前々から下請け会社の人に、「釣りに行きませんか」って誘われてた。
その人とは仕事でよく会っていて、俺より五つほど年上だが腰は低く、いつも便宜を図ってくれてたんだ。
前々から下請け会社の人に、「釣りに行きませんか」って誘われてた。
その人とは仕事でよく会っていて、俺より五つほど年上だが腰は低く、いつも便宜を図ってくれてたんだ。
「釣り、やったことないですけど」
って言うと、
「いいから、いいから、道具も貸しますし宿の予約もこっちでしますから、身一つで来てくれれば」
って話だったので、俺もやってみたかったし連休中にやることもなかったから、
「じゃあお願いしますよ」って返事したんだ。
それでこないだの連休後半に、その人、山口さんっていうんだけど、土曜の午前に、自分のハイエースでむかえにきてくれたんだ。
行き先は房総半島で時間はたいしてかからないし、すごく天気もよかった。
着いた宿は海沿いの、規模は民宿に毛が生えたようなところだったが、「天狗温泉」って看板があって、玄関先に高さ１ｍほどの真っ赤な天狗の面が飾られてた。
「なんか変わったとこですね」
と言ったら
「いやあ、釣り宿なんだけど源泉を持ってて風呂は温泉、それだけが売りなんです」
って話だった。
確かに部屋は簡素十畳間で、立て付けが頑丈そうな板戸になってた。
床の間にも天狗の面が飾られてたな。
荷物を置いてさっそく釣りに出た。
アジを中心に港内のコンクリ護岸からねらうってことだったが、これが全然釣れなかったんだよ。
俺が初心者だからじゃなく山口さんも釣れない。
ただ、まったく魚がかからないわけじゃなく、海なのにナマズみたいなのは何匹かかかり、それは海に捨てたけど俺はけっこう面白かった。
「いや、いけませんね。いつもは入れ食いの場所なんだけど、時期が悪いのかなあ。明日は船、用意してもらって釣りましょう」
そんな感じで日没まで釣り、宿に戻った。
飯は刺し身と鍋中心で素人料理だったが新鮮で美味かった。
ビールを何本か空け、自慢の温泉に２人で行ってみた。
半地下になった場所で、露天風呂はないがガラス戸の外に夜の海が見えた。
温泉は白濁して硫黄の臭いがした。
岩を組んだ中に玄関のより大きい天狗の面があり、鼻先から湯を吹き出してたんだ。
部屋に戻ったら布団が敷いてあり、そっからテレビ見ながらウイスキーを飲んで１１時ころに寝たんだよ。
そしたら奇妙な夢を見た。
山口さんと岩場で釣りをしてた。
昼に行ったのはコンクリの埠頭だったが、そこはゴツゴツした岩が入り組んだ場所で、ドーンドーンと波が打ちつけて盛大な飛沫が上がってた。
こりゃ危険だなと思った。
海にさらわれてしまいそうで釣りができるとは思えなかった。
「あぶなくないですか？」
って俺が聞いたら、山口さんは
「大丈夫、それより小便出ませんか？連れションしましょう」
って、俺の手を引っぱって突端のほうへ向かったんだ。
「やめましょう、落ちますよ」
俺がそういうのも聞かず、山口さんはチャックをおろして悠然と小便を始めたが、そのとき大きな波がきて一気にさらわれてしまったんだ。
「ああ、やばい」
と思ったが、俺は泳げないし海面は泡が立っててどこに落ちたかもわからなかった。
とにかく人に知らせようと思ったら、沖に船がきてたんだよ。
それが江戸時代にあるような木造の帆船。
その甲板に巨大な天狗が立ってたんだ。
身長はたぶん５ｍくらいあったんじゃないかな。
山伏の服装をしてて、天狗だから鼻が長かった。
俺は岸壁から見下ろす形だったから、ちょうど前にその鼻が見えて、ずんずんこっちに向かって進んできた。
天狗は、俺を見据えたまま天地が割れるような声で
「があああっ」
と叫び、そこで目が覚めた。
布団にいたんだが身動きがとれなかった。
部屋の電気がついてて、山口さんが胸の上に全裸でまたがっていた。
頭の近くはびしょ濡れになって小便の臭いがした。
ギンギンに怒張したチンコを握って俺に向け、
「さあ、吸え！」
って声で叫んだんだ。
・・・これから先のことは書きたくないが、全部本当にあったことだよ。