私はビジネスビルの二十階で仕事をしている。
昨日の夕方、一日の仕事を終えてエレベーターホールへ向かった。
やって来たエレベーターは上の階で乗り込んだ人達ですでに
かなりいっぱいになっていたけれど、何とか一人乗れる
スペースがあったので乗り込んだ。
私の立ち位置はちょうどエレベーターの左右の扉の
合わせ目の真ん前。
扉はピカピカに反射する素材で出来ていて、振り返らなくても
自分の背後が見て取れる。
途中までは携帯電話で時間を確認していたんだけど、
ふと違和感を感じて顔を上げてぎょっとした。
扉に映る私の背後の人達が全員私を見つめていた。
もしかしたら私ではなく、私の前にある扉を見ているのかもしれない。
でも私はかなりのチビのため、扉を見ようとするなら私の頭よりも
視線が上に向かうはずなんだ。
確実に私の背後の人達の視線は私の後頭部あたりに
集中していて、扉を見ているとは思えない。
冷や汗がどっと出た。怖い。でも振り返れない。
乗り込んだ直後から私の右斜め後ろで、のり合わせた同僚と
話している女性の声がしていたんだけど、エレベーターの
扉に映る人の誰も口を開いたりしてない。
ずっと無表情でこっちを見てる。
どうして良いかわからなくて、視線が逸らせずにそのまま
背後の視線を目だけで追ってた。
ほんの数十秒がまるで何十分みたいに感じられた。
エレベーターが一階について扉が開いた瞬間、
ダッシュで飛び出して振り返らないでビルを出たけど…
一体、何だったんだあれ…
ただの見間違いとか白昼夢なら良いんだけど…