お盆に姉一家が来た時の事。
お盆に姉一家が来た時の事。
7歳と5歳の二人の姪は初めは仲良く遊んでいたのだが上の子が宿題を始めると、
下の子がもっと遊びたいと色々ちょっかいを出すのでケンカになってしまい、
仕方がないので下の子を和室に連れ出し二人でボールで遊ぶ事にした。
しばらくは機嫌よく遊んでいたのだが、突然持っていた大きなアンパンマンのボールを力なく床に落とし
部屋の隅を指差して「人がいないよ」と言った。
何のことか分からず「人ってなあに?」と聞くと
「人。前はいたの。一緒に遊んだの。」と言う。
「いる」と言われるよりはましかもしれないが「いない」と言われても困る。
もしかして子供にしか見えない何かが家にいたんだろうか?
「どんな人?」 「女の子。これくらいの。」
といって自分のおなかのあたりに手を置いた。
「なにをして遊んだの?」 「ドレスを着せてあげたの。今持ってくる!」
と言うとバタバタと走って行き居間のタンスから風呂敷を3枚ほど持ってきた。
どうやら身長50cmくらいの女の子にドレスに見立てた風呂敷を着せてあげたらしい。
確か前に来たのは5月の連休だったか、その時は私は旅行に行っていて会えなかったので
なにがあったのか分からない。
どうしたものかと思っていたところにちょうど母(私の)が様子を見に来たので説明すると
ああ、と言って物置から大きなこけしを持ってきた。
姪はそれを見るなり「あっ! 人!」と言って抱きついた。
なるほどこれか、そういえばこの部屋に飾ってあったなこんなの。
母によると、前に来た時にこの部屋で姪達がこのこけしで遊んでいるのを見たらしい。
こけしといっても高さ60cm直径20cmもあるのでちょっとした丸太並みでけっこう重い。
それを持ち上げたりしてるので、足に落して怪我でもしたらいけないと隠していたということだ。
分かってしまえばどうということはないがちょっとだけ怖かった。
この話を友人にしたところ「似たような話がある」と次の話をしてくれた。
続く
3年ほど前の8月、お盆で帰省する兄一家を待つ間、俺は自室のパソコンでネットゲームをしていた。
その日は気持ちのいい風が吹いていたので冷房を切って窓とドアを開けっ放しで。
午後4時頃に到着したので挨拶しにいかねばならないのだが、
とりあえずキリのいいところまで進めようとゲームを続けることにした。
だが5分もしないうちに階段をドタドタと誰かが駆け上がってくる。
子供特有の遠慮のない足音で小学1年の甥っ子が俺を呼びに来たのだとすぐに分かった。
その勢いのまま部屋に飛び込んでくるのだろう。
俺は慌てて画面を適当な文字だらけのサイトに切り替えた、甥っ子の興味を引かないように。
だが階段を上りきったあたりで足音がピタリと止んだ。
ああ、今日はそのパターンか。
以前はそのまま駆け込んで来るだけだったのだが、最近足音を殺して近づき驚かす事を憶えた。
階段での音にまで注意がいかない所がかわいらしい。
俺はパソコンの画面を見続け、気付かない振りをしつつビックリする準備をしていた。
だが、なかなか部屋に入ってこない。いくらゆっくり歩いているにしても遅すぎる。
そのままの姿勢で待っていると、やがてトントントンと階段を下りていく足音が聞こえてきた。
あれ、部屋に来ないのか?
「わあー!」 「うわぁビックリしたー 全然気付かなかったー」
というやり取りで満面の笑みの甥っ子との再会を期待していたのだがどうしたんだろう。
まあいいか、とりあえずゲームを進めよう。
続く
ゲームを終えてパソコンを切り一階のリビングに行き挨拶などしていると兄が
「お前友達はいいのか?」といってきた。
「友達?」 「来てるんだろ?」
「誰も来てないけど、なんで?」 「部屋の前に誰か居たって言ってたぞ」
甥っ子が見たという、そんなはずはないのだがさっき部屋に来なかったのはそれでなのか?
どんな人だったか聞いてみると、大人の男だという。
そしていきなり正座をして土下座するように手をついて頭を下げ首を横に向けて
「こうやっておじちゃんの部屋の中見てた。」 と言った。なんだその姿勢は?
