子供の頃おばあちゃんの家に1m60くらいのでかい柱時計が
あって、その振り子の揺れる音が嫌だった。
普通の振り子は〝カッチ、カッチ〟って音を想像するだろうけど
おばあちゃんの家のは違って。
でっかい振り子が〝ギィ、ギィ〟って揺れる音がしてた。
おばあちゃんの家ではいつも二階で寝てたんだけど。
寝てる部屋の入り口のすぐ脇から一階への階段が伸びていて、
階段を降りたすぐそこに柱時計があった。
だからいつも、夜寝静まると階段の方から柱時計の振り子の
音が聞こえてくる。延々と。
その音だけで不気味かもしれないけど、自分が嫌なのは
音そのものじゃなかった。
一階から二階への木製の階段を踏みしめた時の
〝ギィー、ギィー〟って音が振り子の音に似てたんだよ。
だから、まるで誰かが階段を登って来てるみたいに聞こえるわけ。
でも実際は振り子の音だから、その音は延々と鳴り続ける。
真っ暗な中、聞こえ続ける音と何かが階段を登ってくるイメージ
を想像してしまって。いつもなかなか寝付けなかった。
少し怖かったけど。親と同じ部屋だったし、毎回だから慣れてた。
続きます
続き
で高校くらいになって久しぶりにおばあちゃんの家に行ったとき、
一時期置いてなかった柱時計が、昔と同じ階段のそばにあった。
「あーこの振り子の音が不気味だったんだよなー」と前述した
事を思い出した。
が、柱時計の振り子の揺れる音はほとんど無かった。
耳を近づけると〝キィ、キィ〟と小さく聞こえるくらい。
「あれ?」っと思いつつ。音が鳴らなくなったのか、記憶が
間違ってるのか少し考えた、まあ音がならなくなったんだろうと
次は階段を登ってみた〝ギィー、ギィ〟「そうそう、これこれ」
こっちは記憶どおりの音だ。
「確かにこの音だな」とそのまま二階に上がり寝ていた部屋を
確認する。
階段からすぐそこの部屋の入り口、その近くで寝ていた。
振り向いて一階をみる。柱時計が少し見える。
なんか、思ったより遠い。
というか一階から二階まで聞こえる音ってありえない。日常的にかなりうるさいはず。
でも振り子の音がうるさいとかの記憶はない。
実際に昔、振り子の音が鳴っていたとしても、とても二階に
届く距離じゃないし、思い返すと夜寝る時以外に振り子の音を
聞いた事がない気がする。
ただ確かに、眠る前に真っ暗な部屋で延々と聞こえる
階段からの音は覚えてる。
木材が軋むような〝ギィー、ギィー〟って音。
踏みしめてる階段と同じ音だった。
一階でもう一度振り子の音を確認した
音は当然ちがう。
もう一つ気づいた、振り子の揺れるペースが、眠る前聞いていた
あの音よりずっと早い。
あの音はもっとゆっくりだった
それこそ人の歩く間隔のような
真っ暗な階段で延々と鳴ってたあの音は何だったんだろ
そして自分はなぜ振り子の音と思い込んだんだろ