現在祖父は87歳、祖母が82歳になるが、二人とも足腰もしっかりしており畑仕事もこなせるほどに健康的。
オカルトの類はあまり好きではないらしく素面では全く話してはくれないのだが、
酒の席になると昔体験した不思議な出来事を話てくれたりする。
今回はキツネに関連するオカルト話を聞かせてくれた。
昔、福島県いわき市と茨城県北茨城市との県境にあたる地域に住んでいた祖父と祖母
今から60年以上昔の話であり、もちろん今のような整備されたアスファルトの国道なんてものはない、
車やバイクもそれほど所有者がおらず、集落同士で徒歩での移動が主だったそうな。
そんな旅路によくキツネに化かされる人が多かったらしく、今の時代に伝え聞くような現象はわりとポピュラーだったとか。
旅の芸一座が各集落を転々とし、報酬代わりに米や野菜等の食料を得て巡業していたときの事、
祖父の住んでいた集落での芸を終えた一座は次の集落へ向かうため、早朝に集落を出て行ったそうなのだが、
その後祖父が用事の為に別な集落へ行こうと夕方に差し掛かる山道を歩いていたところ、
祖父の目的地とは別な集落を目指して旅立っていったはずの芸一座が、少し広めの原っぱで芸を披露していたのだそうな。
最初は芸の練習でもしているのかと思ったそうだが、一座の面子がどうも何かと対話しているかのように芸を披露している。
様子がおかしいと悟った祖父はわざと芸の中心に割ってはいるように一座の注意を引いたのだと。
芸を邪魔されたと怒りながら祖父を止めに入りにくる一座の者を思いっきり殴りつけ、
そこにいる他の一座全員を順番にひっぱたいていったそうな。
我に返りきょとんとしている一座の面々、何をしていたのかと聞いてみれば、大勢の客の前で芸をしていたのだという。
祖父が一座のいた原っぱにたどり着いたとき、もちろん他に人などおらず茂っていたのはドクダミの葉っぱのみ。
客から投げられたらお捻りだと差し出された籠の中身はただの木の実。
あまりに現実味のない状況に一座全員呆けてしまったそうな。
正気に戻り再度旅支度を整えていた一座、今まで芸で得た食料が積んであった馬車の中身の異変に気づく
しこたま積んであった野菜だけ空になってたのを見て落胆。
そこからの旅路は昼でも松明に火を灯しつつ目的地を目指す事にしたんだとさ。