話をしたとき。
一応言っておくと、ミッチーにこの話をしているときに「霊なのかな~」なんて話し方はしていない。
あくまでも、「こういう苦情がはいったことがあったんだよね~」っていう体で話をしただけ。
でも、ミッチーは身震いしだすまでに鳥肌立ってしまって、今までで一番空気が重く、黒くなったのがわたしでもわかった。
「まってまって、いや、別に馬鹿にしたわけじゃないんだよ!?」
「分かってますよ、でも多分…自分たちの話してるって思って、寄ってきたんじゃないですかね…」
とか、お互い平静を装いながら話していたけれど、心臓バクバクだったし、わたしは怖すぎて思わずミッチーの手を握ったわ。
そのときのミッチー、手が思いっきり冷たくて、冷たいのに手汗がやばくて、あ、これタブーだったのかも、と、話した後に思った。
その飲み会後妹に速攻で連絡を入れ、その日の出来事を話すと(もちろん家の外)、「実はさ…」と妹から今まで聞かされてなかった話を聞いた。
ちょっとややこしくなるから、妹と住んでいた物件をA、そうでない物件をBとする。
まず、Aの部屋に決めたのは実質、妹ではなく母やのごり押しが合ったからだという話。
AとBの二部屋どちらにするかとなった際、妹が選んだのはBの部屋だったらしい。妹もわたしが感じていた「なんか嫌だな」という感覚をAの部屋に抱いていたという。
しかし、立地や部屋の間取りもろもろが圧倒的によかったのはAの部屋だったため、母親がごり押しした結果、そこにきまったというのだった。
特に嫌だと感じるのは居間だったようで、確かに、家に帰って来て妹が居間にいることはほとんどなかったと思う。
「夜は居間に近づきたくないもん。よく分からないけれど、姉さん来るまで夜中居間には入らないようにしてたしさ。」と言われた。
見覚えのない物音の苦情の件もずっと引っかかっていたみたいで、「あの部屋もしかしたらヤバいかもしれないね」と意見が合致したわたしたちは、霊感があるという妹の友人からアドバイスを受け、ひとまず玄関とベランダ、水回りの掃除の徹底をし始めた。
掃除を徹底するようになってから、居間に置いてあった何をしても元気にならなかった観葉植物がイキイキしはじめ、金縛りに合う回数も激減、なにより一人で家にいてもやる気が削がれるということがほとんどなくなったから驚いた。
そもそも掃除をもっときちんとやっておけばよかった話じゃね!?気のせいだったんだよ!!なんて笑い話にしていたけれど、やっぱりそうじゃないかもと再認識したのはその年の冬だった。
わたしには、大学時代から仲が良くて今でも時々電話する女の先輩がいる。
その日はコーヒー片手に先輩とベランダで電話をしていた。
近況報告からお互いの恋愛の話、などなど。確か霊感の話になったのは、パワーストーンの話をしていた流れでだったと思う。
先輩は東北地方出身で、小さいころからいわゆるそういう経験が多かったみたい。
霊感の強い人にあるあるらしい(?)「身体の半身(上下ではなく左右)が鳥肌立った時はすげえなって笑われたけれど、こっちからしてみたらそれどころじゃないっていうのにさ~!」というネタで笑った時だったかな。
そういえばって思って、夏にあった出来事を先輩に話したんだよね。
パワーストーンのくだりからちょっとだけ変な感じはしてたんだけれど、夏の出来事を話し始めてから明らかに自分の周りを纏う空気が変わったのが分かった。
(あ、これヤバいわ)と思った瞬時に思い、先輩に場所を変えます~と話してすぐさま自室へと戻った。
何かあったの~?と聞かれたので、実は…と夏にあった話、その話をし始めてからなんだかやばいなあと思って場所を移動した、という説明をした。すると先輩から、
「あのね、ずっと言おうか悩んでたんだけれど…実はね、霊感の話をしたあたりから受話器を持ってる側の半身が鳥肌止まらなかったんだよね」と、言われた。
一番ひどくなったのは、わたしが夏の出来事を話し始めてからだという。
そして今春、妹も本格的に一人暮らしを始めるのを契機に部屋は解約し、わたしも新しい部屋へと引っ越した。
前の家からそこまで離れた場所ではないけれど、今度は自分でしっかり内見して、「ここ!」という部屋を借りた。
前の部屋での教訓もあり、掃除は怠らないようにしてる。特に水回り。
でもそれを抜きにしても、引っ越してからは一度も金縛りはおこってないし、何より家に帰ってくるのがものすごく楽しみになった。
この間遊びに来た友達に、もう時効かと思って「そういえばさ~」と前の部屋での出来事を話したら、
「わたし、前の家に泊まりに行ったとき、居間で一回も熟睡できたことないんだよね…」
「何でか分からないけれど、トイレがめちゃめちゃ怖かったんだよね…」
と続々といろんなことを告白をされた。
ちなみにその友達、今のわたしの部屋にも泊まりに来たんだけれど、問題なく爆睡できるらしい。
結局何があったとか、どうだったのか、真相は分からないままだけれど、やっぱり引っ越してよかったな~と心の底から思いました。