これも子供の頃の話だ。
まあ俺の実家はそういう感じのど田舎なわけだ。
夏休みともなると、子供が遊ぶ場所なんて限られてくる。
昆虫採集、友達んちで漫画読む、山や川に遊びに行く……まあそんくらいしかない。
で、俺らがよく泳ぎに行ってた川があった。
流れは遅かったけどやっぱり危ないってことで一応泳ぐのは禁止されてたんだけど、皆気にせず泳いでた。
ある日のこと。
暇を持てあましてた俺らは川へ遊びに行った。
俺と友達のAはその日は釣りに、BとCは少し上流で泳いでた。
BとCが泳いでるポイントのすぐ近くにはコンクリートの堰堤(ダムみたいなやつ)があった。
そこの下は深い大きな穴になっていて、飛びこみスポットとしてよく使われていた。
しばらく俺はAと釣りをしていたが、ふとBとCを見ると堰堤の上に登ろうとしていた。
「あー飛びこみするんだな」と思ってAにそのことを伝え、二人でそれを眺めていた。
それに気付いたBとCがこっちに手を振ってきたので、俺達も振り返して答えた。
堰堤の上に登ったBとCは、二人同時に飛びこんだ。
大きな水しぶきが二つ上がり、俺とAは歓声をあげた。
と、水面に上がった二人の様子がおかしい。
慌てた様子で岸にあがり、何かをわめいている。
二人は顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
俺とAが「どうした?」と聞いても「穴!穴の中に!」とかわめいていて要領を得ない。
仕方ないので俺とAは川に入って、ゴーグルを付けて穴を除いてみた。
暗くてよく見えなかったが、ちらっと藻の塊のようなものが見えた。
更に目をこらしてみると、それが何であるのか分かり、俺は気絶しそうになった。
人だった。
後を向いた人が、穴の中でまるで川底から生えてるみたいにゆらゆら揺れていた。
藻の塊に見えたのは髪の毛だった。
俺達は急いで川から上がり、走って大人を呼びに行った。
後で聞いた話によると、どうも堰堤から飛び込んだ時に川底の岩に足をはさみ、そのまま溺れたらしいとのことだった。
溺れた人は俺達は知らない人だった。
それからというもの、堰堤からの飛びこみは全面禁止され、その川で泳ぐことは今まで以上に厳しく咎められるようになった。
俺達四人はそれ以来一度もその川で泳いでいない。