どんな服かと聞くと白い服に青いズボンだという。「パパのお仕事の服」というので
スーツのズボンと白シャツということか。
だが何にしてもありえない、嘘をついているとも思えない、見間違いか幻覚か。
誰かが入り込んだ可能性もある。今日はいい風が吹いていてあちこち開けっ放しなのだ、
一応家中を見て回ったが誰もいないし入り込んだ形跡もない。
そもそも不審者なら甥っ子の階段での足音に反応しないはずがない。
すぐ隣に兄が使っていた部屋があるのでそこに隠れられるはずだ。
結局その正体はわからず、何かを見間違えたんだろうということになった。
続く
その件はもういい、さあ遊ぼう。甥っ子も俺と遊べると分かりうれしそうだ、俺もうれしい。
でかい空のダンボール箱があったのでこれで遊ぼう。
甥っ子に被せてみると腰まですっぽり入ったのでロボットを作ることにした。
底と両サイドにコの字に切り込みを入れ、頭と腕が出せるようにする。
切り取ってはいけない。元に戻せばただのダンボール箱になるのが変形っぽくていいのだ。
次にクレヨンで模様や武器を書き色を塗る。甥っ子も大満足のかなりいい出来だ。
夏休みの工作として学校に提出したらと言ってみたが、
でかすぎて持って帰りたくないと義姉がいうので残念ながら却下となった。
皆が寝静まった深夜、俺はまたネットゲームをしていた。
喉が渇いたので飲み物を取りにいこうと階段を下りて行くと
階段を下りた先の正面に今日作ったロボが置いてある。
その右腕のコの字、向きでいうとUの字に長さ60cm幅15cmほどの
切り込みを入れた部分が30度ほど外側に開いている。
何度も遊んだので型がついたかなと思っていると、
すぅーっとゆっくりと音も無く戻っていき、やがてぴったりと閉じた。
風かな? まあこんなこともあるか、と特に気にもせず通り過ぎる。
飲み物を取った帰り、ロボを見るが腕は閉じたままで変わらない。
だが、階段の踊り場で向きを変える時、なにげにロボに視線を向けると、
さっきと同じ右腕部分がゆっくりと持ち上がるように開いていく。
なんだ?と思い見ていると、今度は60度くらいまで開いてから
またゆっくりと戻っていき、やはりまたぴたりと閉じた。
風なのか? 夏だしどこかの小窓くらい開いてるとは思うが空気の流れは感じられない。
さすがに少し気味が悪いので今日は早めに寝ることにしよう。
続く
翌朝、甥っ子に叩き起こされた俺はまだぼんやりした頭で階段を下りると
そこにあるロボを見て昨夜の事を思い出す。今は腕は閉じたままだ。
なんとなく気になってロボを持ち上げてみると「ゴトッ」という何かが倒れる音がした。
ロボを退かして見るとそこには15cm位のこけしが倒れていた。
といっても顔や体の色や模様はほとんど消えていて、手にとってよく見ないと判らないほどで、
パッと見では古びたこけしの形の棒だ。
なんだこれ?と通りかかった兄に見せると
「あいつ、持ってきてたのか」と言った。
兄達は家に来る前に一泊で海水浴にいっていて、砂浜で甥っ子がこのこけしを拾ったという。
一人っ子で遊び相手もいなかったのでそのこけしで遊んでいたらしい。
帰る際、捨ててきなさいとは言ったが、よほど気に入ったのか持ってきてしまったようだ。
甥っ子を呼んで、なぜロボの中にこけしを置いていたのか聞いてみると
「見張りだよ」と言って笑った。
見張りどころか操縦していたぞ、と言おうかと思ったがやめておいた。
話が終わったようなので、気になったことをいくつか聞いてみた。
「結局そのこけしはなんだったの?」 「わからない」
「今どこにあるの?」 「それもわからない、ただ家にはない。」
「ロボはどうしたの?」 「甥っ子が帰ったら即捨てられた。」
「じゃあ青いズボンの男は?」
「そいつについてはもうちょっとあってね。」
話はまだ続きがあるらしい。
続く
それから2ヶ月ほどたったある日、夕食後またネットゲームをやろうとしたら
ものすごい睡魔に襲われた。
仕方がないので少し仮眠しようとベッドに横になるとすぐに意識を失った。
どれくらい時間がたったか、次に意識が戻った時ずいぶんと頭がすっきりしていた。
だが逆に体のほうは全身が異常にだるい。
重いような痺れたような感覚で、とにかくだるくて指一本ですら動かしたくない。
実際まぶたも閉じたままだ。目を開けるのもだるい。意識が戻ってから一度も開けてない。
「それ金縛りじゃないの?」 思わず口を挟んだ。
「違うと思う、たぶんレム睡眠だかノンレム睡眠だかだと思う。
どっちかは忘れたけど頭が起きてて体が寝てるって奴、金縛りじゃないよ。」
友人が言うには、金縛りは動かそうとしても「動かない」らしい。
だがこの場合「動かしたくない」というもので「動かそうと思えば動いた」らしい。
といっても私も友人も金縛りになったことはないのでよく判らない。
なのになぜか頑なに金縛りを否定してレム睡眠だと言い張る。
私はそれだけ意識がはっきりしていても「睡眠」と呼べるのか?とは思った。
話を戻します。
続く
とにかくその全身のだるさがつらくて一刻も早くもう一度眠りたい。
でも今何時なんだろう。それによってはもう起きないといけない。
体は横向きで部屋の中央に向いている。これなら目を開けるだけで時計が見えるはず。
気合を入れて重いまぶたを無理矢理こじ開ける。
明かりは点けっぱなしだったので部屋は明るい。
そして時計よりも先に目に映った奇妙な物があった。
人の顔だ。
視線の真正面の部屋の入り口、閉めていたはずのドアが開いている。
その廊下側の床から20cmくらいの高さにひょっこりと横向きの顔だけを覗かせて、
無表情のままこっちを見ている。
見知らぬ顔、その目は暗闇でライトを当てた猫の目のように白く光っている。
「ありえない」
目を閉じた、見間違いか何かに決まっている。
3秒ほど待って目を開けるが、やはり顔はまだそこにあった。
再び目を閉じる。なんなんだあれは。
以外にも冷静にあの顔の正体の可能性についてあれこれ考えていると思い出した。
あのときの甥っ子がして見せた、青ズボンの男のポーズを。
あまりにも非現実的な光景に幻を見ているという確信があった。
これはきっとあの時聞いた甥っ子の話から俺の脳が作った再現映像みたいな物だろう。
不思議な現象ではあるが恐怖はない。
幻ならすぐ消えるだろうともう一度目を開けた。
続く
残念ながら消えてはいなかった。
それどころか体半分まで部屋に入ってきている。
驚きで今度は目を閉じる事ができない。
その手が一歩前にでた。
四つん這いのまま音も無く、まるで猫が獲物に近づく時のようにゆっくりと。
もう一歩、下半身が現れる。
やはり、というかズボンは青、いや水色だ。
ここであれ?という違和感を感じた、だがそれどころではない。
後ろ足?は膝をつけずに足の指を立てている。本当に猫のようだ。
人間の骨格であんな動きが可能なのか? いや、もうそんなことはどうでもいい。
すでに部屋の中央まできている。俺との距離は1m強、どうにかしないと!
