最初の結婚は大成功だったと思う
最初の結婚は大成功だったと思う
相手は幼馴染で、頭がよくないからと大学には行かず就職した苦労人
一方の私無理して良い大学に入ってどうにか一流企業に滑り込んだものの
不景気でサビ残横行していく中で人間としての耐久性で篩にかけられた
こういう時って同期の間でも蹴落とし合いが横行するのね
たまにしか会うこともなくなっていった彼が
どんどんボロボロになっていく私を見かねてこう言ってくれた
「俺、賢くないし誇れるものなんて何一つないよ。けどお前を想う気持ちだけは多分世界一。
今でも手取り18万くらいっきゃないけど、お前が仕事やめて実家にもどれないっていうんなら
次の仕事みつかるまでの間、うちにいてくれたっていい」
好きだっていう気持ちも本当なら下心だって見え透いていたけれど私は彼を頼った
好きな女と一緒に暮らして、シャワー浴びた後の姿をみても狼にならない
彼はそういう人だった
埋没しそうになる私に気づくと
「さっさと俺のところから巣立った方がいい。
お前のことを絶対前のとこよりいい会社が待ってる。
それで、いい男でもみつけて幸せになればいいんだ」
こういうふうに私を励まして、手を付けようとはしなかった
こんないい人ならきっと無理をさせようともしないんだろうし
家賃がてらに月に数回ならOKかななんて思うようになっても
前の就職先でのことがトラウマになっていてなかなか決まらない就職
結局ほぼまる二年かけて再就職先が決まった報告の夜に
「私この家出ないから、永住先がここだから」
そう言ったら、何も言わずに外に出ていって
帰ってきた時には
「これ一個が精一杯だから」
といってくれた指輪は今でも宝物だ
その夫が死んだ
過労死だった
妊娠を暖かく休職として受け入れてくれる
二度目の会社はそういうところだったけれど
業績悪化で休職中の手当がどんどん減額
「椅子を残してくれる会社は捨てちゃだめだ」
こんな風に言ってくれた彼が奮起してるのを引き止めればよかった
ショックで流れた
彼と生まれることのなかった子どものの葬式はどちらもとても賑やかだった
二度目の結婚は大失敗だった
夫の面影は男気
そういうのを求めて交際をはじめた男は外面は男気のあるキャラで通すけど
演じる無理を身近な相手をストレスのはけ口にして解消する男だった
行儀よくしかされたことのないこの体はめちゃくちゃにされた
ほどなくして子どもが出来たけれど妊娠後も相手をさせようとした
お腹が大分膨らんできた後必死に拒むと
気づいた頃には私の貯蓄まで切り崩して風俗通いしていて生計すら成り立たなくされた
彼の実家に求めたヘルプが正解でなかったらどんなことになってただろう
義両親が出来た人で匿ってくれた上に
実子でなく嫁の為に離婚のための係争費用まで出してくれて
私はあれと縁をきることが出来て
支払い能力が皆無だろう息子の代わりにと養育費用や慰謝料その他の一括払いとして
相応の金額を家までうって揃えてくれたあのお二人には頭があがらない
以後あの男と会う事も義両親との再会もなかった
それこそただの風のうわさ一つ聞こえてくることがないほどに徹底していた
三度目の結婚も、これまた大失敗だった
変に男気のあるように見える相手を避けて
取引先の年下の理知的な相手からの求婚を受けたら
段々と息子を疎むようになっていって
残業の多い私のいない時間に息子をいびっていたらしい
ある日、残業中に会社に電話がかかってきた
「ご主人が大変なの」
後に主人が息子をいじめていたことを証言してくれた隣家の奥さんからだった
急いで家にかえると両手で頭をおさえた夫が
隣家のご主人にはがいじめにされながら畳に頭を打ち付けているところで
目をカッと見開きながらごめんなさいと連呼していた
わけもわからない私に
隣家の奥さんが私がいない時間帯
よくこの家から男の子の泣き叫ぶ声がしていたと教えてくれ
そこではじめて息子に尋ねると
息子は痣が多い体をさらして頷いた
わけがわからないのは
追求するより前から主人が謝っている事
この時も主人のご両親が錯乱した主人を引き取っていった
そちらのご実家は裕福ではなく元夫の療養費だけで精一杯と土下座しながら許しを請うてきた
毎月ほとんど残額が残らない通帳や公団住宅暮らしの点もあって
支払い能力が完全に皆無だろうという話だったが
それ以上にこの二人が更生に真剣だったので私は何も要求せずに義両親を信頼して
息子と二人で都会へと居を移した
息子が高校生になった頃、
私は四度目の結婚を決意させる相手と出会った
息子にどう言おうか迷って半年ほど紹介できずにいると
急に息子が夜に話があるといってきた
「父さんが、今度こそ幸せになれって言っているよ」
わけがわからない
「母さんが本当に好きだった父さんだよ」
息子には二度目の結婚で生まれたことは伏せていた
「父さん、前のおじさんを厳しく叱ったくれたんだ」
何を言っているのか分かりたくなかった
「いるんだよね? 今もいるよ
たまに遊びにきてくれたんだ
物置とかから声がして最初は怖かったんだけど
おじさんが家に帰る頃になると物置をがたがた鳴らしてくれたりして
だから俺、そこまで酷い真似されずに済んでた」
幽霊になるほど心配をかけていただなんて考えたくなかった
何よりその目の前で二番目の夫におかされていたことが嫌だった
前の夫の虐待を私に教えなかった息子との関係がギクシャクしていた頃も
そして、その息子を一時期疎ましくすら思いかけていたことだってあった
いないと思い込もうとした
「今度の人は大丈夫って言ってる」
その瞬間頭のなかに声が届いた
「ないない尽くしの俺だけど幸せにするっていっただろ」
写真撮影だけの結婚式の時に言われた言葉だった
一番考えたくなかったのは
あの夫が一人の人間を祟ってああして壊してしまったということだ
信じたくはなかったけれど信じるしかなくなった
高校三年になった息子は大学受験に向けて寮に入った
大学生になった今も戻って来るのは年に数回
夫婦二人の身軽さで、年に二回は旅行に行く
たまに写真に最初の夫が映り込む
その姿は、してはいけないことをしたからか
歪み、叫んでいるようにしか見えない
今の夫にはその存在は明かしてある
「未練がましくついてくるやつがいるほうが張り合いがある」
幽霊の話をころっと信じた上でこんな風に答えられてしまう人
最初は申し訳なかった世界で二番目の人だから
感づいていたようで
「競い合うっていうのも面白い」
と一度口にされたことがあった
一番が二人になってしまったが今の夫には申し訳ないけれども口にはしない
彼が望めば私はいつでも女になるのに
もう一人の最愛の夫はもう私に触れることもできない
愛しているという一言だけは感謝をもって最初の夫にだけにする
きっと本人はこういう決意を知ったら怒るののだろうけれど