もうだいぶ昔の話。
俺と友男、友子で遊んでた。夜中で、酒は入ってなかった。
理由は忘れたけど、近所の史蹟に肝試しに行くことになったんだ。
テレビでオカルト的に紹介されたりする場所で確かに
気持ち悪いんだけどただ単に洞窟みたいになってるからで、
特に体験談なんかは聞いたことなかった。
史蹟に着いてすぐ、友子がトイレに行きたがった。古くさいトイレ。
中の電灯は点滅してるし、薄気味悪いので俺と友男が入り口で
待機することになった。
友子が入っていき、個室のドアを開けようとした時、妙な声が聞こえた。
全てに濁点がついた、呻き声みたいなものがトイレ中に響いた。
俺たちは瞬時に硬直し、次の瞬間我先に逃げ出した。
「何今の!聞こえた!?」
「声!女の声だよ!」
「やっぱり女だよね!?低い声だったのになんで女だって
わかるの!?」
「知らねーよ!何だよ!」
一同パニック。
とりあえず落ち着いて、続行するか迷ったものの、あれは
風のせいだとして史蹟に入った。
腰辺りまでの門が閉まってたけど、それを乗り越えて砂利を
踏んで進む。
史蹟の入り口まで数メートルといったところで、友子が急に
何かに躓いてコケた。
「おい、何してんだ」
「大丈夫か?」
「痛いー…痛いー…痛いー…痛いー…」
友子の息は荒かった。何を話し掛けても痛いとしか言わない。
暗くて表情は見えないけど、声が震えるので尋常じゃないと
思い、友男に帰ろうと提案した。
「捻挫したかもしれんな。おい友子、行くぞ」
声をかけると、友子がカバッと頭をあげ
「なんで!!!!」
「なんでってお前、足痛いんだろ」
「呼んでるのに!!!!」
「は?」
俺と友男ぽかーん。友男が俺の脇腹を突いてくる。
「いや…いやいや…意味わからないから…とりあえず帰ろう」
若干びびりながら友子の肩に手をかけると、物凄い勢いで
振り払われる。
「触んな!!どけ!!!」
「いてっ!何してんだバカ!!」
勢いのまま史蹟に走りだす友子を、俺と友男で押さえ込む。
友子は小柄で、腕相撲なんか俺たちに一度も勝ったことなんて
ないのにどっから出てんだと思うような凄まじい力で暴れた。
何度も引き剥がされながら、徐々に史蹟に近づいていく。
「なんだお前!どうしたんだよ!」
「放せよ!呼んでんだよ!!!」
「何が!!」
「見えないの!?あそこに居るじゃん!!」
暴れながら友子が指差す方を見るも、何もない。
友男にも見えないらしい。
「何もいねーよ!!」
「何でそんなこと言うの!?いるよ!!泣いてる!!!」
「はぁ!?ふざけんなバカ!!」
「泣いてるの!!悲しいって!!行ってあげなきゃ!!」
「このバカ!!おいお前足持て、連れて帰るぞ!!」
暴れる友子を門まで2人で担ぎ、友男が先に門を乗り越え
友子を受け取ることにした。
友子は半狂乱になって泣き叫び、なかなか門を越えようとしない。
「暴れんなって、怪我すんぞ!!」
「やだぁ!!行くんだよ!!あの女の人泣いてんだよ!!」
「行くなって言ってんだろ!!」
騒ぎながら友子を抱き上げると、後ろで砂利を踏みしめる音がした。
友子はずっとそちらを見たまま
「今行くから!!待っててね、行くから!!」
と叫び続ける。
俺と友男は足音に気付いていながら、それを無視して強引に
友子を運びだした。
車に乗せると友子は嘘のように大人しくなり、一点を見つめて
泣いていた。
鼻水が垂れても動かないので心配にな、拭ってやりながら
足の痛みを聞くと
もう痛くないよ、と小さく頷いて礼を言った。
俺んちに着く頃にはすっかり落ち着いて
「なんかわけわかんなくなって…ごめんね」
と謝った。
詳しく聞きたがったが、とにかく風呂に入れて寝かせることにした。
その間に友男と足音について確認したが、お互い聞こえただけで
何も見ていなかった。
風呂から出ると友子はすぐに寝てしまい、話は翌日に持ち越し。
俺と友男もすぐに寝入って、目が覚めたのは昼近くだった。
「おはよー、昨日はごめんね」
寝てる間に買ってきたらしい弁当を俺と友男に渡しながら、
友子が切り出した。
「あんまり覚えてないの。とにかく悲しくて、行ってあげないとって」
「何がいたんだよ」
「髪の長い女の人。私より少し年上くらい。白い服着て、
ずっと手招きしてたんだよ」
「お前霊感とかあったの?」
「あるわけないじゃん、あんなの初めてだよw」
ふーん、と弁当を食べてると、友男が青白い顔をして
友子の足を指差した。
「なぁ、何、それ」
「え?」
友子の右足首には、青紫の手形があった。掴まれたような。
「わ、何これ!お風呂入った時はなかったのに!」
「冗談きついだろおい、マジで?」
「お前さ、あん時なんでコケたの?」
「……誰かに、足掴まれて……」
「……」
今では笑い話になってるが、夏には風物詩といわんばかりに
していた肝試し。
俺たち3人は、これ以来一度も行ってない。
ネタ臭いかもしれんが、ガチの実体験。