工事現場では建材運搬用のリフトを使う事がよくあり、その現場でも簡易エレベータの様な作りのものが使われていた。
事故防止の為リフトの下には絶対に入るな、という事がどこの現場でも鉄則ならしいのだが、
ある日、作業員の一人がうっかりリフトの真下に入ったところへ、建材を満載したリフトが落下してくる事故があった。
大惨事になった。
あたりは血の海になり、リフトの下敷きになった者がもう生きてはいない事は誰の目にも明らかだったが、とにかく救急車を呼び警察にも連絡した。
目の前のとんでもない光景に、何人かの者が卒倒、もしくは卒倒しかけたり気分が悪くなったりとこれもまた救急病院搬送になった。
現場は警察によって一時封鎖され、作業はすっかり止まってしまった。
警察の調べによれば、事故の原因は老朽化していたリフトに積載量オーバーの建材を積んだ為らしかった。
その現場には複数の建築会社が入っていたが、現場検証等が終わって作業が再開され、弟が顔を出した時には、
自分から辞めたり会社に現場異動を申請したりで何人かが来なくなり、代わりの人員が補充されて顔ぶれが変わっていた。
特に卒倒、卒倒しかけた者のたいがいは辞めたり他の現場に移っていたらしい。
しかしその中で吉住さんという若い男性は、事故当時卒倒したものの変わらずに出て来ていた。
※※続く※※
作業をはじめてしばらくした頃、誰かが大声で騒いでいるので見に行くと、吉住さんが同僚に何かを必死に言っていた。
どうしたんだ、と弟がたずねると、吉住さんは、ここのあたり一面に血の手形がべたべたとついている、と周りの壁を指さして今にも泣き出しそうな様子で言った。
血の手形など他の者には見えなかったが、その騒ぎに吉住さんの現場上司は吉住さんをとりあえず帰宅させる事にした。
上司が今日はもういいから荷物を取って来いと言い、吉住さんが自分の鞄を取りに行こうとしたら…吉住さんはひぃっ、と悲鳴をあげ
「そこに目茶苦茶な人がいる!」
と現場の隅を指してその場でまたも卒倒してしまった。
吉住さんは運び込まれた病院で
"精神状態が不安定"
だという事で、しばらく入院する事になった。そしてそのまま、現場に出てくる事は無かったらしい。
しかし、以降、血の手形や目茶苦茶な人、を見たのは吉住さんだけにとどまらず、後日、弟も壁につけられた手形を見てしまった。
弟が壁面に向かって作業をしていて、少し目を離した後、また壁面に向き合うと、そこにはぺたぺたと赤黒い手形が出現していた。
弟と同じ会社の同僚は、作業中背後で誰かがぶつぶつと小声で何かを言っているので振り向くと、
そこに"目茶苦茶"なとしか言い様のない姿の者が立っていて、文字通り腰を抜かしたらしい。
同僚によれば、それはあちこちのパーツが歪んで変形しているが、血塗れの作業着らしきものを着ているのでかろうじて人間だとわかる、ガラクタを細かく踏みつぶして、それをミンチと泥でこねた様な人の形をしたもの、だったという。
※※続く※※
他、怪我人こそ出なかったものの、その現場では新しく設置されたリフトが再び落下事故を起こしたり、何度もボヤが出たり突如停電になったりとろくでもない事が相変わらず頻発して、
気味が悪い事と仕事にならない事があいまってどんどん人がいなくなり、納期と進捗の遅れと人手不足に現場責任者たちは頭をかかえていた。
しかしその中で弟も他の現場への異動を会社から言い渡され、内心ありがたい気分で現場を移った。
しばらくしてから、その現場に残った同僚の一人に話を聞くと、
弟たちが他へ移ってからもおかしな事がよく起こり、配電盤が火元のボヤを再度起こしてまたも作業が出来なくなったので、弟の建築会社はその現場からとうとう撤退してしまったらしい。
現場からはお祓いをという声も出たが受け入れられず、代わりに誰かが個人で御札を貼ったりしていたが、
御札はどれもが貼られたまま焼け焦げたり、赤黒い手形が付いたり、いつの間にか床に落ちて泥靴で踏みにじられていたりと、散々な事になっていた。
弟はその現場へ二度と行く事はなかったが、その現場は結局途中で工事を取りやめて、サラ地に戻した後駐車場になったらしい。