自分では1回しかそれらしきことは体験していません。
少なくともオカルトチックな話が好きな医師はおりますが
自分がそういうものが見えるとかいう人には会ったことないですね。
今勤めている病院は歴史が古い方で、先の大戦中には陸軍関係者がよく入院していたとか。
そのため、ゲートルを巻いた兵隊さんの幽霊が出るらしいです。
『らしい』というのも、なにせ、勤めて5年目で初めて知りましたから。
たまたま入院していた世間話の好きそうなご婦人に聞かされました。
『ええ、実は見たんですよ』系の話を期待されていたようですが、
本当に知らなくて彼女をがっかりさせてしまいましたが、しかたありませんよね。
病気を治すだけで満足してくださいとしか言いようがありません。
突然ズキズキ頭が痛い感じがして意識が遠のきそのまま深く眠りこむこともあります。
しかし、週に10回当直していれば、過労で寝起きに変な感覚にもなるでしょうw
そもそも、金縛りになるような時はソファーで体を縮めて仮眠していたり、
患者さんのモニターや壁一枚向こうのナースステーションの話が聞こえる状態だったりと
明らかにおかしな状況で寝ていますしね。
心霊より自分の健康という意味で洒落にならない。
病院自体もだいぶ建物が昔とは建て替えられています。
第二次世界大戦中から現存する唯一の建物には、現在病室は一つもなく、
更衣室や私たちの医局があります。特に、我らが医局はその中でも最下層なので半地下状態。
オカルト好きの某ナースからは
「あんな廊下が真っ白になるほど霊の立ち込めたところに良く入れますね!」とか
言いたい放題に言われてますが、別に喘息にも肺炎にもならない分、
禁止されてるはずの紫煙の立ち込めた看護師休憩室よりはましなんじゃないですかね。
愚痴になってしまい申し訳ありません。
ほとんど寝れない夜間救急勤務後でも帰ることなど許されません、少なくともうちの病院は。
(うちだけでもないと思います、とんだブラック業界だ…)
幸い手術も外来もなく、病棟の患者さんも全員落ち着いていたため、
医局で調べ物をしながら疲労の余りそのまま突っ伏して寝てしまいました。
正確にいえばそれこそ金縛りに近く、体は突っ伏したまま動けないけれど頭は半分起きている状態。
「ああ、今日も疲れてるな…いつかこのまま死ぬんじゃないかな…」
と思いながら、休憩と割り切って半分うとうとしていました。
しばらくするとコツ…コツ…と固い靴でコンクリートむき出しの床を歩く音がします。
うちの病院では基本的に革靴は内科部長クラス以外ほとんど誰も履きません。
理由は音がするし、ダッシュもできないから。逆に言うと外科系だと部長クラスでも走らされます。
そもそもガタが来たドアが全く軋まなかったのも不思議な話。
誰か入ってきたのにも気がつかずに寝ていたのかと、内心驚きました。
一応起きなければと思うが、体が動かない。
「ああ、サボってるのがばれた…まあいいか…仕事はすませたし」
そう思ってると、誰かが話しているのが聞こえました。
聞き覚えのない声の会話。
嫌な感じは受けませんでしたが、すぐ後ろからコツコツ音がする割に、気配を感じません。
足音はすぐ後ろを行ったり来たりしています。
『度胸があるなあ』
『いつ見てもいますねえ』
『肝の据わるに越したことはないが、恥じらいがないのはどうしたものか。
嫁に行き遅れはしないだろうか』
黙れおっさん。思わずカチーンと頭に来ましたが、涎が出ているのを自覚してる分何も言えない。
はい、親にも心配されてます。少子化の原因のうちの一人です。わかってるからもう何も言わないで。
痛む心を抱えつつ、そのままぐっと寝込んでしまいました。
『これこれ』と言われながら軽く頭を叩かれてはっと目が覚めたのは2時間後くらい。
余りに感触と声がリアルだったので、思わず口元がべちょべちょのままでキョロキョロしましたが、
やはり周囲は無人。
