俺は銀行員。
あるパチンコ屋から融資の依頼があった。(「金を貸してくれ」ってコト・・・)
みんな知らないかもしれないが今銀行はパチンコ業界にはほとんど金は貸さない。
(理由はあえて伏せておく)
形式的に俺はそのパチンコ屋に出向き、そこの社長に融資の希望金額とか景気とか聞いた。
担保となるパチンコ屋の店の外観をデジカメ撮影しなきゃいけない。
(金を貸すとき担保物件の写真は必要となる)
パチンコ屋の店の前に広がる駐車場から俺は何枚か建物に向けシャッターを切った。
「あーあ どうせ金貸さないのにどうしてこんなことしなきゃいけないのかな・・・?」
俺は思ったが上司の命令だからしかたない。
写真撮影にそのパチンコ屋の専務が付き添った。
「しかし専務 結構繁盛しているじゃないですか うちの融資なんて必要ないんじゃないですか?」
お世辞交じりと後に融資を断る口実として俺はその専務に言った。
「いや 全然ですわ・・・あの事故以来・・・」
「あの事故って何ですか?」
2ヶ月前にこの地方の支店に転勤してきた俺は何のことかわからなかった。
「車に子供乗せたままパチンコしとったんですわ 若い母親が・・・熱中症で息子さん死によりましたけどな・・・ほんまアホや・・・」
「・・・」
「あれから 役所が警備状況の調査とか言ってしょっちゅう来るしお客も何か気味悪がってさっぱりやわ」
俺はふと駐車場のアスファルトに目が行った。
何かシミみたいなものがある。
それは丁度子供が横たわってエビみたいに丸くなっているようなしみだった。
「あのぉ・・・その事故があったのはこの駐車場のどの辺りなんですか?」
「ん?・・・ああ丁度このへんですわ」
専務ははき捨てるように言った。
俺はその言葉をきき益々そのアスファルトのシミが子供が横たわっているように見えてきた。
夕方支店に戻りデジカメでとった写真をパソコンに落とす作業に入った。
しかし不思議なことに確かに写したはずのパチンコ屋の建物はどれも黒い闇が広がるだけで何も写っていなかった。何枚も写したがどれも同じ黒い闇・・・。
なんでだろう、現場で確認したとき写ってたんだけど・・・俺は焦った。
「おーい まだ稟議できないのか?」上司が催促してきた。
「すみません 写真が撮れてなくて」
「は?何やってんだ!支店長への提出は明日の朝一だぞ!今から撮り直しに行ってこい!」
「え?今からですか?」
もう夜も10時を回っていた。
俺は渋々さっきのパチンコ屋へ再度デジカメ撮影に向かった。
もう閉店後だったので駐車場にはほとんど車は停まっていなかった。
撮影のためのベストポジションはさっきの場所。
そう思ったとき俺はあの子供が横たわったようなシミを思い出し背筋がゾクっとした。
結局その場所には行かず、て言うか行けず違うところから建物を撮影した。
念のため携帯でも撮影した。そしてその場で繰り返し写っていることを確認した。
もう遅い時間だ。このまま直帰しよう。家のパソコンに落として会社のパソコンへメールしようか。稟議はもう出来ているし、あとは写真だけだもんな・・・。明日会社へ早めに行って完成させよう・・・。
携帯で上司に直帰の許可を得た。
自宅に戻り缶ビール飲みながら写真の整理に入った。
どの写真も問題なかった。
作業をしながらあの子供のようなシミのことをまた思い出した。
なんだったんだろう・・・しかも広がっていたよな、2回目見たとき・・・。
そのとき学生時代に友人から聞いたある話を唐突に思い出した。
その話とは・・・。
ある夜バイパスでばぁさんが手押し車を押して歩いていた。
そこを一台の車がばぁさんを跳ね飛ばした。
夜のバイパス、誰も跳ね飛ばされたばぁさんのことは気づかない。
次々に車はばぁさんを引き続けた。
翌朝、ばぁさんの死体はセンベイみたいにペチャンコになって10メートル四方くらいに広がっていたらしい。
その夜俺は夢を見た。
広がったばぁさんのセンベイを食べていた。
その味って言うか夢にもかかわらずもの凄い異臭のようなものを感じた。
でも食べなきゃいけない。
そして夢の中で臭いセンベイを食べ続けた。
2週間後、俺はそのパチンコ屋に出向いた。
その社長と専務に俺は上司が書いた台本どおり報告した。
「残念ながら今回の融資は決済が降りませんでした。力不足で申し訳ございません。」
社長と専務は放心した・・・。
その月の末、そのパチンコ屋は破産した。
社長は倒産を苦に自殺した。
それから1ヵ月後の夜。
得意先回りの帰りそのパチンコ屋の前を偶然に通りかかった。
つぶれたパチンコ店には人っ子一人いやしない。
いや・・・いた。
だだっ広い駐車場の真ん中あたりに小さな何かが上下に動いている。
俺は目をこらした。
あの場所は確かあのシミがあったところじゃあ?
異様な光景を俺は見た。
小さな子供が縄跳びをしている、それも一人で。
「うわ何だ?ありゃ?」
そのとき妙な臭いと何とも言えない苦い味が俺の口の中に広がっていった。
あのばぁさんのセンベイの臭いと味だった。
あれから俺は関連会社に出向させられている。
何か俺は普通じゃないんだって、上司いわく。
心療内科にも通わされて。
食欲はあるよ、好き嫌いなく。
センベイ以外は・・・。
【終わり】