数年前、風邪をこじらせて入院することになった時。
部屋は5~6人用だったけど結構空いていて、俺と同じく今日から入院だという
おっさんの他は誰もいなかった。
おっさんは検査入院だそうで、点滴打たれてぐったりの俺とは違い普通に元気だった。
暇だったのか「学生さん?」「家近いの?」「この部屋意外と眺めよくない?」等と
やたら話しかけてきて、俺は「はぁ」「そっすね」と何とか返事を返していた。
おかげで消灯時刻になって会話が止んでからも目が冴えてしまい、入院初日から
完徹することに。
翌日、おっさんは朝から検査に行き、俺は点滴打ちっぱですることもなく、体はだるく、
ひたすら外眺めたり昼寝したりしてた。
午後になっておっさんが帰ってきて、身支度を始めた。
「もう退院なんですか?」
「ああ、もともと検査で一泊だけだったから」
そう言いながらおっさんは眠そうにあくびしてた。
おっさんも寝られなかったのか?と思って見てたら、「それにしても昨日の夜は
ひどかったな」とおっさんが。
一瞬、病人の俺に配慮せず話しかけ続けたことを反省してるのかと思ったが、
そうじゃないらしい。
適当に「はぁ…」と相槌を打つとおっさんは更に続けた。
「夜通し女の悲鳴がうるさくて眠れなかったよ。近くに精神科でもあるのかね」
……俺そんなの聞こえなかったんですけど…。
その時は体調が最悪だったのと看護師の下手くそな点滴がめちゃ痛かったのとで
あまり気が回らなかったが、今思うとよくあの状況であれから一週間一人で
入院できたなぁと思う。
おっさんは嘘をついているようにも見えなかった。
一人残される俺にあんなこと言いやがって絶対に許さん。
と思ったが、おっさん退院時迎えにきたおっさんの家族がお菓子くれたから、
まあ許すことにした。
病院てやっぱりなんかあるのかも。