一応顔を洗って化粧を直して、汚れた本はこっそり引き出しに隠してから病棟に戻りました。
あれが兵隊さんの幽霊X2だとしたら、ドアの音がしなかったのも靴音も納得はできます。
でも、心配してくれるは起してくれるは、幽霊であったとしても、まるで「心霊いい話」。
少なくとも患者さんの言うような身の毛もよだつような体験ではないなあ、と思いました。
医局に泥棒が入るらしい、とうわさが流れるようになったものの、普通に生活していましたが、
ある夜に相変わらず遅くまで仕事をしていると、廊下の方からガタガタいう音が。
え?と思っていると我が医局のオンボロドアを外から誰かがガタガタやる音がするのです。
最近どうやら物騒らしいということで、古い木製のドアに内側から簡単な閂を最近つけていて
一人でいるときにはそれを下すようにしていたのですが、医局員はみな当然知っています。
すりガラスの窓で明かりがもれていますので、中に誰かがいるのは一目瞭然。
ですから事情を知っていれば、声をかけてあけるように頼めばいいだけの話。
ガタガタガタガタガタガタ!!!!と激しい音と衝撃。
ドアの閂はもう外れそうなほどで、特に向こうがぐっと押した瞬間は少し隙間が空きます。
とっさにまずい!と思い、内側からほぼ体当たりするようにドアを押し返します。
ドアの向こうからはおそらく2人ほどの男の話声。
言葉からして外国人、それもおそらく2ちゃんねるで比較的嫌われている某隣国人と推察されました。
ますますまずい。あれほど冷や汗が出たことは覚えがありません。
ガッガッガッガッと、おそらく蹴っているのでしょう、ドアの下の方がきしみ、一瞬板が浮きます。
持ってくれ、戦前からの木板とか悪口言って悪かった、頼むから折れないでくれ。
もう、ありとあらゆるものに心の中でお願いしました。
定番の神様仏様。
忙しくて余りお墓参りできていないご先祖様に、まだピンピンしている田舎の祖父母4人。
小言が嫌なのと本当に忙しいので余り帰省していない両親。
この間出てきたおせっかいやきな兵隊さんの幽霊(推定)。
天国にいるはずの看取ったペット達。
廊下からも返事をするように声が。思わずぎょっとしました。
つまり、半地下の私の部屋を挟んで男たちが外国語で会話しているのです。
そして、バリーン!と大きな音を立ててガラスが割れました。
もう駄目だ…と半分覚悟を決めたのですが、奇跡的に助かりました。
というのも、その窓を半分ふさぐ形で大きな書棚があったのです。
吹っ飛んできた本が頭に直撃して涙目になり、
後からそこは見事なたんこぶとなって10円ハゲができましたけれど。
すぐさま侵入できなかったことと、思ったより大きな音がしたことで、向こうも慌てたのでしょう。
そのまま大声で話をしてバタバタと立ち去りました。
私はドアに寄りかかったまま、しばらくへたり込んで動けなかったです。
たぶん慌てて置いていったズックから少し中が見えていたのですが、
定番の「バールのようなもの」はじめ、「金づちらしきもの」や、
むしろ包丁なんじゃないかと思うようなサイズの「ナイフらしきもの」が見えてましたので…。
ドアを開けてそれを見た瞬間、それこそすぐドアを閉めて立てこもり、半泣きで電話しました。
ほんとあれは死ぬほど洒落にならなかった。
あの時ドアが空いていたら、あるいは本棚の位置が少しずれていたら、
本当に死んでたかもしれませんしね。
それ以来、医局がトラウマになって、今は周囲の好意で更衣室に全部荷物を運び込んでいます。
ちなみに今でもたまにうとうとしてしまうことがありますが、不思議と金縛りはなくなりました。
以上、長くなりましたが、幽霊よりも生きてる人間が洒落になりませんよというお話。
予想外に長くなって申し訳ありませんがこれで終わりです。
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