夜になって、学校に忘れ物をしたことに気がついた。
※子どもの頃の話 - 01
夜になって、学校に忘れ物をしたことに気がついた。
僕たち5年生の教室は、校庭に面した古い木造の二階建て校舎だ。
僕は東側の暗い階段をあがり、廊下を歩き出した。
そこから僕の教室までは長い廊下を西の端まで歩かなければならない。
暗くてくすんだ色に沈むその古い校舎には七不思議伝説がある。
七つ全てを知った時、その人間は魂を抜かれると……
僕はそのうち三つしか知らない。
二つは原因が判っているから怖くなんてない。
ひとつめは、夜になると誰も居ないはずの廊下を歩く音がするという……
しばらく歩くと、案の定 ギィー……ギシッ……ギィー…… と音がする。
向こうの端の方で鳴ったかと思うと、すぐ後ろで鳴ることもある。
でも、これは怖くなんてないんだ。
だって、昼間僕らが踏みつけて下がった床板が、少しずつ元に戻る時の音だと判っているから。
もうひとつは校舎の真ん中にある、狭くて細い13段の中央階段をふうわりと白い影が降りてくるというもの。
これも実は角の磨り減った急な階段を踏み外して落ちた人を、遠くの校庭から見間違えたんだって聞いてる。
ギィー……ギシッ……ギィー…… という音に囲まれながら、それでも恐る恐る13階段を通りすぎる。
やっぱり少し怖いので階段と反対側を急ぎ足で抜けた。
間違っても階段の方なんか見ない。
※子どもの頃の話 - 02
問題は三つめなんだ。
その廊下の西の突き当たりには、大きな鏡が取り付けられていた。
何年か前の卒業生の記念の鏡だ。
夜ひとりで廊下をその鏡に向かって歩いていくと(そう、まさしく今の僕がその状態だ)……
後ろには誰も居ないはずなのに、鏡には二人映っているというんだ。
暗い廊下を歩き続け、おぼろに突き当りの壁が見えて来た。
万が一、二人写ってたら腰を抜かすと思ったから、なるべく鏡を見ないように教室に近づいて行った。
でも、やっぱりどうしても気になってしまいチラリと横目で鏡を見てしまった……
なぁんだ!
やっぱりそんなコトあるワケないじゃんね!
鏡には一人しか写ってなかった!
僕はホッと息をついた。全身に力が入っていた事にようやく気付く。
あぁ良かった!
とたんに元気になった僕は、教室に飛び込むと机から忘れ物を取り出して再び廊下にもどった。
さっきまでビビッていたのが悔しかったので、今度は鏡に向かって手を振ってやった。
バイバーイ! って。
あとはもう何も怖いものなし、スキップ気分で家に帰った。
翌朝、いつものように学校に向かい、下足箱のところで一緒になった友だちに
夕べの武勇伝を得意げに話しながら廊下を教室に向かうと……
あれ? 鏡が無い……
「先生、廊下の鏡どうしたの?」
「あぁ、昨日放課後に隣のクラスの子が割っちゃったのよ……」