突如その顔の上唇がいびつに持ち上がった。
上の前歯が見える。威嚇しているのか?笑っているようにも見える。
たまらず目を閉じた。
ありえない、こんなはずはない、こんな事起こるはずがない!
閉じる瞼にぎゅうっと力を込めた。
続く
もうすべてが幻であることにすがるしかない。
なぜか体を動かして逃げるという考えは抜け落ちていた。
これは幻覚なんだ、なぜならこんな事はありえないから、と自分に言い聞かせるように心で繰り返す。
目だ、きっと目がまだ起きていないんだ、正常に動作していないんだ。
目を休ませよう、少し休めばきっと元に戻るはずだ。
そんな事を考えながら一分ほど硬く目を閉じていた。
こうしている間にもどんどん近づいてきているかもという恐怖はあった。
今、まさに噛み付こうと口を開けているかもしれない。
だが落ち着こう、冷静になろう。すべては幻覚なんだ。
だから大丈夫、大丈夫に決まってる!
目を開けた。
いつもの見慣れた部屋の景色だ。おかしな物など何処にもない。
消えていた。やっぱり幻覚だったんだ。
「勝った!」
なぜか勝利宣言。
やっぱりな!そうだと思った、こんな事あるはずないからな!
もう安心だ、俺の勝ちだ!ざまあみろ!俺が正しかった!
ほっとしたからかテンションがおかしな上がり方をした。
だがまだ全身がだるくてつらい事は変わらない、寝よう。これでようやく眠れる。
目を閉じ再び眠りに落ちた。
次に目を覚ますと全身のだるさはすっかりとれている。時間は午前一時半だった。
先ほどの出来事を思い返してみる。
夢とは思えない。見たこと、感じた事、考えた事、すべて思い出せる。
あんなに思考する夢なんか見たことない。
ならばあれこそが幻覚というやつなんだろう。目に映ったもの、すべては幻だ。
頭が起きて体が寝ている状態だったんだ、目玉も寝ていた訳だ。誤動作くらいはするだろう。
だが閉めていたはずのドアは開いている。
風かな? 風だろう、よくあることだ・・・
続く
「それでその猫男の正体は?」
「知らないよ、幻に正体も何もないでしょ?それっきり出てこないし」
「君の脳が作った幻覚だったって事?」
「たぶんね、でもそう考えるとちょっとおかしい所もある。
俺は甥っ子の話を聞いたとき、青いズボンは紺色を想像してたんだ。
スーツの青と言えば紺のイメージが強くてね。それに白いシャツだと思ってた。
でも現れたのは水色のズボンに、上は体に密着する長袖の白い肌着だった。
おかしくない? 俺の脳が作ったんなら紺のズボンと白シャツで出てくるべきだろ?」
確かにおかしい気もする。それでも幻覚だったと言い張る気持ちも今なら分かる。
そんなものが部屋に入ってきたんだ、霊現象だなんて思ったら部屋にいられない。
実際二人とも霊感なんてないし、そういうことにしておこう。
話はこれで終わり。
結局こけしもロボも猫男も繋がってるのかも霊的な現象なのかも何もわからない。
「甥っ子がもう少し大きくなって、怖い話をせがまれたらこの話をしてやろうと思ってるんだ。」
「でもオチが幻覚じゃイマイチでしょ。」
「それもそうだね、少し変えようか。どうしよう。」
「咬まれたことにすれば? 気を失って気付いたら朝、みたいな。」
「ありがちだなぁ もう一ひねりほしいねぇ。」
「じゃあ乗り移られるとか、取り憑かれるとか・・・」
「それはいいニャー」
二人で笑った。
終わり