店に並べられている骨董品の中には一挺のバイオリンがあった。
バイオリン 1/3
ある町の骨董屋。
店に並べられている骨董品の中には一挺のバイオリンがあった。
ある日、店に一人の男の子がやって来ると、店の主人に
「あのバイオリン、いくらですか。」
と訊いてきた。
主人が値段を言うと、男の子は
「・・・全然足りないや。」
とうつむいてがっかりした様子だったが、顔を上げると、
「お金もって、また来ます。」
と言って帰っていった。
数日後。
主人は男の子が新聞配達のバイトを始めたことを偶然知る。
男の子は、その体には大きすぎる自転車に新聞を積んで坂道を登っていた。
一生懸命ペダルをこぐ男の子の姿を、主人はじっと見つめていた。
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それからしばらくたったある日。
主人がいつものように店番をしていると、身なりのいい男性が店を訪れた。
男性は店の中の骨董をいろいろと眺めていたが、バイオリンに目を留めると、主人に向かって
「あれはいくらかな。」
と訊ねてきた。
主人が
「いえ、あのバイオリンは・・・」
と口ごもると男性は、
「なんだ、売り物じゃないのかい。しかし、私はあれが気に入ったんだ。これでどうだろうか。ぜひ譲って欲しい。」
と、バイオリンの値段の何倍もの額のお金を取り出し、主人の前に置いた。
主人は思いがけない金額を前にして、少しの間考えていたが、やがて
「申し訳ありません。やはり、お売りするわけにはいきません。」
と男性に告げた。
「やっぱりダメか。残念だが、仕方ないな。」
そう言うと男性は帰っていった。
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それから数ヵ月後。
「あのバイオリン、まだありますか?!」
新聞配達で貯めたお金を持って、男の子が店にやってきた。
しかし、店の中にバイオリンは見あたらない。
男の子がキョロキョロと店内を探していると
「待ってたよ。」
主人は男の子に微笑みかけ、あの日以来、誰にも買われないように
奥の棚にしまっておいたバイオリンを持ってくると、男の子の前に差し出した。
ぱあっと笑顔になった男の子が目をキラキラさせて、バイオリンを手にしようとしたその時。
「 バ キ ン ッ ! 」
主人の手がバイオリンをへし折った。
呆然としている男の子に向かって、主人はうれしそうに一言。
「 これが私の楽しみ。 」